<リプレイ>
●Irregular 「ここは佐白山が妖狐の陣屋です。何か御用ですか?」 「東北より精鋭十騎、御要請により罷り越しました!」 砦の門前に立つ番兵に入り口を阻まれるや否や、赤金・茜(銅の鎧巫女・b13957)はよく通る声でそう言った。 「東北? するとあなた方は……」 「はい。皆様のお力添えをするために参りました」 問い返した番兵に桐嶋・千怜(萃禍・b01805)が恭しく頭を下げる。 それを聞いた番兵たちは緊張から一転、とても嬉しそうな表情で門を開けてくれるのだった。 「それは本当か!」 「待っておりました。さあ、中へ!」 とてもあっさりと。 何事かと顔を出す妖狐たちに、 「おまたせ、東北から助けにきたよ〜!」 水原・椎奈(陽だまりの姫君・b31817)が笑顔を振り撒くと、「本当に来てくれたのか!」とか「歓迎するよ!」といった声があちこちから飛んできた。 10人の能力者と3体の使役ゴーストたちは門から少し歩いた所にある休憩小屋のような場所に通された。 「こちらで暫しお待ちを」 案内を務めた番兵が下がり、能力者たちだけが残された。 「何だか思った以上に歓迎されましたねー」 粗末な造りながらも綺麗に整えられた小屋の中をぐるりと見回す釜崎・アイリーン(ホームレス小学生・b45268)。 神農・撫子(おにしるべ・b13379)は頷くと、 「とても争いごとをしている雰囲気ではありませんね」 外では通りすがりの妖狐たちが物珍しそうに氷室・まどか(小学生雪女・b51391)たちを眺め、こちらに気がつくと笑顔を見せる者すらいた。 それから数分もしない後。 「これは皆さま、よくぞ参られました」 数人の付き添いの妖狐と共に一人の女性が小屋へと入ってきた。 「砦の部隊を統括する役目をしております菜凪と申します」 言っても格好だけですが、とまだ若く美しい部隊長は笑う。 「雪女の土御門香月と申す者です。よろしくお願い申し上げます」 「……イチと申す」 丁寧に頭を下げる土御門・香月(氷月に降る淡い蒼雪・b63217)に続いて新町・果(約束の地・b28478)が元気よく、そして目を閉じて静かにお辞儀をするアイン・ヴァールハイト(コキュートス・b22629)。 全員が簡単な自己紹介を終えるとアインは頭を下げた。 「他の集落と連絡や話のすり合わせで遅くなった……申し訳ない」 「ん? ああ、気になさらないでください。其方にも事情はあるでしょう」 「それと……連絡等に時間をとられて、すぐ動ける者だと歳若い者しか集められなかった」 霧島・燐(神技流空手伝承者の内弟子・b29825)は念のために弁解をしてみるが。 「我輩、まだ元服前ではあるが、実力を買われて今回抜擢されたであるよ」 「とんでもない。若い力を貸していただけるとは、とても感謝しています」 彼女の言葉は嘘や社交辞令ではないように思えた。 それからしばらく和やかに差し当たりの無い会話が続くと、菜凪は腰を上げた。 「さて、いつまでもこのような場所で話をしているのも客人に申し訳ない。奥の間まで――」 案内しましょう。そう言いかけた時だった。 「援軍が来たというのは本当かっ!?」 嬉々とした声色で少女が滑り込んできたのは。 「あ、あやめ様! 客人の前で失礼ですよ!」 「あ、すまない。嬉しいあまり、つい」 あやめと呼ばれた少女はぺこりと頭を下げ、そして能力者たちに顔を向けた。 「え……?」 少女の腰まで伸びる黒髪、金色の瞳、薄い褐色の肌、そしてその凛とした顔……それはまるで。 「武曲……?」
