■AVフリック−7 作品タイトルNO.4 〜満員痴漢電車 恥辱発・天国行き〜
「前回の撮り。あれはなぁ、騙し討ちしたみたいで悪かったと思ってるよ」
久しぶりに足を運んだ黒い月企画の事務所。
ゲオルグが表情の固いフリックに、苦笑いを浮かべて見せた。
もう1ヶ月も前のあの撮影の話だ。
カメラが回っていることも知らされず、まるで強姦のような。
フリックは相変わらず少し青ざめた顔で一言、いえ、と呟いたきり口をつぐむ。
心底嫌だ、と思っていながら、思惑通りの痴態を演じたフリックに何が言えるだろうか。
体など、自分のものではない、とそしてフリックはもの悲しく笑ったのだ。
「まぁ、今回は久しぶりの撮りだ。お前の撮影となると、ウチの若いのも2、3日前からそわそわしちまって大したタマだよ、お前さん」
「……それで、」
フリックは会話をうち切るかのように言う。
どんな撮りなんですか、と。
普通の撮影がどうしているのかは知らないがフリックの場合、撮りの当日、その場で社長であるゲオルグから大体の流れの簡単な説明を受ける。
それは企画の不親切という訳ではなく、フリックが何も聞きたがらない為だ。
前もって聞かされていると、色々と考え込んでしまう性格のフリックには耐えられなくなるのだ。
よほど土壇場の方が開き直ってしまえる。
「ああ、そうさな」
ゲオルグはフリックの反応を確かめるかのように顔をのぞき込んだ。
「今日の撮りはスタジオじゃない。初のロケだぞ……タイトルは、『満員痴漢電車・恥辱発〜天国行き』なんてアホっぽくてしてていいかもな」
ゲオルグは自らつけたタイトルの趣味の悪さに、ひとしきり肩を揺すり笑う。
フリックだけが咄嗟に言わんとする意味を捕らえかね、体を固くしていた。
ロケ?
撮影は此処で行われるのではないのか?
「だからちと大がかりだと言ったろう? 今回は電車の中でやる。なあに、心配しなくてもエキストラで固めてやるさ……こっちに任せときゃいい」
「そ、そんなッ……!」
フリックは絶句して掛けていたソファから立ち上がった。
無理だ。そんなことは出来ない。
「……出来る出来ない、は聞いてない。お前はそれで稼いでる……違うか?」
ゲオルグはフリックの胸の内を読んで、尚かつ殊更冷たく。
愕然とした。
自分が選んだというのか、こんな道。
瞬きもせず小刻みに震え出すフリック。
ゲオルグは取り出した煙草を銜え、一口深々と吸い込むと実に美味そうに煙りを吐く。
「お前さんも大概自覚を持つんだな。ウチで扱う女優の中でお前の待遇は破格だ。事実それだけお前にゃ稼がせて貰ってるがな……だからこそ今度の撮りにゃ期待も集まってる。すでに熱烈なファンもついてるの知ってるか? そら、読みゃしないだろうがファンレターなら山積みだぞ」
ゲオルグが見やる先には封筒が無造作に詰められた紙袋が数個。
時々はヤバイ野郎も居て、ザーメンまみれのエロ下着なんぞ入ってるから、と事も無げに笑う。
更にゲオルグは言った。
「……ほんの端金で、どんなプレイでもこなすような女優は吐いて腐る程居る。それでも大枚払ってお前さんをわざわざ使う意味が分かるか……? やるんだよ、下らんプライドは今すぐ捨てろ」
何を言われてもフリックの頭の中は真っ白だった。
割り切った筈だった。
そう思いこんで、そんな風に考えなければ自分が自分でなくなってしまうから。
体なんか自分のモノじゃない、と。
しかしそんな体にも頭がついていて、その上生半可に傷つく心が付きまとって。
蹌踉めくようにフリックはソファに、どさりと腰を落とした。
強張った事務所の扉の外で数人の足音がした。
ついでのノックと同時に扉が開き、のぞき込んで声を掛けようとしたスタッフが、打ち合わせの最中だったかと慌てて顔を引っ込める。
ゲオルグがちらりと腕の時計に視線を落とした。
そんな訳はないだろうに、その時計の秒針が刻む音がフリックには聞こえたような気がする。
