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目は二重、鼻は高く、唇は薄く…整形繰り返し逃亡する市橋容疑者、ほくろ除去で“足”

11月7日13時50分配信 産経新聞

目は二重、鼻は高く、唇は薄く…整形繰り返し逃亡する市橋容疑者、ほくろ除去で“足”
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指名手配されている市橋達也容疑者=2007年2月上旬、北海道で撮影(千葉県警提供)(写真:産経新聞)
 【衝撃事件の核心】

 事件発生から2年半。千葉県市川市で平成19年3月、英国人の英会話講師、リンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=が殺害された事件で、死体遺棄容疑で全国に指名手配された市橋達也容疑者(30)が逃亡中に整形手術を行っていたことが判明した。自らの顔を変えながら逃亡を続ける市橋容疑者は、大阪や名古屋、福岡といった大都市を転々としていた。警察の執念の追跡がまた始まった。市橋容疑者の“足跡”から浮かび上がる逃亡の実態は…。

[フォト]逃走を続ける市橋容疑者の“整形前”と“整形後”

■「鼻コンプレックス」があだ? 専門家は「シリコンのバランスが…」

 「憎さ倍増だな。変相までして逃げ延びるなんて」

 5日夜、千葉県警本部1階にある記者会見室で急遽(きゅうきょ)公開された市橋容疑者の整形後の顔写真。報道陣が配られた資料を慌ただしく持ち出す中、別人のように変わった市橋容疑者の顔を横目に、中村修一捜査1課長は吐き捨てるようにつぶやいた。

 指名手配された際の写真と比べると、市橋容疑者の人相が大きく変わっていることは一目瞭然(りょうぜん)だ。確認できるだけでも、一重だった目は二重になり、鼻は高く、小鼻は小さくなっている。2つあった左ほほのほくろも除去され、厚かった下唇も薄くなっている。

 捜査本部によると、公開されたのは、名古屋市の美容整形外科病院で整形手術する前に撮影された写真。市橋容疑者はこの後に手術を行い、現在は写真よりも鼻が数ミリ高くなっているとみられるが、見た目は公開された写真とほとんど変わらないという。

 これまで配られていた市橋容疑者の情報を呼びかけるポスターには、顔の特徴として「一重まぶた」「下唇が厚い」などが挙げられていた。「顔の特徴を示されていることを把握した上で、その特徴を消すための整形手術をこれまでも繰り返していたのではないか」。ある捜査員はこう話す。「市橋はもともと、鼻にコンプレックスがあったみたいだね」と指摘する捜査幹部もいる。

 美容整形のプロたちは、この整形顔をどのように評価するのか。

 「目や鼻、口元など顔の目立つ部分の整形でかなり印象が変わった。写真のように、まゆのそり方や髪形も変えると、ぱっと見では見分けがつかない」と話すのは、酒井形成外科(東京都豊島区)の酒井倫明院長。医師として気になるのは口元の部分の膨らみだという。「固形のシリコンを入れる手術をするが、これほどの量を入れるとなると、自分なら、バランスが悪くなるからやめた方がいいと止める」

 聖心美容外科横浜院(横浜市)の片岡二郎院長は、いわゆるプチ整形で二重まぶたにしたなどと指摘した。いずれも体の負担が軽く、手術を1回で済ませても2時間ほどしかかからない。同院の手術費用は二重まぶたが約10万円、それ以外は約20万円。診察当日に手術可能だという。

■「もしかしたら…」で見えた光 名古屋、福岡、仙台…情報続々

 いずれにせよ、これまで何度も煮え湯を飲まされた市橋容疑者の逮捕に向け、ようやく一筋の光が見えてきたようだ。

 「これまでの情報に比べれば、これは間違いなくAクラス」

 思わず捜査幹部が言葉に力を込めるほど、今回の市橋容疑者の「整形手術」情報は衝撃的だったという。

 「どうも、市橋容疑者に似た男が手術を受けにやってきた」

 捜査関係者によると、捜査本部に名古屋市内の美容整形外科病院からこんな話が流れてきたのは10月26日のことだったという。

 市橋容疑者はその2日前の24日、同病院で鼻の整形手術を受けていた。すでに同病院には何度か来院しており、「鼻を高くしてほしい」と要求し、数十万円の手術代も前金で支払われていたという。

 病院側は、当初手術を受けた男が市橋容疑者とは気付かなかった。ところが、手術後にカルテを整理していた病院関係者が、男ではめずらしいほくろ除去の痕を発見。「もしかしたら市橋容疑者かもしれない」と考えたという。

 病院から連絡を受け、名古屋に向かった捜査員。抜糸のため手術から1週間後の31日に来院する予定があることが判明したため、捜査員は病院周辺で張り込みを行うとともに、市内のホテルなど市橋容疑者が立ち寄る可能性がある場所に一斉に聞き込みを行った。

 しかし、市橋容疑者は来院予定日の31日になっても姿を見せることはなかった。鼻息荒く名古屋に乗り込んだ捜査員は肩を落としたが、実は市橋容疑者に関する情報はこれだけではなかった。