●Elder 「そうか、知人に似ていたのか」 「少し驚いたであるよ」 「うんうん。髪型を変えればもっとそっくりになるかもね〜!」 あやめと並んで歩く燐と椎奈は、彼女が知り合い――つまり武曲と外見がとても良く似ていた事を説明していた。 今、能力者たちはあやめに連れられて砦の中を案内してもらっている。 本来は菜凪の仕事だが、あやめが強引に役目を奪ったのだった。 外側から円を描くようにぐるりと施設を巡り、やがて敷地のほぼ中央に位置する建物の前までやってきた。撫子は少しの間それを見上げた後、あやめに訊ねる。 「立派なつくりですね。ここは?」 「住む者が集まって話し合いを行ったり、長老が住む屋敷になっている。遠慮は無用だ、入って欲しい!」 あやめに押されるように能力者たちは神殿の門をくぐった。 中はやはり質素ながらも丁寧に掃除がされていたり、整えられた庭が目を楽しませてくれる。 「どこに行っても綺麗でとても落ち着くであるな」 「そうだろう! この砦の自慢のひとつだ」 やがて能力者たちは会議室のような広い部屋へと案内された。 そこには先に到着していた菜凪と他数人の妖狐。 「すみませんあやめ様。やはり無理でした」 「おお、これはこれはお客人。どうかこちらへ……ごほっ」 そして年老いた妖狐が鎮座していた。 それを認めたあやめは慌てて老人のもとへ駆け寄ると、 「お爺様っあ、と、長、あれほど念押ししたというのに!」 ぐいぐいと肩を揺らし出した。それを軽くあしらった老人は能力者たちをゆっくりと眺望するように首を動かした。 「よいではないか。失礼、お客人。わしはここにいる妖狐たちの長をやっておる者じゃ」 それぞれがあらためて自己紹介。 それが済むと長老は能力者たちを歓迎する事、あやめは自分の孫娘である事、自分は少し体調がすぐれないのであやめに長の代理をしてもらう場合がある事などを咳を交えながら伝えた。 「……よく、わかりました。お体が悪いところ、ありがとうございます」 アイリーンが言うと、それは自分が説明したかったとあやめは頬を膨らませた。 「あやめ、お客人に茶でもお出ししなさい。ごほっ」 周りの妖狐たちは「あやめ様のお茶は格別だぞ!」などと盛り立て、あやめはムッとしたまま奥へと引っ込んでいった。 「さて」 長老は表情を引き締めると、鋭い眼光で能力者たちを射抜いた。 (「重要な話でもあるのだろうか」) 千怜は息を呑んで長老の次の言葉を待った。 「……別嬪さん揃いじゃのう」 「え? あ、はあ……」 「長!」 「おおすまんすまん。えー、そうじゃな。ごほっ、何から話そうかのう」 「では、戦況について詳しくお聞かせ願えますか」 香月は許可を得ると、現状を把握するために幾つかの質問を投げかける。 「まず、何故土蜘蛛と戦うことになったのでしょうか」 「ふむ。その原因は……わしらにもあるのかもしれん」 「と言いますと?」 少し前の事。佐白山に『棲家が無くて困っている』と現在の土蜘蛛の女王が妖狐たちのもとへやって来たのが事の発端だという。 女王が暫くでいいので山に住まわせて欲しいと頭を下げてきたので、棲家が無いのは可哀相だと妖狐たちはその願いを快諾した。 「じゃが、女王ははじめの頃こそわしらにもいい顔をしていたが……げほっ、その内に態度が変わっての」 鋏角衆を生み出し、力をつけ出した女王はやがて妖狐たちを山から追い出そうと戦いを仕掛けてきたのだった。 「わしがもう少ししっかりしていれば……ごほっ」 「それでは一方的に……」 アインの言葉に「困ったもんじゃ」と頷く長老。 「わかりました。では皆様と、敵勢との戦力差は現在どの程度でしょうか」 「仔細については……分かりません」 長老の代わりに菜凪が答えた。 香月は最後に、と長老と菜凪に顔を向ける。 「今後の方針についても、お聞かせ頂けますか」 「やっぱり偉い人たちが集まって決めたりするのかな〜?」 地位が高い者を知るきっかけになればと、椎奈が付け加える。が、 「……わしらは一部の者が物事を決めるという事はせんのう」 つまり確固たる地位、というものが存在しないようだ。 その中でも長老やその孫娘というのは特別な存在のようだが。 「じゃあさ、他に味方してくれる勢力はいるの? 信用できそうかな〜?」 「今頼れるのは東北の方々だけじゃ。おお、笠間とかいう連中が助け舟を出すとか言っとったが」 「うんうん」 「これまで関わった事のない余所者は、信用ならんしの。ごほっ」 「なるほど……」 その後、あやめが振舞ってくれた淹れ立てのお茶を頂き、簡単ながらも歓迎の宴を開いてくれたりして――夜が更けていった。
