昨今の金融市場はおかしくなっている。これについて、ブルーブバーグで興味深いコラムがあったので、ご紹介しておこう。
ドルや債券相場が合理性を失った世界-M・ギルバート
「相場は知識の宝庫だ」と言っていつもわたしを怒鳴る上司がいた。市場の効率性を信じるか否かにかかわらず、以前は、債券や為替、商品の相場が経済成長やインフレ、金融政策の先行きを何かしら伝えようとしていると確信できたものだ。相場に耳を澄ませて、それを言葉に直せば良かった。
今や状況が変わった。量的緩和策と景気刺激策、ゼロ金利政策が相まって、市場は歪み、原形をとどめないほどに変わってしまった。
端的に言えば、10年物米国債の利回りとドル、ユーロの適正水準や、銅ないし金を買うべきなのか売るべきなのかなどについて、合理的な議論がほとんど不可能になっているのだ。最近、政府が熱心に介入を図った結果、以下のような市場の狂いが生じた。
1) 束縛からの解放、現実からの遊離
10年物米国債の利回りは約3.5%と、5年間の平均4.14%と、20年間の平均5.57%を大きく下回っている。しかし現在の利回り水準は、信用収縮のさなかの債務担保証券(CDO)相場と同じくらい信頼性を欠いている。
買い取りを通じた米当局の債券市場維持に向けた努力に加え、商業銀行が高信用の米国債によってバランスシート上の穴を埋めようとしていることが要因となり、米国債利回りは現実からかけ離れた水準になっている。
債券相場から判断すれば、米財務省が今年10-12月(第4四半期)の所要借入額として2760億ドルを、来年1-3月期(第1四半期)には4780億ドルを見込み、来月中に12兆1000億ドルの債務法定上限を超えると予想しているなどとは思いもよらないだろう。
世界中で現在進められている巨額のケインズ的実験が裏目に出て、インフレを引き起こすのではないかとの懸念があったとしても、まだ米国債市場には広まっていないようだ。しかし、ひょっとしたら金市場には伝わったかもしれない。金相場は年初来で25%上昇した後、今週には1オンス=1095ドルと過去最高値を更新した。金の最高値が10年債相場にまったく反映されないほど、市場はおかしくなっている。
2) 欧州の信用市場
ドイツ銀行がまとめたデータによれば、欧州の社債を保有する投資家のトータルリターン(総投資収益率)は今年15%強となっている。金融機関が今年発行した劣後債は26%を超えた。欧州の高利回り市場では、ジャンク債のリターンは何と67%に達した。
しかし、この上昇を真に受ける人は少ないだろう。他に良い投資先がないため、過剰資金が見境もなく信用市場に再び殺到していることがその原因だからだ。格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスによれば、欧州の高利回り企業のデフォルト(債務不履行)率は7-9月期末に9.3%と、3カ月前の6.4%から上昇した。
ムーディーズは、ジャンク(投機)債の破たんの割合は10-12月期に10.9%とピークに達し、その後、今から1年後には6%に下がると予想している。しかし信用収縮がもたらした壊滅的な景気悪化を考えれば、これは余りに楽観的なように思われる。
社債が株式のようなリターンを約束するほど市場は狂っている。株式のようなリターンをうたうということは、株式投資のように元本を失うリスクに投資家は備える必要がある。
3) 円とドル
日本経済はここ何年もの間、変調をきたしている。4-6月期の実質GDP(国内総生産)伸び率は前期比年率2.3%と、当初予想の3.7%を下回った。一方、米経済は7-9月期にプラス3.5%成長とリセッション(景気後退)を脱却し、その柔軟性と耐久力が称賛された。
しかし、投資家の間では現在、両国の通貨は連動していると見られている。リスク回避傾向が強まれば、投資家が安全資産へと逃避することから円とドルは上昇する。リスク選好が高まれば、円とドルはともに売られる。その上、現在ドルは安価で便利なことからキャリートレードで好んで借りられている。円が安全な投資先と受け取られ、ドルが世界的なバブルの触媒に選ばれていることを見ても、市場が狂っていることは明らかだ。(マーク・ギルバート)
【ブルームバーグ2009/11/06】
以上だが、狂っているということは、これまでの理論やテクニカルな技術などを駆使したところで予測は不能になるということである。狂った市場を支配するのは、感情と思惑である。
資金力のある者の意思が市場を動かしているのである。
来週、日米首脳会談、財務相会談が控えている。また、米国債、日本国債の入札も控えている。オバマ、ガイトナーの思惑が市場を動かす可能性があるのだ。(裏情報では、米国債購入を迫られるが、政府はそれを拒否すると言われる)
株式市場も悪材料が多く急落する公算が高い。金価格があっさり1100ドル台を突き抜け、1200ドルを射程内にすることも予想される。やがて、上昇ペースが加速していき、年末までに1500ドルを越えていくだろう。
G20財務相・中銀総裁会議で秘密裏に、各政府・中銀の金購入が決められた可能性があるのだ。先日はインドが中国を出し抜いた格好となったが、ついに日本も名乗りを挙げていることも十分が考えられるのだ...。