やります、と言わねばならないのだ。
そうする他ないのだ。
舌先は硬直したまま動かない。薄ら開いた唇から、何の声も出ない。
「……フリック。どうするんだ?」
だめ押しだった。
フリックは両手の平で顔を覆った。前髪が指先に乱れ、肩が戦慄いた。
「……やります……。俺を切らないで下さい……」
掠れ声まで震える。
ゲオルグは、そうかと言って笑い、立ち上がってフリックの肩を何度も叩く。
先ほど場を外したスタッフを室内から大声で呼び寄せて、もうフリックの意思など構わずに進んでゆく今日の撮影の打ち合わせだ。
自分が恐ろしかった。
薄汚い何かになってゆく。金、売り買いされる欲望、平然とそれを受け入れる何かに。
需要があっての供給だ、とゲオルグは初めて出会った日にそう言った。
この自分。堕ちてゆく様を望む無数の視線がある。
一つ堕ちれば、もっと。
また一つ堕ちると、もっと、と。
行き着く先は何処だろう。
ぱっくりと口を開ける地獄の底すら、今はまだ見えない。
電車は好きじゃない。
無論、撮影がどうのという問題以前に、見知らぬ他人同士が隙間無く詰め込まれるこの空間が嫌いだ。
そして、フリックはホームに立っていた。
数人のスタッフが周りに居る。
何人かが肩から下げているショルダーの口から覗くレンズのことも知っている。
目眩と吐き気がした。自分が汚らしくて。
何の指示も特にはなかった。只これから来る電車に乗って体を弄くられてやればいい。
嫌なら抵抗もいいだろう、とゲオルグは適当なことを言って笑いもした。
馬鹿馬鹿しい痴漢芝居が、そしてフィルムに収められる。
ローカル線は、始発駅から終着駅まで約一時間半の運行で、各駅停車の鈍行だ。
すでにホームには電車の到着を待つ客がちらほらと見受けられたが、フリックを取り囲む少しヤクザまがいの男達の雰囲気に気圧されたようで、なるべく遠い車両に乗ろうと決め込んでいるようだ。
ホームに突如アナウンスが響き渡り、びくり、とフリックが肩を震わす。
始発駅のこれから乗客を乗せる電車はがらんどうで、ゆっくりと停車すると軽い空気音と共に扉が左右に開かれた。何喰わぬ顔をして先にどやどやとスタッフ達が乗り込んでゆく。
フリックも流れに従うかのように強張った脚を動かす。
箱の中、フリックは押されるかのように奥へ奥へ、壁隅に追いやられてじっとりと汗をかいた。
最早、隙間なく体を詰め寄る彼らが本当に撮影スタッフなのか、それすら分からない。
見知った顔がないような気がした。
どくん、と一際激しく心臓が跳ね上がる。
発車時間を待つ間が長かった。定刻を告げるアナウンスが漸く流れ、そして電車の扉が閉まる。
フリック達が乗り込んだのは最後尾の車両だ。
息苦しかった。
動悸と息切れ、目眩もあった。揺れだした電車にフリックは慌てて吊革を掴む。
誰も何も言葉を発しないのも不気味ですらあった。
いつ撮影は始まるのか、果たしてどんな風に。
時刻は夕方の5時を回り、そろそろ乗客も混み始めるだろう頃なのだろうと思う。
一駅過ぎたが、まだ何も始まりはしなかった。停車した駅からまた幾人か乗客があった。女性は一人も居なかった。彼らもまたスタッフなのだろうかと想像してみるが、何の確信もなくて。
落ち着かない。落ち着ける筈もない。
次の停車駅を告げるアナウンス。
流れてゆく見知らぬ景色と、揺れている吊革、フリックの視線は絶え間なくうろついて、もうどうにでもして欲しい、と何時しかそんな風に思い始めていた。
また電車が止まった。駅に着いたのである。
客の出入りはほとんどなかった。一人か二人、新たに客が乗り込んできたような。
かくん、と電車が動き出す。
その時になって車内が当たり前の雰囲気になってきた。当たり前、とは雑多な会話や広げた新聞を捲る客の姿や、ちょっとした笑い声や。
何故か頭がぼんやりとしてくるのを禁じ得ない。
自分は一体何処に向かうのだろう。この電車は何処へ?
