国内産の新型インフルエンザワクチン(サンプル)の瓶。左が10ミリリットル入り、右が1ミリリットル入り
約10%のワクチン液の節約が期待できるという注射器=テルモ提供
新型の豚インフルエンザのワクチンを一人でも多くの希望者に打とうと、医療従事者用に接種量を少しずつ減らしたり、無駄が出ないようワクチンの注射器を変えたり、「あの手この手」の不足解消策が試みられている。ワクチンの生産量に限りがあり、全体的に不足気味だからだ。
●接種量を減らす病院
東京都健康長寿医療センター(板橋区)では、医師や看護師に接種する際、1人あたりの接種量を従来の0.5ミリリットルから、0.45ミリリットルに減らすことにした。
ワクチンが必要な医師や看護師は600人以上いるが、届いたのは550人分。院内で検討し、接種量を、基準より1人あたり0.05ミリリットルずつ減らすことで、全員に打てるようにするという。
あくまで医療従事者に限っての「苦肉の策」だ。費用は病院の負担。健康な成人に対する国の臨床試験では1回の接種で十分に抵抗力がついたことを示す指標(抗体価)が上がっており、0.05ミリリットル減っても、一定の効果は見込めると判断した。
稲松孝思・感染症内科部長は「医師や看護師の間で感染が広まれば、手術などにも支障が生じ、患者さんにも影響が及ぶ。必要な対象者にはすべて接種したい」と話す。
●節約できる注射器も
医療機器メーカー大手のテルモ(東京都渋谷区)は10月19日、インフルエンザワクチン用の新しい注射器を発売した。これまでの注射器は内部にワクチン液が残ってしまい、有効利用できない分があったため、注射器と針の接続部分を改善した。
実験では0.5ミリリットルの接種時に、これまでより、残ってしまうワクチン液を約10%減らせたという。月100万本を生産する予定だ。
新型インフル対策に貢献できるとして、製造販売の承認は通常8カ月かかるところを、半分以下の3カ月で取得できたという。
●大きな瓶で生産増加
厚生労働省は当初、来年3月までの国内産ワクチンの生産量を1800万人分としていたが、9月に約2700万人分に上方修正した。その理由のひとつが、ワクチンの瓶(バイアル)の大きさだ。
季節性用ワクチンは1ミリリットル入りの瓶が使用されてきたが、新型用は海外で使われる10ミリリットルも使うことにした。大きな瓶にまとめると検査の手間が減り、効率よく生産できるという。
ただし悩ましいのは、1人0.5ミリリットル接種の場合、10ミリリットル瓶では20回分ではなく約18〜16回分になってしまうこと。瓶の内壁にワクチン液が残ってしまう無効分が出るためだ。一方、小さな1ミリリットル瓶では10本で20回分とれるという。
また、10ミリリットル瓶ではワクチンを注射器に移すのに注射針を瓶に入れる回数が増え、細菌による汚染が増えかねないとの懸念もある。厚労省は10月20日、都道府県などに10ミリリットル瓶を使う際の注意を文書で呼びかけた。(小堀龍之、武田耕太)