(cache) 「ダビデの星」はなかった

上記ヨセフ・ギンズブルグのインタビューを読んで、いわゆる「ダビデの星」に対する疑問が湧いてきました。そこで少々調べてみましたよ。

Online Dictionary に行くと、ウェブスター辞書の1913年版を引くことができます。古い辞書に載ってない項目はWordNetのようなフリー辞書の記事が検索結果に出ます。

Hexagram(六芒星形)を引いてみた結果です。(a)は幾何学図形としての説明、(b)は易の六爻についての説明です。「ユダヤ」に関する記述は全くありません。次に「Star of David」(ダビデの星)を引いてみると、ウェブスターには項目がありません。「David's star」、「David's shield」(ダビデの楯)、「Shield of David」で引いても、ウェブスター1913年版にはやっぱり項目自体がありません。

「Solomon's seal」(ソロモンの封印)でやっと六芒星のことが出ました。しかし「ユダヤ」という言葉は全くありません。「神秘的シンボル」と書いてあるだけです。ソロモン王はおとぎ話では偉い魔法使いだったということになっているので、「ききみみずきん」みたいな「ソロモンの指輪」とか、鬼魅を使役して神殿を建てた、というお話が伝えられています。西洋のオカルト文献では六芒星の形を「ソロモンの封印」というのが一般的だったようです。

1906年版の『ユダヤ百科事典』は、著作権切れでパブリック・ドメインとなっており、ネット上で無料公開されています。探してみると、「MAGEN DAWID」という項目がありました。DAVIDと綴りが違いますが、「ダビデの楯」のことです。この項目の中でも「ダビデの星」という言葉は一切出て来ません。

「ダビデの星」という言葉は、大正時代はじめ頃にはアメリカの字引きに載るほどポピュラーではなかったし、ユダヤ人の側も「ダビデの星」という名前は使っていなかった、ということがわかりました。現在では俗に「ダビデの星、ヘブライ語でマゲン・ダヴィッド(ダビデの楯)」と説明されることが多いのですが、「ダビデの星」という言葉は実際にはいつ出現したのでしょうか？

エチオピアは古代イスラエルのソロモン王とシバの女王の末裔をもって任ずる王室を頂く国でありました。1874年、皇帝ヨハンネス四世は、「ソロモンの封印」勲章を制定しています。

(図1：エチオピアの「ソロモンの封印勲章」1874)

2. 「ダビデの楯」の起源

イスラエル・シャハク教授の書いた「ダビデの星はどこから来るのか？」(“Where Does the Star of David Come from?”) という文章があります。冒頭、この六芒星形がヘブライ語やイディッシュ語では「ダビデの楯」と呼ばれているが、いつから「ダビデの星」になったのかは知らない、との説明です。そこに書いてある「ダビデの楯」の由来を紹介しましょう。三十年戦争末期の1648年、プラハの街を防衛する民兵部隊は、寄せ手のスウェーデン軍を撃退しました。ドイツのフェルディナントIII世、民兵隊の武勲を嘉して旗印を賜うことにします。ところが、民兵の中にユダヤ人部隊もありました。ウィーンの宮廷では、ユダヤ人の印としてどんな図柄を使えば良いか知る者がありません。宮廷ユダヤ人のオッペンハイマー家にもわかりません。そこで、イエズス会に良い知恵はないか訊ねます。イエズス会の坊主輩ひねり出した結論は、
ダビデの楯

「ダビデ王、楯の紋所にみずからの名前の最初と最後の文字『D』を使うたこと必定ならん。古いヘブライ文字でDの字はギリシャ文字『Δ(デルタ)』に似たる三角形なれば、Davidの首尾の『D』の字二つを表したる三角形をば互いに組み合わせたる形にしては如何」
かくして、ユダヤ民兵隊に「ダビデの楯」をあしらった旗が下賜されることになりました。というお話です。シャハク教授は、この印は欧州のユダヤ人社会に「野火のように広がり」、十九世紀はじめにはロスチャイルド家の家紋にも取り入れられた、と続けます。

(図2: ロスチャイルド家の家紋)