●Dialogue 後日。 「千怜、おはようー!」 「今何かしているのかな? 仕事があれば手伝おうと思うが」 「柵や壁が壊れていないか見回っているんだ。簡単だけど暇な仕事さ」 「補強が必要そうな部位を見つければ良いのかな?」 「手伝ってくれるの? 助かるよ千怜ー」 「そのための援軍でもあるからね。何より、防壁には土蜘蛛の軍勢を防ぐ重要な役割を果たしてくれないといけないからな」 「土蜘蛛かー。最近は動きがないから、このままどっかに行ってくれると助かるんだけどなー」 「そういえば、土蜘蛛はどれくらいの数がいるのだろうか」 「さあ? でも何となく数ではこっちが負けてるんじゃない?」 「そうか……。では仮に数で負けているとして、それを打開して勝利する術というのは何か思いつくだろうか?」 「んー。そもそもこっちから戦いは仕掛けないだろうからなー。よくわかんないや」 「防戦一方なのか」 「あはは、まあね。そりゃー、あやめ様に何かあろうものなら俺たちも殴り込みのひとつやふたつをするかもしれないけど。まず考えられないよー」 「……愛されているんだな、あの子は」 「何てったって俺たちの姫だからなー、あやめ様は!」 千怜は暢気な妖狐と一緒に戦火に耐えうるには少々心許ない防壁を巡り、『補修の必要はない』という彼の言葉をしっかりと耳にした。
「お団子をお持ちしました。よろしければどうぞ」 「やあ、撫子ちゃんは気が利くねェ。おまけに見張りの手伝いまでしてくれて」 「これも任務ですから。他にも出来る事がございましたら何なりとお申し付けを」 「まァそうカタくならずに気楽にやりゃァいいのさ」 「そう、ですか。ところで、何か変わった事はありませんでしたか?」 「アタイが知る限りはここ何日かはなーんもないねェ」 「土蜘蛛は」 「ん?」 「どうしてあなた方を追い出してまで山を手に入れようとしているのでしょう」 「ンー。アタイは難しいコトわかんねェけどさ、この山は居心地イイからなァ」 「そのような単純な理由で?」 「『この山が気に入ったから欲しくなった!』とかま、そンなトコロだろうさ」 「そのようなものでしょうか」 「そうそう。撫子ちゃんとそのちっこいのも団子食う? うまうま」 砦の殆どと、外の様子をある程度見渡せる哨戒塔の上で。 撫子はモーラットピュアのマロウと一緒に団子を頬張りながら穏やかな山の空気を吸い込んだ。
「模擬戦?」 「はい。我等がどれだけ『使える』か、直に量って頂きたく存じます」 「それは私どもと茜さんたちが戦う、と?」 「お互いの実力を確認するためには丁度良いと思うであるよ」 「……何故、友である者同士が戦う必要があります?」 「それは――訓練の一種として考えていただければ」 茜や燐の言葉に、兵舎の妖狐たちは首を振ったり傾げたりしている。 結局、妖狐との模擬戦は行われる事はなかった。代わりに茜と燐、椎奈に香月が互いに組み手をしたり、的に向けてアビリティを撃ったりして自分たちの力を見せる事になった。 「さすがは東北の精鋭隊!」 「我々の精鋭と同等、それ以上じゃないか?」 とは演習を見た妖狐たちの感想。 それを皮切りに、能力者たちに話しかけてくる妖狐は激増した。 「すごいねー、名前なんだっけー」 「わたし、シーナっていうんだよ!」 「之より共に土蜘蛛めらと戦うのですから、親しくなりとう御座います」 「もちろん、仲良くなろうよー」 椎奈や茜をはじめ香月も、 「あんまり堅苦しくても変かと思って……」 普段の口調を用いるようにしたりと、妖狐たちとの距離を縮める事には成功したようだ。
