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社説

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官房機密費―この豹変は見過ごせぬ

 民主党は、自民党の長期政権時代のうみを取り除くのが使命と言ってきたのではなかったか。それなのに、鳩山由紀夫首相や平野博文官房長官のこの対応は理解しかねる。

 官房長官が使途を公開せずに使える内閣官房機密費について、歴代政権と同様、使途や金額を明らかにしない方針を打ち出したことだ。首相は「国民の皆さんに全部明らかにできるたぐいのものではない」と述べた。

 しかし、機密費の不明朗さを批判し、情報公開を求めてきたのは民主党自身だ。

 年間約14億円、1日あたりにすれば400万円にのぼる機密費の使途は、内政、外交全般にわたる政府の情報収集の対価などとされている。

 だが、その一方で、海外に出張する政治家への餞別(せんべつ)、与野党の議員に対する背広代やパーティー券購入などの国会対策に充てられていたことも明るみにでている。外務省の官僚が5億円以上の機密費をだまし取り、競走馬やマンションを買っていたこともあった。

 こうしたデタラメな使い方がまかり通ってきたのは、機密費が領収書のいらない金で、使途を明らかにする必要がなかったからだ。

 もちろん、情報提供者の氏名など、明かせない情報も少なくなかろう。ただ、外交文書などと同様、一定期間を過ぎたものについては、可能な範囲で情報を公開する仕組みを考えるべきだ。いずれ公開されるという緊張感があって初めて、機密費の不適切な使用に歯止めがかかる。

 民主党もそう考えたからこそ、野党時代の01年、機密性の高いものは25年、それ以外は10年後に情報公開を義務づける官房機密費流用防止法案を国会に出したはずだ。

 当時も、民主党の代表は鳩山氏だった。小泉純一郎首相との党首討論で「機密費に関しては徹底的に情報の公開を求めたい」と迫ったのに、今回は記者団に「私は一切、この問題には触らない。すべてを官房長官にゆだねている」と逃げ腰だ。

 その平野氏は就任直後の記者会見で、前任者から引き継ぎを受けていたにもかかわらず、機密費の存在を否定した。1カ月以上たってようやく認めたが、「使途は私が責任をもって判断する。私を信頼していただきたい」と、透明性の向上には触れなかった。

 納税者としては、自民党政権下の機密費の使途を徹底検証し、問題があれば明らかにしてもらいたいところだ。なのに、機密費を使える立場になった途端の豹変(ひょうへん)である。このままでは、自民党政権時代と何も変わらない。

 首相は方針転換の理由をきちんと説明すべきだ。さらに、機密費の使途についての基本原則や情報公開に向けての考え方を明らかにしてもらいたい。

クロマグロ規制―消費大国としての責任

 乱獲で激減している本マグロの一種の大西洋クロマグロについて、総漁獲量や国別漁獲枠を話し合う大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)の年次会合が来週ある。

 会議の動向は、例年にもまして注目されている。モナコが「ワシントン条約に基づいて国際取引を禁止するべきだ」と、きわめて厳しい保護の必要性を国際社会に呼びかけているからだ。

 太平洋クロマグロの推定の資源量は少ないながらも横ばいなのに対し、大西洋クロマグロは30年前の3分の1に減っている。中でも地中海を含む東大西洋では、いけすで太らせる畜養が広がり、産卵前の幼魚まで乱獲されているという。

 このままでは資源が枯渇する恐れがあるとして、ICCAT科学統計委員会は総漁獲量を1万5千トン以下に抑えるよう勧告した。ところが、漁場をもつスペインやフランスなどの抵抗で、ICCATはこの勧告に沿う規制を打ち出せていない。

 もはやICCATには任せてはおけない――。モナコ提案の背景には、ICCATが有効な対策を講じられないことへの強いいらだちがある。

 今回の年次会合の結果に失望感が広がるようだと、モナコの呼びかけに賛同する国が増えるだろう。

 その結果、来年3月のワシントン条約締約国会議でモナコの提案が採択されれば、大西洋クロマグロは、シーラカンスやジュゴン、ウミガメなどと同じように国際取引ができなくなる。

 日本には太平洋産のクロマグロしかこなくなり供給量が半減する。産業や食生活への影響は大きい。

 政府は「漁業を抑制しながら資源の回復をはかるべきだ」として、モナコ提案に反対している。だとすれば今回の年次会合で、科学的な根拠に基づいて漁業規制を強化するために各国を粘り強く説得しなければならない。

 もちろん、単なる数量規制だけでなく、違法なマグロ漁をなくす仕組みづくりも急ぐ必要がある。

 割り当てられた漁獲枠を無視した操業や、ICCATの枠外での密漁が後を絶たない。漁船に監視員を乗り組ませたり、マグロに履歴の証明書を添えて、輸出入などの段階で厳しくチェックしたりする。そんな工夫で資源管理を徹底するべきだ。

 最近は高級マグロのミナミマグロや手頃な価格のメバチマグロも、資源を守るために漁獲量が規制されるようになった。マグロは食べ物であると同時に、守るべき野生生物でもある。そう考えねばならない時代である。

 日本は世界のマグロ類の25%を、クロマグロに限ると7〜8割を消費している。漁獲量も世界一だ。マグロ大国として、持続可能なマグロ漁に向けて世界をリードする責任がある。

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