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きょうの社説 2009年11月8日
◎陳情処理の新ルール 地方の戸惑いも致し方なし
民主党が、自治体や各種団体から政府に寄せられる陳情の処理に関する新しいルールを
決めたのを受け、同党石川、富山県連が陳情の窓口となる組織を新設する。鳩山由紀夫首相の下で行われる初めての予算編成に向けて、「地方の声をどのように政府へ届ければいいのか」と困惑していた自治体関係者らに、一応の道筋が示された格好だ。果たしてうまく機能するのか。いささか心配でもあり、戸惑いは消えていないようだが、これも政権交代の影響とあれば致し方ないだろう。新ルールでは、石川、富山県内の自治体などの陳情は、民主党県連を経由して幹事長室 に伝達される。幹事長室では、各省庁担当の副幹事長が集まった要望事項に優先順位を付けた上で、政務三役に届けるという。これまでのように首長らが陳情書を手に霞が関へ出向いても、受け付けてもらえなくなるわけだ。 民主党の地方組織が、自治体などの多種多様な事業の詳細な内容や必要性、効果などを きちんと把握し、幹事長室に伝える処理能力を備えているのか。たった14人しかいない副幹事長だけで全国から殺到する陳情を円滑にさばき、細かい個所付けなども含めて優先度を適切に判断することができるのか。不安な点を挙げればきりがないが、頭を切り替えて、とにかく新ルールに沿って動いてみるしかない。不都合が生じた時には、走りながら対応を考えればよい。 小沢一郎幹事長は、陳情の処理を通じて生まれる族議員的な癒着の構造を断つために新 ルールを設けたと説明している。予算編成に当たる政務三役が、陳情対応に忙殺されるのを避けたいという思惑もあるに違いない。政権交代を機に、前政権時代の「悪弊」を改めようと意欲を燃やすのは当然のことである。 ただ、その結果、地方の切実な課題がたなざらしにされたり、正確に伝わらなかったり ということが頻発しては困る。民主党の国会議員、地方議員の責任は重い。政策能力をさらに磨き、アンテナを高くして、地方の声を漏らさず拾い上げる努力をあらためて求めておきたい。
◎「義務付け」見直し もの足りない「政治主導」
国が法令で自治体の仕事を全国一律に縛る「義務付け」の見直しについて、各府省の回
答状況がまとめられた。全国知事会など地方側が要望していた104項目のうち、府省が見直しに応じると回答したのは62項目で、政府の地方分権改革推進委員会の勧告通りの実施は28項目にとどまった。原口一博総務相は「地域主権改革の大きな第一歩」と評価したが、決して胸を張れる内容ではない。これまでゼロ回答だった府省の姿勢が変化したのは確かながら、見直しに当たって鳩山政権が強調する政治の主導力が十分発揮されたとは言い難い。国の義務付け規定は約8400項目もある。地方分権委は昨年の第2次勧告でその半分 の約4千項目の抜本的な見直しを提言し、今秋はさらに絞り込んで892項目の廃止・緩和を勧告した。 自治体側はそのうち104項目の実現を特に強く要望したが、府省が見直すという62 項目のうち34項目は分権委の勧告とは異なる形の見直しであり、官僚主導の印象が否めない。大臣ら政務三役による、文字通り政治主導の見直しをさらに進めてもらいたい。 今回の義務付け見直しで焦点になった項目の一つは、保育所の設置基準である。現在は 保育室、屋外遊戯場の幼児1人当たりの面積や人員配置基準、調理室の必置規制などが省令で細かく決められている。地方側は地域の実情に応じて開設できるようにするため、基準の設定を自治体にゆだねるよう求めている。これに対し厚生労働省の回答は、国の一律基準を原則維持し、保育所の待機児童問題が深刻な東京都など大都市部に限って一定期間、面積基準を緩和するというものだった。 国の基準をなくすと保育の質が低下するという声が根強く、厚労省もそのことを国の基 準維持の理由の一つにしているようだが、地方分権で自治体の自主・自立性を高めるという義務付け見直しの趣旨と、行政サービスの質の問題は本来、別のものである。地方に基準設定をまかせると保育の質が下がるといわんばかりの論は、自治体には不本意であろう。
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