何をしているのだろう。
その時だった。
ごそり、とジーンズの腰を撫で回される感触に我に返った。
はっと息を飲んで、思わずフリックは咄嗟にその手首を拒むかのように掴んでしまう。
すぐに撮影のことを思い出した。抵抗してはいけないのかもしれないと頭の中が混乱する。
躊躇が我知らず顔に出てしまった。
ぬるくなった抵抗に、背後からの手は益々いやらしげに腰を太股を這い回り、そして遂には双丘の狭間、深い蕾辺りを指の先で狙い澄ましたかのように触れてくるのだ。
「……や、やめッ……」
これが本当に今日の撮影の相手だろうかとフリックは急速に怖くなった。
首をねじ曲げて相手を確認しようとする。
「そうビクつきなさんな……俺ぁ只の痴漢だよ」
そんな首筋にその男の唇が近づき、とても低い声が囁かれた。この台詞、するとやはり撮影相手であるのは間違いないのだろう。
男の唇と共に口髭のザラついた感触もあった。
しかしこんな男が黒の月企画に居ただろうか、と漸く垣間見た背後の男の顔に不安が募る。
初顔合わせだった。
「ニィちゃん、イイ体してんなぁ……ええ? 好みだよ、なかなか」
今度ははっきりとカメラに捕らえられる声。
蕾の辺りをきつく指先は揉みしだく。フリックが息を詰めて堪えていると、空いた片手がごそごそと股間をまさぐった。
服の上から、で。
こんな異常な状態、で。
「……あぅ、あ……やめ、やめて下さッ……」
つい素が出てしまった。
身を捩って一方的に触れてくる手から逃げようとしてしまう。蹌踉めいた足が体を詰め寄った乗客の振りをしたスタッフ達に遮られて結局は叶わなかったが。
強弱をつけて股間はジーンズの固い布生地の上から揉まれ続ける。
顔が火照るのを感じた。
戦慄きが背筋を這い上がるのも感じた。
「い……いやだ……ん、んっ……」
「嫌だって? ……どうだかなぁ……」
誰でも大抵そう言う。
感じてるクセに、嫌だなんて見え透いた嘘を、と笑う。
嘘ではない、嘘ではないのだ。しかし心と体が悲しくなる程離反して、だから体など自分のモノではないと言って聞かせて、上辺だけは無理矢理に納得させた振りを。
足下がぐらついた。
太股はとじ合わせ、これ以上の接触を必死に拒むが、果たしてそうしていいものか。
「ちと股開きな……やりにくくっていけねぇ……」
そこに耳元、ぼそりと囁く声。
ああ、やはり抵抗などしてはいけなかったのだ。しかしちゃんと抵抗しな、と続けられて動揺する。
嫌がっている振り。
振りなど出来ない、そんな器用な真似など。
フリックはひたすらかぶりを振った。訳が分からなくて泣きそうで。
「んッ……んっ、アッ……」
緩んだフリックの股ぐらで男の手が動いていた。
否応なしに、体は反応した。
「おいおい、もう窮屈になっちまってんじゃねぇかい? 案外好き者だな、兄ちゃん」
濡れた舌が首筋を這って、胸に突き刺さる台詞。
違う、と乱れ始めた息と共に吐き出し、フリックはがくがくと震えつつ痴漢役の男の手を捕まえる。
その所作はまるで、嫌がっている振りに見えたことだろう。
力が上手く入らなくて、指先まで震えて、そんな力無い抵抗は撮影用の振りに見えたことだろう。
花芯が、痛い。張りつめて、辛い。
それをきつく擦られる、やめて欲しい、苦しい、こんな場所で、こんな情けない自分。
がくん、と電車が止まった。
また駅に着いたのだ。扉が開く音にフリックは本気で取り乱した。
男はぐい、と腰を密着させてきた。
怯むフリックを逃がしはしない、とばかりにとうとうベルトにまで手を掛ける。
この車内で一体何処までやるのか、フリックは聞いていなかった。電車の扉はまだ開いているのに。
「た、頼むからやめてくれッ……や、いや、頼むからッ……」
どうして誰も何も言わないのか。
本当に撮影のスタッフなのか。
バックルを外す金属音と、ジーンズの釦を外す指先。
あっ、と思った時にはジッパーが下げられて、床を踏みしめた足を足先で蹴るように開かされ。
かくん、と膝が崩れそうになる。同時に電車の扉が閉まって車内が揺れる。
フリックは慌ててまた吊革を掴んだ。
股間にごそりと潜り込む手。
「あっ、あ!駄目ッ……」
吊革など構っていられなくて、その手を伸ばしてフリックが不様に傾いだ。
車内の壁に右肩からぶつかり、体勢を整える為に益々開く脚。