上に示したのがロスチャイルドの家紋です。左上に六芒星があります。でもこれ、「ダビデの楯」のつもりなんでしょうか。三角形のかさなりあった線が描かれてないので、もしかしてトンガリが六つある単なる星なんじゃないかという疑問がおこります。というのは、

(図3：ゲーテの紋章 1782年)

文豪ゲーテがワイマールへ行った年、1782年に認可された紋章がこれです。青地に金の星だそうです。この頃、別にユダヤ人じゃなくても六芒星の図柄は使っていたわけです。

(図4：ハンブルクの紋章)

港町ハンブルクの紋章です。1241年の印章に見られるのが最も古い例だそうです。二つの星は「マリアの星(Mariensterne)」で、ラテン語でいう「ステラ・マリス(海の星)」のことらしいです。

現代の私たちは、星といえば即座に五芒星の★を思い浮かべますが、五芒星が星辰のシンボル、というか記号として定着したのはそんなに古いことではないようです。

(図5： 16世紀ドイツの木版画)
デューラーの星

(図6：アルブレヒト・デューラー『黙示録』 1497～98頃部分)
「右の手に七つの星を持ち、口からは鋭い両刃の剣が出て、顔は強く照り輝く太陽のようであった」

アウシュヴィッツの焼却炉製造メーカー、トップフ・ウント・ゼーネ社

(図7：トップフ・ウント・ゼーネ社のロゴマーク)
Topf und Soehne

アウシュヴィッツの焼却炉建設を請け負っていた「悪名高い」ドイツの業者、トップフ・ウント・ゼーネ社のロゴマークです。ジャン・クロード・プレサックの著書『アウシュヴィッツの焼却棟：大量殺戮の技術』の裏表紙(大きな画像)にあるキャプションでは、1920年から1930年までこのロゴが使われていたそうです。

さて、ロスチャイルド家の紋章ですが、上掲の図はCoat of armsとかAchievementと呼ばれる「大紋章」です。紋章Coat armourの本体はこのうち中央にあるEscutcheonと呼ばれる楯形で、それ以外はただの附属品なのです。

(図8：ロスチャイルド家のCoat armour)

楯形図案の中に配置されたさらに小さな楯形をInescutcheonといいますが、ここは赤地に楯が描かれています。このロスチャイルドの家紋について、オランダの紋章学者Rietstapの書いた説明を載せているサイトがありますので、引用します。

紋章学というのはややこしいもので、図形の説明をすること自体も「Blazonする」と呼んで、さまざまな約束ごとや習わしに従った書き方をしないといけないそうです。この英文もそのまま読んだって用語がさっぱりわからないので、紋章用語集と首っぴきで解読しなければいけません。紋章用語だと色の名前も仏語やら古語やらを使いますが、ここでOrとは金色、Azureは青、Gulesは赤、Argentは銀、Sableは黒のことです。中央の赤地に描かれた「真ん中の尖った銀のtarget」とありますが、targetというのは円楯(まるだて)のことです。そしてcrests、つまり大紋章を構成する上部の附属品の説明では二本のラッパの間にmulletとあります。mulletは紋章用語で星のことです。

やっぱり左上の星は単なる星でした。そして家名の「赤い楯」にちなんだ紋章の主役は、ありきたりの円楯であって「ダビデの楯」ではありません。

3. 醸造者の星(Brewer's Star)

http://www.beerhistory.com/library/holdings/brewerstar.shtml

(図9：ビヤ樽の星)

籠目の形は、十四世紀頃からビール醸造の印として使われていて、十六世紀の初め頃にはヨーロッパのビール醸造業者ギルドの公式の記章になっていたそうです。多くのビール醸造所がビヤ樽にこの形の商標を描いたり焼印を押したりしていたので、「醸造者の星(Brewer's Star)」と呼ばれていました。

http://www.zoigl.de/Kommunbrauer/zoiglstern.html

(図10：ビールを醸す中世の修道士とBrauerstern 1403年)

http://www.sachsen-wandern.de/weitere33.html

(図11：ドイツのビヤホールの看板)

http://www.fichtelgebirgsmuseum.de/ob_mon/archive/ob_mon2001/nov_2001.htm

(図12： 19世紀のSchankzeichen(居酒屋印))

