「騙される方が悪い」なんて...
私は、小さい時の体験のせいで、「愛」とか「優しさ」というものがどういうものかがはっきりわからなかった。
具体的には、身近に「あんたのことを大切に思っているから」と嫌やなことを命令したり、尊敬を強要されたり、私を支配しようとする大人もいたし、その反対に、とても優しい大人もいた。
だから、私の育った環境の中には、大人との色々な関係が混在していた。

気付いてみれば、「愛」というものがどういうものだというイメージが持てないまま、良好な人間関係を作る方法も良くわからないまま、大人になってしまい、年頃と言われる年を越した頃、きっと私は冷たい人間で、人との心の交流がうまくできないらしいと気付いたのだ。

その時に、エーリッヒ・フロムの「愛するということ」を読んで、今まで納得できなかったことが全て理解できるようになった。
だから、それ以来、私の近くには常にこの本があり、ここに書かれていることを思い出しながら、生きるようになった。

以下、原文どおりではないけれど、「愛するということ」に書いてあることを私の理解したまま書いてみる。

フロムの本に、「愛とは、相手の生命力を気遣い、伸ばす行為」と書いてある。
フロムは、ドイツ系ユダヤ人であり、ナチスドイツがドイツを支配し出した頃、アメリカに亡命し、ナチスドイツの行為を分析して、この本を書いたらしい。

例えば、ナチスドイツは、猛烈に、自分たちと自国民を愛し、その利益を追求した。
そのためには、ユダヤ人の財産を没収し、収容所に強制的に収容し、強制労働させ、多くの体力の弱った者、肉体労働に向かない子供や老人をガス室に送ったのだが、その当時のドイツ人から見たら、ナチスドイツの行為は、「自分たちを愛してくれる行動そのもの」であった筈だ。

フロムは言う、人間は愛を感じる対象を見出した時、皆、自分の心に溢れ出す愛を感じて、「自分は愛のある人間だ」と錯覚する。
人間だから、恋に落ちる、子供が生まれるなどの心が満たされる時、人間は自分の中で、「愛」を自覚し、自分を「愛のある人間」だと思うと。

しかし、それは、「自分が愛を感じる行為を通して、全人間・全世界を愛する」と言い切れるものでなければ、未成熟な自己愛の延長にしか過ぎなく、本当の「成熟した愛ではない」はないそうだ。

人間は、自分が愛を感じる対象への愛の深さで、自分の愛情深さを測ろうとするけれど、本当は、反対に自分が気に入らない人、愛を感じない人、憎んでいる人への態度で、「その人が本当に愛情深い人かどうか」がわかると書いてあった。

また、フロムは、「自分が優れている、有能だと思い込んでいる人間」を一番だめな人間であると書いている。
優れている人間は、やはり、自分が自然の一部であり、神によって生かされ、神によって思いもかけずに死を迎える存在であることを知っていて、自分を愛すると同時に、隣にいる他人も同じ運命であることを知っていて、自分を大切にするのと同じくらい、他人を愛せる人だと書いてあった。
(自分が痛いと感じる行為は他人も同じく痛く感じられる行為だし、自分が喜ぶような行為は、自分以外の人も同じように嬉しい行為だと感じられる、自分も他人も同じなのだと思えるだけでも良いのだ。自分と他人は、同じなのだと感じられる感覚だけでも良い。)

すなわち、人間が「自分は優れていて頭が良くて全知全能、何でもできる」と思った瞬間、その人は、ただの自惚れた無能な人間でしかなくなるのだ。
有能な人間というのは、神という存在や自然の力を信じ、自分が自然界で神に生かされているだけの存在であり、他の人間や動物も自分と同じ立場なのだということを知っている人間なのだというようなことが書かれていた。

そんなことを二三度、自分のブログやエッセイに書いたことがあった。
結構近しいネット友達の某女性が、その本を買ったこと、やはり、その本が好きになったみたいなことが彼女の日記に書いてあった。

それを私は信じていた。
しかし、その女性こそが、今話題の結婚詐欺連続殺人事件の容疑者だと知ることになった。

私からすると、「何で、あの『愛するということ』を読んだ人が、あんなことができるの?」と驚いてしまった。
よくよく考えると、彼女は詐欺師であり、ほんのちょっと読んだだけで、それを大きく誇張して書いていたのかなと思う。
もし、本当に読んでいたら、理解していたら、あんなこと、できっこないもの。

事件が発覚してから、私には、彼女に関して様々な思いがあった。
しかし、当然ではあるが、被害者やそのご遺族の方の気持ちを考え、私自身や私の家族や親戚・知人がそんな目に遭ったらと想像すると、「彼女は人間として、絶対許されないこと、償い切れないことをしてしまった」という結論には達していた。
でも、正直に書くと、初めの頃、何とか彼女を理解できるのではと、もやもやした思いが残っていたことも否定できない状態であった。