 名古屋市の病院を訪れる10日ほど前の10月中旬ごろ、市橋容疑者に似た男が福岡県内の医療機関にも訪れていたという情報が寄せられていたのだ。

 ここでも男は「鼻の手術をしてほしい」と依頼していたが、病院側は予約がなかったので改めて来院するよう要請。その後男が姿を現すことはなかったという。

名乗った名前は大阪に実在する男性の名前。捜査本部では、写真などで確認した結果、この男についても市橋容疑者だったと断定、逃走経路の洗い出しに力を入れている。

 さらに仙台や大阪でも市橋容疑者につながる情報が出ているという。いずれも大都市というのが共通点だ。市橋容疑者は、今も歓楽街の人込みに紛れて、身を潜めている可能性が高い。

■意外と簡単?な逃亡中の整形 過去には「7つの顔を持つ女」も

 逃亡中に身元を隠して整形手術を受けたとして注目されたのは、愛媛県松山市で昭和57年8月にホステスを殺害、時効直前に逮捕され、強盗殺人罪で無期懲役の判決が確定した元ホステス、福田和子元受刑者(服役中に病死)だ。

 「7つの顔を持つ女」「魔性の女」などと形容された福田容疑者は、全国に指名手配された直後、東京で約60万円かけてまぶたを二重にし、鼻を高くする手術を行い、金沢市のスナックを振り出しに愛知、岐阜、大阪、北海道など18都道府県を偽名を使って逃亡。石川県では一時老舗和菓子店の主人に見初められて“嫁入り”し、やり手の女主人を演じるなどしていた。

 なぜ逃亡中の容疑者は身元を隠したまま整形手術を行うことができるのか。

 日本美容外科学会理事の大森喜太郎医師は「一般的な日本の医療は健康保険証が身分証明になっているが、美容整形は基本は自由診療ゆえに保険証を出すことがない。偽名や偽の住所を言われても、それ以上確認するのは難しい」と身元確認の難しさを説明する。

 同学会によると、指名手配犯の顔写真なども学会を通じた連絡手段があるわけではなく、各警察が病院に注意を呼びかける場合は、病院に対し、個別に手配写真などを配布していくのだという。

 「当時は全く不審には思わなかった。警察が尋ねてきて、カルテをひっくり返して初めて分かった」と振り返るのは、福田元受刑者の整形手術を行った十仁美容整形(東京都)の梅沢文彦院長。同病院は福田元受刑者を手術したことが判明した後、「社会的責任がある」として400万円の懸賞金を出して、福田元受刑者の情報を募った。

 そんな同病院でも、本人が偽名を使った場合でも、特に大きな問題がない場合、それ以上確認することはないという。

 「手術に来て落ち着かないのは当然といえば当然。それだけで通報するわけにはいかない。福田元受刑者のときは残念だったとしか言えない」と梅沢院長。

 市橋容疑者も福田元受刑者同様、偽名を使うなどして、正体がばれないまま整形手術を繰り返していたものとみられる。

■「何度も夢に市橋が…」靴履きつぶす捜査員、遺族はいらだちも

 ただ、遺族にとっては捜査上の事情は関係ない。望むのはただひとつ、娘の命を奪った男の逮捕だ。

 「大変失望した」。英国に住むリンゼイさんの母、ジュリアさんは、英紙デーリー・テレグラフの取材に対し、手術時に通報がなかったことについてこう話した。

 「最大規模の指名手配を行っており、イチハシを知らないものはこの国にいないと(警察に)言われていた」というジュリアさんは「目撃されたとき、誰も何もしなかったことは、心がひどくかき乱される思いだ」と話し、捜査への不信感をにじませている。

 リンゼイさんの家族はこれまでに5回、日本を訪れている。事件発生から1年を機に来日した父親のウィリアムさんは「誰かが匿わないと逃げられないはずだ。捕まえるまであきらめない」と語り、姉のリサさんは「イチハシ、あなたは大切な妹の命を奪い、家族の心を打ち砕いた。日本の皆さん、どうか、妹の身に起きたことを忘れないで」と訴えている。

 英国では過去に「日本の警察は『容疑者は自殺したと断定した』」という内容の報道があったこともあり、市橋容疑者につながる情報が出たとしても、遺族のいらだちは収まることはないようだ。

 もちろん、そうした声は捜査員に届いている。

 「何度も夢に市橋が出てきた」「奴は必ず生きている。そう考えないと士気も上がらない」。靴を何足もはきつぶし、2年半ひたすら市橋容疑者のみを追いかけていた捜査員たちは、市橋容疑者の“新しい顔”を片手に、今日もラブホテルや簡易宿泊所など、市橋容疑者の立ち寄りそうな場所で地道な聞き込みを続けている。

■浮かび上がる捜査上のポイントは…

 複数の病院で整形手術を行っていた市橋容疑者は、手術代をどうやって工面していたのか。1回に10万〜数十万円かかるとされる費用を一括で払った。名古屋、福岡、大阪などへの移動費用も相当かかるはずだ。市橋容疑者は「ラブホテルに泊まっている」と名古屋の美容整形外科で話したというが、宿泊代もかなりかさんでいるはずだ。

 大胆不敵に大都市を移動している間は、少なくともアルバイトも含め定職にはつけない。

 そもそも、市橋容疑者が最初に逃走したときは財布ももっていなかったし、靴もはいていない状態だった。そうした状態から自力でカネを稼いでいくこと自体が不可能に近いと思われる。自分の預金口座などから金を引き出すにも、キャッシュカードはなく、もっといえば、警察が市橋容疑者の口座の動きを放置しているはずもない。逃走資金を支援する人物がいるのか…。逃走資金捻出方法の解明が、市橋容疑者を追い詰めるポイントになることはいうまでもない。

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最終更新:11月7日14時49分

産経新聞

 

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