昔は夏場の暑い盛りにビールが長く保存できなかったので、ビールのシーズンは秋から春だったということです。シーズンになって新しいビールが入ると、酒場が「ビールあります」とこの看板を懸けるのが中世からのならわしだったそうです。日本の作り酒屋の杉玉(酒林=さかばやし)に似てますね。

http://www.hausarbeiten.de/faecher/hausarbeit/jap/26573.html

(図13：明治5年横濱毎日新聞に掲載された日本初のビールの広告)

横浜の外国人居留地で売り出されたビールの広告だそうです。

「ダビデの星」？の看板

(図14：さまよえるユダヤ人)

この図は日本文芸社『ユダヤのすべて』という本に載っていた図版です。キャプションには「中世ヨーロッパで描かれた」と書いてありますが、この絵柄から言って19世紀頃の色刷り版画でしょう。フランス語の「LE VRAI PORTRAIT DU JUIF-ERRANT(さまよえるユダヤ人の真実の肖像)」というタイトルを頼りにネットを検索してみると、似たような19世紀初頭の版画が見つかりました。それはいいとして、籠目の看板が描かれています。たぶん編集者が「あ、『ダビデの星』が描いてあるから丁度いいじゃん」と思ってこの図版を選んだのでしょうが、この看板は杖をついた「さまよえるユダヤ人」が背負ってるわけではなく、相対するキリスト教徒の家屋のほうにぶら下がっているものです。つまり、この家はビールを商っている宿屋か居酒屋ということです。

ダマスカスの星

(図15：米海軍将校用軍刀に刻まれた「ダマスカスの星」)

ビールとは関係ないですが、ついでだからこの節で紹介しちゃいましょう。アメリカ海兵隊や海軍の軍刀は、鍔元に籠目印が彫りつけてあります。これが「なんでダビデの星が彫ってあるんだ？」という疑問の的になっているようで、海軍兵学校父兄会のサイトでもFAQとして出ています。この籠目印は、往年のダマスカス鋼の刀匠ギルドが刀に打っていたもので、「ダマスカスの星」と呼ばれているそうです。本物のダマスカス鍛冶の伝統は18世紀中葉に絶えてしまって、現在ダマスカス鋼と呼ばれるのは表面に細かい紋が浮いた特製の鋼ですが、これはお値段が張るためマニア向けカスタムナイフなどで使われるぐらいのようです。現在の軍刀はダマスカス鋼製ではありませんが、昔からの習わしの名残で刀身にこの星が打ってあるとのことです。海兵隊で、軍刀を支給された新米下士官が「サー、この軍刀は間違っております。自分はユダヤ人ではありません」と言った、なんてエピソードがあるそうですが、もし籠目の印が「ユダヤの象徴」として知られていたのなら、19世紀の海軍士官――今よりずっと「潔癖なキリスト教徒」だったであろう人々――はなぜこういう文句を言わなかったのでしょう。

http://www.antiques-arms.com/catalog/antique-british-naval-officers-sword-p-1365.html

(図16：こちらはジョージV世時代の英国海軍将校の軍刀)

4. 宗教、オカルティズム

上記のビール醸造ギルドの印はギリシア哲学の四大、火と水のシンボルである三角形(△が火で▽が水)をぶっ違いに組み合わせた図形でした。ここまで後回しにしてきましたが、宗教やオカルト関係の図像について見ていきましょう。

イスラム世界の「ソロモンの封印」

http://www.dzkk.tsk.mil.tr/Muze/English/Koleksiyon/Sancaklar/Orta.htm

(図17：ハイレディン・レイスの旗)

イスタンブールの海軍博物館収蔵品、オスマン帝国水師総提督ハイレディン・パシャの旗です。海賊バルバロス・ハイレディンまたはハイレディン・レイスと言ったほうが通りがいいかもしれません。

