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スペイン・バルセロナで開かれていた13年以降の温暖化対策の国際的枠組みを話し合う国連気候変動枠組み条約の特別作業部会は6日、大きな進展がないまま閉幕した。12月7~18日にコペンハーゲンで開かれる同条約第15回締約国会議(COP15)では、法的拘束力を持つ「ポスト京都議定書」の採択は来年への先送りが確実となり、打開策の検討が新たな焦点となる。日本は温室効果ガス排出の中期目標「90年比25%減」や、途上国を資金面などで支援する「鳩山イニシアチブ」を掲げて存在感のアピールを狙ったが、交渉を前進させる力にはならなかった。【バルセロナ大場あい、赤間清広、足立旬子】
特別作業部会は、排出削減・抑制の取り組み▽途上国への資金供与--など6項目約170ページの文書を整理する作業に終始した。整理後の文書はCOP15で閣僚合意を目指す交渉のたたき台となるはずだった。ところが、07年に米国を抜き、世界最大の排出国となった中国などは「温暖化を招いたのは先進国の責任だ」と主張し、途上国の対策は協議にすら入れず、結局、整理を要する文書は計200ページを超えた。
これまでのポスト京都の枠組み交渉で、日本と欧州連合(EU)は、議定書を離脱した米国を含む先進国の削減義務づけと途上国の排出抑制策などを盛り込んだ新議定書の採択を求めている。京都議定書(日本は08~12年平均で90年比6%減)の継続では中国、インドなど新興国に排出抑制義務が課されず、新興国の対策を求める米国の参加が見込めないためだ。一方、途上国は、先進国に削減を義務づける京都議定書の継続を主張する。
こうした事情を背景に先鋭化する対立に、日本政府の交渉担当者は「日を追うごとに敵対的な雰囲気になった」。会場でも「最終合意は来年末メキシコでのCOP16ではないか」との声が出ていた。
打開策として浮上しているのが、骨格を盛り込んだ「政治合意文書」だ。10月末に気候変動枠組み条約のデブア事務局長が明らかにしたもので、法的拘束力のある議定書への中間的な位置づけだ。先進国には大幅な削減目標を、途上国にも排出抑制計画を策定するよう提案、各国に歩み寄りを求めた。これに基づいた新議定書が採択され、米国や新興国も批准すれば、主要排出国が参加する枠組みが可能になる。とはいえ、最終的には議定書を目指すため途上国が同意するのは容易ではなく、それを条件とする米国との駆け引きの応酬に陥りかねず、道が開かれるかは不透明だ。
また、デブア事務局長は、最終日の6日の会見で、京都議定書の暫定的な延長案にも言及した。実現すれば、13年以降の温暖化対策の空白期間をなくすことはできる。しかし、議定書を離脱した米国は、排出削減義務を免れる一方で、厳しい削減義務を課せられる日本などは窮地に追い込まれる。
COP15議長国デンマークのラスムセン首相は、COPでは初めて閣僚級から首脳級会合に格上げするよう呼びかけた。現在約40カ国・地域の首脳が出席する意向を示している。温暖化防止と国益のバランスを巡る政治的判断が各国トップに突き付けられている。
「前政権より、大きく数字を引き上げた。これ以上の削減は難しい」。特別作業部会で、日本は新政権の目標の高さを誇示した。その一方で同時に、9月の表明時に世界から賛辞を浴びた「90年比25%減」に対する世界の視線の変化も意識せざるを得なかった。
会議で先進国批判の急先鋒(せんぽう)となったのはアフリカ諸国。先進国に「90年比40%以上」もの削減を求めた。日本の「25%減」も含め、先進国の中期目標を「あまりに低い」と一蹴(いっしゅう)し、一時は協議をボイコットする強硬策に出た。先進国の排出削減強化を厳しく求める中国やインドと同じ姿勢で、先進国と新興・途上国との対立の構図は先鋭化している。
また、日本は、途上国支援で三つの支援基金創設を提唱する「鳩山イニシアチブ」を提示した。これは途上国を抱き込む「懐柔策」だったが、欧米は独自の途上国支援の枠組みを提案。支援額など具体策を示さなかった日本への注目は集まらなかった。環境NGO(非政府組織)「気候ネットワーク」の平田仁子さんは「世界のNGOは、新政権に期待していたが、今は失望している」と話す。
世界の二酸化炭素排出量に占める日本の割合は4%。一方、中国、米国は各2割を占める排出大国だ。
日本政府は存在感を示すため、「他国に先駆けて高い目標を示し、ポスト京都議定書の枠組みづくりをリードする」(交渉筋)という戦略を描いたが、思惑は事実上、不発に終わった。「日本は(中期目標などの)カードを早く出したが、イニシアチブに具体性がなく、各国に足もとを見られている」。交渉関係者からは厳しい声も漏れており、戦略の練り直しを求められている。
毎日新聞 2009年11月8日 東京朝刊