「……お手伝い、しましょうか?」 「愛燐ちゃんかい。そうだねぇ、子どもたちの相手でもしてやってくれないかい?」 「子どもたちの……。任せてください」 「それでしたら、私もお手伝いさせていただきます」 「かなんも混ぜてほしいなっ」 ――長屋のような住居が連なる居住区。 そこは子どもたちの笑顔が溢れる場所だった。 「それっ、捕まえましたよ!」 「わーっ、お姉ちゃん速いよーっ」 (「これも情報ですよね……」) 鬼ごっこの鬼をしていたまどかは、つけ耳をつけた少女の捕獲に成功していた。そしてもふもふしていた。 「……あのー、いつまでそうしているんですか?」 「アイリー……愛燐さん、これはその」 「愛燐、まどか、果! すっかり人気者のようだな!」 と、そこへあやめが手を振りながらやって来た。何者かを後ろに携えながら。 「あやめさん……と、秋桐君?」 それは宴の時に紹介されたあやめと幼馴染の少年、秋桐だった。 「秋桐おにーちゃん、こんにちはっ!」 「こ、こんにちは……」 「お二人はよくこちらに?」 あやめは「ああ!」と頷く。 「見回りも兼ねてよく子どもたちと遊んでいるんだ! 少々頼りない秋桐もここでは年長者として振舞っているんだぞ!」 「……そうだったのですか」 「おや、皆ここに集まってどうしたんだ?」 大量の薪を担いだアインが通りすがり、足を止めた。 「イチ、力仕事を任せてしまっているようですまないな」 「住まわせてもらっている以上、何か仕事をしないとな」 そんなアインのもとへ、子どもたちが「イチのアニキだー!」とわんさか集まってきた。 頭を撫でながらアインは呟く。 「ここはいい所だな」 「そうだろう! ……だから、私は何としてもこの山を守りたいのだ。な、秋桐!」 「あ、うん……そう、だね。でも……」 「……」
夜も更けた頃。仕切りのある同じ部屋に寝る事になった能力者たちは誰にも気付かれないように注意しながら情報の整理を行っていた。 「やっぱり、ここの妖狐たちは戦いに対する心構えみたいなものが感じられないであるよ」 燐の言葉に千怜と撫子も頷く。 「あまりに無防備すぎますわ」 「相手の戦力はおろか、自分たちの戦力もきちんと把握していないようであるな」 「かなん、お墓にも行ってみたんだけどね」 念の為に断末魔の瞳を使ってみた果だったが、この能力はあくまでも対象となる人物が死んだ現場でないとその効果を発揮する事はない。 「ここ一週間ほどは大きな戦いもなく負傷した兵はいないとの事でした」 まどかによると銀誓館学園の能力者がそうであるように、治癒能力をもつアビリティを使う妖狐もいれば大きな傷を負っても一週間以内に完治してしまう、との事だった。 「そういえば使役ゴーストはこの時代にもいるような話でしたね」 「しーちゃんともみんなお友達になってくれたよっ」 「友達……あやめや秋桐とも少しは仲良くなれただろうか……」 それぞれの話を統合してわかった事はひとつ。 この砦は。 のんびりし過ぎている。
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参加者:10人
作成日:2009/11/04
得票数:楽しい62
笑える1
怖すぎ2
知 的17
ハートフル9
せつない6
えっち1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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