アラビアン・ナイトの船乗りシンドバッドのお話などで「我らの主、ダビデの子ソロモン(お二人の上に平安あれ)」なんてセリフが出てきます。旧訳聖書ではダビデもソロモンも世俗の王ですが、イスラム教だとなぜか二人とも「アッラーの預言者」ということになっているので、こんな崇拝の対象にもなるわけです。「でもユダヤ人の王様を崇めるのは変じゃないか」と思われる人もあるかもしれませんが、アラブ人から見ればユダヤ人も自分たちも同じイブラヒーム(アブラハム)の子孫なのだから何の違いがあるか、ということなのです。ユダヤ人の側はアラブの祖先になったイシュマエルはメカケの子だから、とか理屈をつけて「血筋が違う」と言うみたいですが、旧訳聖書のエピソードでも、アラブの伝承だとアブラハムが神へ生贄に捧げようとしたのは(正妻サラの子)イサクではなくイスマイール(イシュマエル)のほうだった、というバージョンになっていたりします。

カバラ

http://www.nikkei.co.jp/news/main/im20050331AT1G3102G31032005.html

図18：熊楠の土宜法龍師宛手紙

2005年3月、京都の高山寺で発見された南方熊楠の手紙です。4月1日付京都新聞の記事では

と書かれていました。ユダヤ教の神祕哲学、カバラで使われていた図形です。カバラ研究の権威、ゲルショム・ショーレムによると、この六芒星形はおそらくイスラム世界からカバラに導入されたものであろう、一般の敬虔なユ%@%d?M$K$H$C$F$Oc.$j$,I]$$Kb=QE*%7%s%\%k$G$"$C$F!"%f%@%d?M$d%f%@%d65$r>]D'$9$k$b$N$G$O$J$$!#$H$$$&$3$H$G$9!#
なぜここでイスラム世界が出てくるかというと、カバラというのは回教時代のスペインで栄えたものだからです。

ヒンズー教

http://www.ourmothershouse.org/images/lakshmi_yantra.jpg

図19：ラクシュミ女神のヤントラ

ヒンズーの行者が瞑想の対象とする図形、ヤントラです。いまでは銅板に刻んだのが縁起物として売られているようで、Googleで検索するとネット通販のお店が上位に出てきます。クベラ神(毘沙門様)とかドゥルガー女神(シヴァ神の奥さん)とか色々な神様のヤントラで六芒星形が描かれてます。

日猶同祖論

伊勢神宮の灯籠にダビデの星が刻んであるとかいうアレですが、もう説明の必要もないですね。ちなみに、エルサレムのヘロデ門に十六弁菊花紋が刻んであるとかいうネタもありますが、エルサレム旧市街の城壁は十字軍から奪回した後、軍事拠点として使えないように撤去されており、現在見られる城壁は十六世紀になってからオスマン・トルコのスレイマン大帝が建設したものです。ですからヘロデ門も十六世紀の建築です。

5. そしてシオニズム

1897年(明治三十年)、スイスのバーゼルで第一回シオニスト会議が開かれます。

(図20：第一回シオニスト会議入場証)

このときシオニズムのシンボルとしてダビデの星の図案が登場します。前述のとおり、16年経った1913年(大正二年)版ウェブスター辞書にもこの籠目形をユダヤの象徴とするような記述は見当らず、まだまだ一般にはおまじないの印「ソロモンの封印」で通っていたようです。

1922年、第一次大戦で英軍に占領されたパレスチナが、国際連盟によって正式に英国委任統治領とされると、大量のシオニストが欧州から入植してきます。これに対して反発が高まり、1929年に「西の壁事件」という大規模な騒擾事件が発生します。エルサレムのいわゆる「嘆きの壁」にシオニストの旗(後のイスラエル国旗)が掲げられたのが衝突のきっかけだったといわれます。当時パレスチナでは「この土地をぶん取ってユダヤ人の国にする」と公言していたシオニストの印だということが知れ渡っていたと思われます。

1933年3月23日に「全権賦与法」可決によって独裁体制を確立したナチスは、翌4月1日を期して「ボイコットの土曜日」とし、ユダヤ人の商店などに対するボイコットを呼びかけます。4月4日、ドイツ・シオニスト協会(ZVfD)の機関紙である週間新聞『ユーディッシュ・ルントシャウ』が「誇りをもって黄色のバッジをつけよう」という論説を載せます。「ユダヤ人はテオドール・ヘルツルの呼びかけに耳を傾けなかったがために大変な罪を負っているのだ」と同化主義のユダヤ人を攻撃する内容です。

http://www.bbc.co.uk/history/games/nazi_genocide_timeline/noflash.shtml

(図21：ユダヤ人商店の窓に籠目の形を描くナチス突撃隊員)

