「ベルリンの壁」が崩壊したのは1989年11月9日だった。それから20年がたつ。
61年に当時の東ドイツ社会主義政権が、西ベルリンへの国民の逃亡を防ぐために建設したもので全長155キロにも及んだ。第2次世界大戦後の、米国と旧ソ連による東西対立の象徴的存在だった。
それだけに「壁」の崩壊は、二極対立でない新しい世界の誕生を期待させた。ポスト冷戦の国際社会の課題は、紛争や戦争のない世界の実現だったはずだ。
しかし、結果は世界の現状が示している。
冷戦時代には影を潜めていた民族紛争が各地で多発し、いまだに続いている。イスラエルとパレスチナの対立はやむ気配がなく、中東は相変わらず火薬庫のままだ。
新たな脅威としてテロが加わってきた。北朝鮮などの例が示すように核兵器の拡散も進んでいる。
平和どころか、対立はイデオロギーだけでなく民族や宗教が加わって多極化し、その構図はより複雑化している。
国際社会は、いったい何をしてきたのか。各国はせっかくめぐってきた大きなチャンスを見逃した。20年間を無為に過ごした罪は大きい。
冷戦時代は旧ソ連と米国、東西の軍事力のバランスが世界の安定をもたらしていた面は否定できない。
ベルリンの壁崩壊は東西ドイツを統一させ、冷戦を終結させたが、旧ソ連をも崩壊させた。この結果、相対的に軍事力を巨大化させた米国の独善を招くことになった。
米国は湾岸戦争を主導し、ユーゴスラビア空爆を進めた。米中枢同時テロ後はアフガニスタンとイラクに部隊を派遣した。
しかし紛争やテロの危機を取り除くことはできなかった。逆に多くの敵をつくり、反米感情を招いた。ポスト冷戦の世界を構築できなかったばかりか、かえって混乱に陥れた米国の責任は重い。
冷戦終結はまた、経済のグローバル化を世界中に急激に進展させた。各国は競争原理にさらされ、経済的不平等はいちだんと広がった。南北間の経済格差は、21世紀の新たな壁といえる。
いま、北大西洋条約機構(NATO)の拡大やミサイル防衛の東欧配備は、ロシアをいらだたせている。新たな冷戦を生む材料になりかねない。欧州を再び東西対立の状態に戻す愚は避けなければならない。
オバマ米大統領は国際協調を重視し、核廃絶を掲げるなど、ブッシュ前政権とは一線を画している。
国際社会は軍事力に頼らない世界の在り方を真剣に議論しなければならない時期にきていよう。ベルリンの壁崩壊20年をその契機にしたい。