事件が公表されて、もうすぐ2週間が経つ。

昨日、ニュースを読んだら、今彼女は詐欺については認めており、「詐欺に騙される方が悪い」と取り調べで言っているそうなのだ。
私は彼女と十年来知り合いであった、その中で一度も被害に遭わずに、多少のことはあっても、基本的には、彼女を疑わず、彼女も不愉快な人ではなかった。

でも、昨日報道されていた「詐欺に騙される方が悪い」という言葉で、彼女が「詐欺でなくても、私に騙される人は、騙される方が悪い」と思っているように感じられて、何の被害はなかったものの、「私も騙されていて、彼女の方はそれに対して何の反省もなく、何も感じていないのだ」という結論に達した。

彼女は、勿論、今回の犯罪報道で、殆どの人に嫌われる存在になっていることにも、この一言で、それを加速化していることにも気付かないのだろうか?
(それにしても、彼女の取り調べ中の心ない言葉が世間に公表され、その言葉が、あんな姉を持ちながらも、これからも人間社会で生きて行かなくてはいけない彼女の弟妹・親戚にどんな影響があるのか、全く彼女が考えていないことに、未成熟な彼女の心を感じてしまう。
本当に自分のことしか考えられない人間で、今まで愛していた周囲に一番ひどいことをしていることに気付いていないのだろうか?)

また、エーリッヒ・フロムの本に戻るけれど、数年前、その本の中に書いてある重要なことが私の心にしみていなかったことがわかったのだ。

それは、簡単にいうと、「愛を交換できるのは、お互いに心に愛がある人間同士だけ、信頼を交換できるのは、お互いに信頼している(もしくは信頼がどういう行為かわかっている)人間同士だけ」ということなのだ。

それは、30年近く前に、「愛するということ」に書いてあることを座右の銘として生きていたのだけれど、実生活でうまく行かないことも多々あり、再度この本を読んだら、その部分が心に浸みたのだ。
それまでは、自分が愛ある人間になるために一生懸命で、相手にも同じ概念があるかどうかを確認しないで、もしくは、私が相手に愛を呼び起こす行動をすれば、自然に相手もそういう人になるのではと行動していたから、うまく行かなかったのだと納得した。

それでも、その後、私は「初めて接する人」に対して厳しくないし、今でも、私の他の人に対する接し方の第一は、フロムの本に書いてあるように、「相手の生命力を伸ばすような行為」を心掛けている。
そして、その姿勢はこれからも変わらない、変わりたくないと思う。
ただ、この30年で、私には、「心に愛とか優しさがない人(=自分のことしか考えられない人)を良い方向に変えて行く力はない」と悟ったのだ。

だから、最近は、心に『(成熟した)愛の概念』とか、『他人への尊敬』がないと感じた人からは、静かに離れることも、自分に許すようになっていたのだ。
(尊敬というのは、偉い人を敬うという意味ではなく、「その人がその人であることを肯定する行為」を現わす言葉なのだそうだ。)
それは許されることだと思う。
だって、私は神様に近い人間でもなく、本当にただの平凡な出来損ないの人間だから、心に愛とか人に対する尊敬のない人間とうまく付き合えないもの。

だから、昨日の報道の「騙される方が悪い」という彼女の言葉で、私の心の中にあった、彼女に対する色々な思いが全て整理された。
彼女は、お金では買えない、再構築不可能な「他人からの信頼」を失った。

ということで、来週から、ルールを作って、ブログを再開し、正常な生活に戻ることにいたします。

以上、お人好しの私の独り言であった。(笑)
by mw17mw | 2009-11-07 08:15 | 日常生活 | Trackback | Comments(16)
トラックバックURL : http://mw17.exblog.jp/tb/10427379
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
Commented at 2009-11-07 09:58 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2009-11-07 14:17 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2009-11-07 14:42 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2009-11-07 17:40 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2009-11-07 17:43 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by mw17mw at 2009-11-07 21:43
>m〇〇〇〇uさん
覚えています、もんじゃ焼き、ベビースター入りですよね。
懐かしいです。
今度は、是非アドレスを教えてください。
Commented by mw17mw at 2009-11-07 21:47
>ぷ〇〇さん
はじめまして、コメント有難うございます。
今の時期、相当大上段でないと書けません。(笑)
今度、是非、アドレスを書き込んでくださいませ。
Commented by mw17mw at 2009-11-07 21:52
>こ〇〇〇さん
はじめまして、コメントとお気に入り登録有難うございます。
本当は11日を予定していたのですが、気短で、我慢し切れず書いてしまいました。(笑)
フロムの本、どうか、是非読んでくださいね。
今度は是非アドレスを書き込んでください。
Commented by mw17mw at 2009-11-07 21:53
>の〇〇さん
褒めていただき、有難うございます。
頑張ります、今度はアドレスをお願いいたします。
Commented by ぷらろ at 2009-11-08 03:56 x
コメントご返事ありがとうございました。