牛乳ビンに入れたペンキでショーウインドウに「ユダヤ」と書いてまわる突撃隊を店の内側から撮影した写真。ニュースフィルムで見た記憶があるので、たぶん映画フィルムのコマ焼きだと思います。これは重要なポイントですが、シオニスト以外が「ユダヤの印」として籠目の形を使った例はこの1930年代のナチスが初めてではないかと思われるのです。同時代資料のさらなる考証をまたねばなりませんが、はたしてやる人はいるでしょうか。

http://www.gwu.edu/gelman/spec/kiev/treasures/rundschau.html

(図22：ドイツ・シオニスト協会機関紙週間新聞『ユーディッシュ・ルントシャウ』1904年)

写真は1904年テオドール・ヘルツル記念特集号。ナチス党独裁が確立した1933年には、実に600紙もの新聞が発禁にされましたが、それとは対照的に『ユーディッシュ・ルントシャウ』は前年まで数千部しかなかった発行部数をこの一年間で4万部にまで伸ばしました。

ナチスが作った「ダビデの星」と鈎十字のメダル

http://www.asyura2.com/07/holocaust4/msg/309.html

(図23：ナチスの記念メダル)

レニ・ブレンナーの『ファシズム時代のシオニズム』でも触れられていますが、ドイツ・シオニスト協会の招きでパレスチナを訪問したSS国家保安本部のフォン・ミルデンシュタインは6ヶ月間の滞在から帰国した1934年、ナチス党機関紙『デア・アングリフ』紙上にシオニズム礼賛のレポートを掲載します。ゲッベルス宣伝相がこれを記念して作らせた片面が鈎十字、片面が「ダビデの星」のメダルの画像です。

『ナショナル・ジオグラフィック』誌1934年9月号は「世界の旗」特集を組んでいました。掲載された写真の一葉につけられた説明文は

英国商船旗(レッド・エンサイン)は赤地に左上四分の一のユニオンジャックというデザインです。その中に「PALESTINE」の文字をあしらったのが英領パレスタインの商船旗ですが、シオニストは勝手に作った旗を堂々と掲げていたわけです。ナショナル・ジオグラフィックの記事が「ソロモンの封印」と書いているのに注意。まだ「ダビデの星」という言葉は知名度がなかったのでしょう。

1938年8月、全てのユダヤ人に対して、男子は「イスラエル」女子は「サラ」というユダヤ名を名前につけ加えるよう義務づける法律ができます。「サラ」はユダヤ人の始祖アブラハムの正妻の名前です。

第二次大戦が勃発しドイツがポーランドを占領した1939年11月、ポーランド総督ハンス・フランクは10歳以上のユダヤ人に対して白地に青で「シオンの星(Zionstern)」を描いた腕章の着用を義務づける布告を出しています。当時ポーランドに居たザレスキ・ザメンホフの談話

ドイツ占領軍が唐突に「シオンの星」という名前を使っているのは何故でしょうか。シオニズムに関係していることは明らかだと思います。東欧はシオニストによるパレスチナ入植運動の根城でした。メナヘム・ベギンも戦前ポーランドのベタル(シオニズム青年運動組織)でパレスチナへ入植者を送り込む活動をしていたのです。

「ユダヤの星」

http://www.dhm.de/lemo/objekte/pict/Nachkriegsjahre_stoffbahnJudenstern/index.jpg

(図27：「ユダヤの星」がプリントされた生地)

1941年9月に至って、ドイツ国内のユダヤ人に対し「満六歳以上のユダヤ人はユダヤの星(Judenstern)を着けずに公共の場に出ることを禁ず」とワッペン着用が義務づけられます。第二次大戦開戦から二年、独ソ開戦からは三ヶ月、この時点ではまだドイツ軍の勝ち戦で破竹の進撃中です。そして、『ユーディッシュ・ルントシャウ』紙の「誇りをもって黄色のバッジをつけよう」という記事から8年が経っています。

「ダビデの星」はなかった

1. 辞書になかった「ダビデの星」