買われる世界の農地 日本の総面積の3分の2に
2009/10/22 17:46更新
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食料確保のためアフリカやアジアの貧困国の広大な農地を、資金力のある国や企業が売買や賃貸で「囲い込む」動きが広がり、交渉中も含め44カ国で2500万ヘクタール(25万平方キロ)に上ることが22日、民間の「農業情報研究所」(東京)の調査で分かった。これは日本の面積約37万平方キロの3分の2に相当する。背景には、国際的な食料価格の高止まりと将来の食料危機への不安があり、食料自給率が41%と低い日本としても対応を迫られている。
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農地の囲い込みは、食料自給率は低いが外貨準備の豊富な国や企業が、貧困国の政府などと農地の購入や長期リース契約を結び、収穫物を優先的に輸入するもので、食料価格の高騰が始まった2006(平成18)年ごろから増え始めた。
農業情報研究所は、元国立国会図書館職員の北林寿信氏(70)が主宰する個人研究所。農業投資に関する各国政府や企業の公式発表をはじめ、海外の報道やNGO(非政府組織)の報告などを集計した。
それによると、農業投資国・企業の国籍は、中東の産油国と中国を筆頭に欧米、韓国、台湾、日本など32カ国・地域。一方、被投資国はアフリカや東南アジアなど44カ国。これらのうちマレーシアなど6カ国は投資国と被投資国のいずれにも該当していた。
特徴は取引規模の巨大さにあり、日本の総耕地462万ヘクタールに匹敵する数百万ヘクタール単位の取引も少なくない。最大の案件は南アフリカ共和国の農業者がコンゴ共和国の土地1千万ヘクタールを99年間借用するもので、面積の総計は世界で2500万ヘクタールに及ぶ。
北林氏は「特に中国は急速な経済成長で食用油や家畜飼料になる大豆やパーム油(油やし)の需要が急増しており、これらの“自給”率を高めるため海外生産を増やしている」。一般的には地元の農民が耕作するが、中国がカザフスタンや極東ロシアで確保した農地には中国人が入植して大豆を生産している。コンゴ民主共和国(旧ザイール)では日本の総畑地を上回る280万ヘクタールのパーム油用の農園用地を確保したという。
■追われる小農民たち
アフリカやアジアの被投資国では、小農民が土地を追われる事態も生じている。西アフリカのマリでは昨年、リビア企業がコメ生産のため10万ヘクタールの土地を取得し、中国企業が用水路と道路を建設したところ、そこにあった村の150家族が追い立てられたという。
北林氏は「同様なことが各地で起きている」と指摘。国連食糧農業機関(FAO)は、かつて欧米がアフリカやアジアを直接統治した植民地主義になぞらえ、農地の収奪で間接的に支配する「新植民地主義」を招くと警告する一方、「適切な農業投資は開発の好機になる」と評価する。
7月の主要国首脳会議(ラクイラ・サミット)では、農地取得に関する国際ルールを定めることが首脳宣言に盛り込まれた。日本政府はこうしたルール作りを提案する一方、4月に外務省と農林水産省が「食料安全保障のための海外投資促進に関する会議」を立ち上げ、海外農地の取得を含めた生産活動への投資や集荷、輸送、輸出など各段階での農業投資で商社などの支援に乗り出した。
国内では三井物産がブラジルで農業企業を買収し、約11万ヘクタールの農地で日本や欧州向け大豆を生産しているのが目立つ程度だが、両省が設けた支援窓口では数件の相談が進行中という。
■国内には耕作放棄地
海外で「農地争奪」合戦が過熱する一方で、日本国内には埼玉県の面積に相当する38万ヘクタールもの耕作放棄地があり、再生への取り組みも続いている。わが国はどう対応すべきなのか。
「食糧争奪-日本の食が世界から取り残される日」の著書がある丸紅経済研究所の柴田明夫所長(58)は「海外の農地を取得することは、そこにある農村の教育や医療など社会生活全般に責任を持たねばならず実際には困難が伴う」とし、「日本はむしろ集荷など商社が海外市場で農産物の調達力を高めるような投資を行うことや、国が政府開発援助(ODA)で間接的に途上国の農業生産力を高めることなど、多角的に食料の安定供給を確保すべきだ」と指摘する。
農水省国際協力課は「農地争奪に『日本は乗り遅れるな』とも言われるが、われわれは世界の食料増産に貢献することが、ひいてはわが国の食料安全保障につながるという観点から、農業投資を促進している。農地の取得も選択肢の一つではあるが、それが収奪と呼ばれないような方向を目指している」と話す。
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