ふとある日、単純にオレが好きなものは何か?と自分に問うてみた。
	・‥。
	オレの好きなサーフィン?映画?バイク? ん〜〜〜ん・‥。 何か違う。
	じゃ食べ物では何だろうか?
それはラーメンが1番でしょ!!すぐ答えが出た。
	その時だった。
	ガキの頃、イヤでイヤでしょうがなかった家に帰るといつも独りのオレ。
	そこにあるのはインスタントラーメンのみの、
	アノ幼い頃の懐かしい思い出が甦ってきたのは!
	「そうだ!オレはラーメンがめっちゃ大好きなんや!!!」
	それに気づいたオレは1つの事をやり出すとそれしか見えなくなる性格が音をたてて動き出し
	「よっしゃ!
	金沢にオレしか出来ない本物のラーメン屋を開店してやるぞ!!!」
	とイキまきながら、その大志を胸にいだき
	北は北海道から南は九州まで全国ラーメン行脚、
	食ったラーメンはおよそ350杯!!!とにかくオレは夢中でラーメンをひたすら食った。
	「ん〜〜、コレは違うなー。」
	「ココは見た目は綺麗でイイけどスープのコクと深みがイマイチなんだよなー」
	「この店、スープはウマいんだけど麺と余り絡んでいないんだよなぁー」
	‥そんなこんなで色々な思いを抱きつつオレは着実に
	ラーメンの知識と体重を増やしつつ、
	気が付けば半年という月日が流れていた。
	携帯電話から響く彼女の声は
	「いつ金沢へ帰ってくるん?もういい加減にしたら‥」
	そればっかりで心の中は
	「オレしか出来ない本物のラーメンはまだ見つかってないんやぁぁ!!!」
	と、オレは叫んでいたのだった。
	全国各地の有名店はしらみつぶしに回ったのだがオレが思い描いている複雑な味ではなく、
	簡単に言えばこってり系の細麺で小細工無しの無骨なラーメン!!
	それと出会うまでは帰れんのやー、
	と心に誓いオレの全国ラーメン行脚は続くのだった。
	そんなある日、大阪で立ち寄った何軒かのラーメン屋の店主
	「関西でおいしいラーメン屋はどこですか?」
	と訊ねると何軒かのラーメン屋から井出商店という答えが返ってきたのだった。
良く聞くラーメン屋だけどラーメン屋なのに商店??
	その名前にも興味を持ったオレは何も考えず
	自然と和歌山へ向けクルマを走らせたのだった。
	地図だけを頼りに高速のインターを降りてしばらくクルマを走らせると
	大きな交差点がありオレの目に飛び込んできた衝撃的な建物。
	確かに井出商店という文字が読み取れた。間違いない。
	「な、な、なんじゃこりゃぁぁぁ〜!
	これラーメン屋というより駄菓子屋やんけ〜〜!!」
	オレの目には今にもつぶれそうに見えたその建物の前には、
	長い長い行列が出来ていた。
	しかもその数、4〜50人!!!この立地でこの行列この人数??
	オレは期待に胸を躍らせながらクルマから降りると、
	この何とも言えぬ鼻を突く様な匂い…
	行列の最後尾にすぐさま並ぶが5分位でオレの後にはさらに長い行列が出来ていた。
	30分位経ったかやっとで店の中へはいることが出来、メニューを見ると
	それは中華そばと特製中華そばだけの
	何ともシンプルなメニュー。
	中華そばって事はオレの好きじゃないあっさり系?
	いやいや待てよ、この店の中に広がる豚骨の匂い。
	アッサリ系な訳はないと思いオレは何ラーメンがあるか聞いてみると
	「ウチは豚骨しょうゆだけです。」
	と、言われオレは特製中華そばとやらを頼んだ。
	それから4分ほど経過しラーメンがテーブルに届く。
	「はやっ!早っっっ!!!!早いっ!」
こんなに忙しいのに随分と出来上がりが早いなー、もしやオレの好きな細麺か?
	オレはテーブルに置かれたどんぶりの中に目を移すと何と!
	そこにはオレが思い描いているこってり細麺、
	小細工無しの無骨なラーメンがオレの目に飛び込んできた!!
	いやいやチョット待てよ、
	全国のラーメン屋を回って同じような瞬間は度々あったゾォ。
	オレはまずスープを一口飲みこんだ。
	「うまぁぁぁぁぁぁー!!!何だコレは!!!一体何なんだ!?」
感無量。
全国の色んな豚骨しょうゆは食べてきたが、
	
どれもしょうゆの方が強く、こんなに豚骨が濃厚でバランスがとれた
	完璧な味のラーメンは食べた事がなかった!
	その言いしれぬ感動を引きずったまま箸が麺に走った。
	麺を食べると細麺イコール固茹でという既成概念・常識を破り、
	茹で加減は柔らかいのに麺にスープが絶妙に絡んでいるので
	一瞬のうちにオレはこのラーメンを平らげてしまった。
	放心状態、唖然、絶句だった。
	食べ終えて店を出るとオレはどうしてもこの味を金沢に広めたい!
	という思いがカラダの奥底から噴火寸前の火山のようにこみ上げてきて、
	オレのカラダは
	無意識のうちに店の裏口を叩いていた。
	「さっき食べた者なんですけどここで修行させて下さい!!!
	御願いします!!!」
	「今、忙しいんだよ。ウチ修行とらないから。」
	「無給でイイんで御願いします!!!」
	「帰った、帰った」
	と、言われながらドアを閉められあしらわれてしまう。
	他のラーメン屋を回る気がしなくなったオレは一度、金沢へ帰る事となった。