好都合、と男は下着もかいくぐってついにフリックの花芯を直に握り込んでしまう。
他人の手によって与えられるのは、おぞましい程の快楽で。
「おーお、先っぽなんかヌルヌルじゃねぇかい……ええ? 実は痴漢されんの期待して待ってるクチかい?」
下着の中で、容赦ない愛撫は繰り返された。
くぐもった音がする。くちゅ、くちゅ、と先端を指先で擦られる音だ。
「……く、うんっ……あぅ、あ、あ……」
ぱさり、とフリックが髪を振った。不自由な姿勢で、崩れ落ちる寸前で堪えて。
涙声。
先ほどフリックは隣りの乗客の鞄の口から覗いたビデオカメラを見つけてしまっていた。撮影なのだ、と何度でも思い知らされる瞬間だ。
全身が波打って知らず前のめりになるのを、シャツの裾から潜り込み素肌を撫で上げる手が引き起こす。
膨らんだ胸の尖りをきつく摘み上げられて、びりびりと電気が走った。
「……イイんだろ? 気持ちいいんだな?」
低い声が嘲笑うかのように聞こえる。
のろのろとフリックは片腕でこぼれ落ちそうな涙を拭った。忙しなく乱れる呼気、そして微かに頷く。
「ひぃぁッ……あ、ふぁッ!」
派手に愛撫の手が花芯を擦り立ててフリックを責めた。
膝が崩れて必死に壁に手をつく。背後からちゃんと言わなきゃ分からんな、と無情の台詞。
「……い、悦いで、す……あ、気持ち、い……んぅっ……」
とうとう涙がぽとり、と落ちた。
体、心。
引き裂かれる、薄汚い何かになってゆく。
ぐい、とフリックは腕を取られて体勢を変えられた。今までフリックは多数の乗客にほとんど背を向けるように壁向きに立っていた。
それが唐突に、晒されるかのように壁に背を向けるように。
フリックを蹂躙していたのは、40がらみで顎髭を伸ばした、とても真っ当には見えない男だ。
「あ……」
羞恥に眩んでフリックは狭い隙間で身じろぐ。突き刺さるような視線はどれもぎらついている。
「皆様にも見て貰いてぇだろ? おめぇの変態ぶりだとかをよ……」
男は代わりに壁側へと回り、またフリックを背後から羽交い締めにすると腰を落としてフリックを寄りかからせた。まるで男の太股に坐るかのような格好になって、自然両脚はそれ相応に開かされて。
フリックは心底怯えて藻掻いた。
もう限界も近い花芯を、下着から引きずり出されたのだ。
「い、いや……嫌! 見られ、あ、やめ……あ、ああ!」
激しく花芯を扱かれる。
食い入るような視線ばかり。
溢れた蜜が飛沫になって飛んだ。滴って男の手をも濡らした。
ぐちゅ、ぐちゅ、と酷い濡音。もう腰は熱を帯びて立たない。
見られている。誰かが視界の隅で舌なめずりをした。
「は、あ……あ、ふぁッ……あ、いやぁ……あ、何で……いやぁ……」
「……声の調子が変わってきたぜ……? あん、本気でイっちまうか……?」
がくがくとフリックは戦慄き続ける。
誰も止めない、集団で犯されているのだ。
最後に一際大きく跳ね上がり、フリックは体を撓らせて絶頂に追いやられる。
その時電車が停車し、揺れに任せてフリックは体をがっくりと手折った。
すすり泣きと荒い呼吸。
床に飛び散った白い蜜が哀れを誘う、そんな風景。
車両には新たな客は乗ってこなかった。無論朦朧としたフリックは気づいてもいなかったが。
辺りがだんだん薄暗くなって、車内の電灯が青白く灯される。
崩れ落ちたフリックを引き上げる手があった。
今の今まで乗客だった誰かだ。
引きずり立たされ、フリックは弱々しい抵抗を試みた。何時しか車内は異様な雰囲気に包まれて、何の言葉もなく、生け贄なのはフリック一人。
「エッチな体してんなぁ……もう堪んねぇよ……」
「見てるだけで興奮しちゃって、どうよ俺のビンビンだぜ?」
伸ばされる手、手。
いやだ、とフリックは縺れる舌で、何度紡いだか分からぬこの台詞を口走った。
脱力した脚が崩れ、促されるままにフリックは座席の方へと連れて行かれる。そしてビロード張りの客席に突き落とされて、逃げ出すことも叶わなくて。
両膝を別々の手に大きく開かされた。股関節が軋むくらいだ。
「い、痛……離せッ……あ、やッ!」
達したばかりで濡れて萎れている花芯が、上着のシャツをたくし上げられて存分に晒される。
最初にフリックを絶頂に追いやった顎髭の男は、腕組みでそんなフリックを眺めていた。