いえいえ、どんどん書いて下さったら...と言いたいところですが、
その為にココが荒れるようなことになるのも、難しいところですよね。
また、時機を見て整理がつかれたらと、勝手ながら祈っております。

で、実はBLOGは持っているのですがここ数年(爆)全く更新してお
らず、また再開したらURL書かせてもらいますね。
と言ってもしばらくは予定未定状態かなと...(笑)

兎も角も本当に考えさせられるエントリでした。
フロムの本、もし手にとる機会があればぜひ読んでみたいと思います。

PS.
超余談ですが『大上段』と言うのは私(コメ主)自身のことです、もちろん
(笑)と書いてくださっているので、多分そういうニュアンスとは思いましたが(汗)
Commented at 2009-11-08 10:50 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2009-11-08 13:23 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2009-11-08 13:29 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by フロム好き at 2009-11-08 17:24 x
私の経験上「愛についてあれこれ考える人は危険」です。
そもそも最初から愛を持っている人は、愛が空気のようにあたりまえの存在なので
ことさら愛について興味を持たず語らない傾向があります。
愛についてことさら興味を持ち言語化しようとする人は、幼少期に愛されずに育ってしまった人に多いように感じます。

愛は、とても合理化しやすい、似て非なるものに転化しやすい概念なので、
既存の自分の経験・思考と不用意に結びつけて合理化しがちです。
くだんの詐欺師も、フロムの愛の話と、騙されるほうが悪い発言とが
心の中で彼女なりの整合性が保たれていたに違いありません。
あなたのブログの一連の発言もその意味では危険な香りがします。
それは私自身が私自身を警戒するのと同じ種類の香りです。

フロムの言葉を上っ面で暗記している人は大勢います。
愛読している犯罪者など普通にいます。きっと。
それを不思議に思わないこと、驚かないことが、
「自分が優れている、有能だと思い込んでいる人間」に陥らない
といういうことではないでしょうか。
Commented by mw17mw at 2009-11-08 17:38
>フロム好きさん
貴重なご意見有難うございます。
私も「愛についてことさら興味を持ち言語化しようとする人は、幼少期にあいされずに育ってしまった人に多い」と思っておりました。(というか、そういう人しか興味を持たないと思っております)
私の場合、愛が空気のようにある環境で育たなかったので、どうしても、こういう本を頼らざるを得ません。

また、その他のご指摘も、もっともなことだと思います。
今回はびっくりしたけれど、おっしゃることは理解できますので、「自分が優れている、有能だと思い込んでいる人間」に陥らないように、微力ながら努めます。

この記事も削除した方がいいのか、考えてみます。
Commented by mw17mw at 2009-11-08 17:42
>て〇ちゃんさん
コメント有難うございます。
11日くらいから正常モードにしようと思っています。
まだまだ、試行錯誤が続くと思いますが、宜しくお願いいたします。
名前 :
URL :
非公開コメント
削除用パスワード設定 :
< 前のページ 次のページ >



天性の「美味しい!状態に執着心」がある東京台東区南部に棲息するおばさんのお料理・お菓子・道具・食材の日記です。ご自分のブログ宣伝のためのコメントは削除させていただきます。

by mw17mw
カテゴリ
以前の記事

私の本当のHPです。
合羽橋へ来てね

ブログ『「美味しい!」が好き』以前のエッセイ
1. 1998年8月~2002年12月
2. 2004年1月~2005年5月
最新のコメント
最新のトラックバック
【巣鴨】古奈屋
from 東京の美味しいグルメ
【巣鴨】古奈屋
from 東京の美味しいグルメ
入谷の竹三肉店と 手作り..
from ダ・ヴィンチのノート
藝大美術館陳列館と 合羽..
from ダ・ヴィンチのノート
企業のデザイン展
from 八丁堀女将日記
布文字看板 縮緬古布で ..
from ダ・ヴィンチのノート
チンできるわっぱのお弁当..
from ダ・ヴィンチのノート
【グルメ】太田ハム
from 子供と一緒にお仕事の日々
くちこみブログ集(ライフ..
from くちこみブログ集(ライフ)(..
焦がし葱ソース。
from 魚丸記
ライフログ
うわさのキーワード
XML | ATOM

skin by excite