こんな自分を見て、どう思っているのかは知らない。
こういった仕事を好きこのんでやっているのだから、本当の好き者なんだろうと蔑んでいるのかもしれない。
「あうぅ……あ、はう……」
かくり、とフリックが後方に首を垂れて片手で溢れ出す声を覆うような仕草を。
誰かが座席の前に跪き、項垂れたフリックの花芯を口中に飲み込んだのだ。
腰が突き動かされて揺れ始める。
快感は、快感で。
どうしようもない、快感で。
手が取られた。そして熱く滾った欲望を握らされる。口元を覆った手すら奪われて、また誰かの欲望を。
また涙が溢れた。
ぎこちなく両の手を動かして、望まれる通りに手の中のものを固くしてゆく従順な、そんなやり方で。
フリックは長椅子席に横たわらせられた。
ぴくり、と膝頭は時折跳ね上がって。
「あん……ん、あ、やぁ……ふあぁ……ッ、」
しゃぶられるたび、花芯はしっかりと硬度を増して感じているのはあからさまだ。
隠しようもなかった。感じているのだ、と。
「やらしい顔だなぁ……すっげ、そんなにイイの?」
揶揄にしか取れない声。
かあ、と頬を熱くしてフリックは何度も首を振る。しかし肌をまさぐられてびくびくと全身が震える。
ジーンズが片脚、ずるりと脱がされた。
「……こっちも可愛がってやらねぇと」
フリックは唐突に青ざめた。まさか此処で、と必死に目線を泳がせる。
双丘を掴まれ、蕾までが人目にさらけ出される羞恥。
直に触れてくる指先を感じる。強張ったフリックの体をまだ誰かが撫で回している。
何をしているのだろう、自分は。
何時想像した?こんな自分を。
溢れた蜜と、他人の唾液に濡れてじくじくと疼いていた蕾の花弁が異物の挿入に捲られて歪んだ。
「……・ッ!!」
のめり込んだ指は一本ではなかった。
息を飲むフリック。
見開いた目に、やはり腕組みで煙草を銜えた先ほどの男優の姿。
惨めだろう?
笑うだろう?
でもお前に何が分かる、誰に何が分かる、これを選ぶ他なかった、それ以外に道がなかった。
「うわ……締めてくんなぁ、中。でももう入り口あたり結構緩んでる……入れたら気持ち良さそ……」
「なぁ、イイ? 足りなくない?」
フリックをのぞき込む男達が笑いながら何か言っている。
内部で数本の指を蠢かされて声が詰まった。
ぴちゃぴちゃ、と花芯がしゃぶられる。もう、考えることは苦痛だ。
「き、気持ちいっ……あ、あん……あ、イっちゃう……」
淫らに喘ぎ、フリックは目を閉じた。
もう戦慄きは留めようもなく、また次の絶頂が待ちかまえている。
不意に片手が解放された。そして口元にその欲望が押しつけられた。
薄く唇を開くと、歯をこじ開けて余る太さが口中をも蹂躙する。
むせ返る精の匂いと喉を突く長さにフリックは苦渋の表情で、しかし望まれるがままに舌をそれに這わせる。
「でもここで本番はまずいから……悪いけどコレで我慢、な……」
囁き声を理解する前に、聞き慣れたモーター音で我に返る。
フリックはそれが押しつけられた瞬間、身震いして全身をのたうたせた。
少し大きめのローターだった。
噛みつかれることを示唆してか、フリックの口を犯していた男が欲望を引きずり出す。
「ふぁ、あああッ……そ、それ嫌……いやあああ!」
がくがくとフリックは体を踊らせた。しかし絶頂はもうやってくる。
モーター音はくぐもりながら、悪趣味なピンク色はフリックの最奥へと目指して飲み込まれて。
ひきつった悲鳴を塞ぐかのようにまた欲望が口に押し込まれる。
花芯をしゃぶっていた男が最後の際になって愛撫をやめた。
永遠に続くかと思われた電車内の撮影。こんな無許可で恥さらしな、地獄のような。
それでも此処はきっとまだ地獄ではないのだろう。
まだ、堕ちる。
涙にむせびながら、口を犯す欲望に咽せながら、フリックは深い場所を刺激する人工の振動に浚われて衆人環視の中、また蜜を迸らせていた。
放心しかかる顔に、口から引きずり出された他人の欲望から放たれる粘つく白い液が放たれる。
電車の音が響いていた。
だらり、とフリックの腕が客席のビロード張りを滑って落ちた。
誰かの声がする。
「……まだ撮影は終わりじゃあねぇぜ? くたばっちまうなよ、フリック」
体の深い場所には未だ存在するローター。
まだ此処は地獄ではない。