社説ウオッチング

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社説ウオッチング:北朝鮮核問題 6カ国協議巡り懸念

 ◇米中に注文・疑問--毎日・読売・日経・東京

 ◇世論の分裂を反映--韓国紙

 オバマ米大統領のノーベル平和賞受賞が決まった。核兵器のない世界を目指す姿勢が特に高く評価されたものだ。しかしオバマ氏が9月、国連安保理の首脳会合で自ら議長を務めて採択した「核なき世界」の決議を、北朝鮮外務省は「核大国の一方的要求だけが列挙されている」などと非難し、「少しも拘束されないだろう」と冷笑した。この国の核問題はいったいどうしたら解決に向かうのか。

 当面の焦点は、金正日(キムジョンイル)総書記が温家宝中国首相と5日に行った会談で6カ国協議復帰の可能性に言及したのを受けた展開だ。日韓の主要紙の大半が、この会談について7日付で社説を掲載した。その論調を比較する。ただし朝日は8日付。産経は事前に「中朝接近」を警戒する社説を掲載したにとどまった。なお、6カ国協議の表記は統一されていない。

 金総書記の発言の核心部分は、「米国との会談結果を見た上で多国間協議を進める用意がある。多国間協議には6カ国協議も含まれる」という内容だ。その前段には「朝米会談を通じて、朝米間の敵対関係は必ず平和的関係に転換されねばならない」とある。これらは北朝鮮の公式報道による。

 米国との会談とは、米政府が検討中で遠からず実現する見通しの米朝2国間対話を指す。「あくまでも対米交渉に主眼を置く構え」(読売)、「6カ国協議復帰の是非は、米朝直接協議で何を得られるかにかかっているという趣旨」(日経)といった解釈で足並みがそろったのは当然だろう。

 毎日も同様の見方だが、特に北朝鮮の思惑を具体的に説明した。米朝対話の席で国交樹立や平和協定締結を求め、成果を得てから多国間協議に応じる。それもすぐに6カ国ではなく、「米中朝」や「米中朝韓」を優先するとの情報が流れており、日本が参加できるか楽観できないという分析だ。

 ◇「日韓の排除許さない」

 こんな展開を阻止すべきなのは言うまでもない。各紙は米国に注文を付けた。毎日が求めたのは核放棄の見返りの交渉に踏み込まない「細心の注意」と日韓の排除を許さない「緊密な連携」だ。

 日経は「米国には北朝鮮の核問題に確たる進展がないまま、テロ支援国家指定を解除した前科がある」と指摘し「安易な譲歩を繰り返してはならない」と警告した。朝日の「ブッシュ政権末期には日中韓などとの十分な調整もなく北朝鮮との妥協に走った。その愚を繰り返してはならない」という主張も似た趣旨であろう。読売も「日中韓露」との十分な調整を求め、東京は「北朝鮮のペースに乗るべきではない」と注文した。

 ◇朝日は中国に触れず

 一方、中国への注文や疑問も相次いだ。毎日は「中国は北朝鮮の命綱を握っているも同然だ」と指摘し、北朝鮮への影響力行使を求めた。読売は、核開発を続ける北朝鮮への制裁実施に中国が「慎重な姿勢を示してきた」ことが「今日の事態を招く一因になったとも言える」と不満を表明。安保理の制裁決議の厳格な履行を求め、「(北朝鮮の)貿易量の過半を握る中国の責任は重い。経済的テコは存分に活用すべきだ」と主張した。

 日経は、温首相訪朝の際に「北朝鮮との間で経済・貿易、教育分野などの協力文書に調印した」ことに疑問を呈した。「国交樹立60周年の記念訪問とはいえ、6カ国協議復帰の言質を取る見返りに、北朝鮮への経済支援を拡大した印象はぬぐえない」という「疑念」である。東京も中朝協定調印に触れ、中国の支援約束が「制裁決議の効力を弱めるという矛盾にもなりかねない」と指摘した。

 朝日には中国への注文がない。この問題を論じる上で適切な姿勢だろうか。

 この中国への疑問という点では韓国紙の方が表現が直接的だ。保守系大手紙のうち朝鮮日報は、制裁が実施されている状況での経済支援を含む協定調印を「過去の対処の過ちを繰り返すものだ。このようなアプローチは対北制裁の国際協力体制を崩し、6者会談参加国の対北交渉力を大きく下げる憂慮が大きい」と批判した。

 また東亜日報は「中国が対北影響力を維持するために国連が禁止した支援を約束したのなら安保理常任理事国の資格はない」と論じた。韓国政府は中国の支援について、無償援助などを行わないよう要請している安保理決議の除外規定の範囲内だと説明したが、一般的には疑問が残るところだろう。

 もっとも、中国が目立たない形とはいえ北朝鮮への物流を絞るなど制裁決議に協力してきたことも事実のようだ。いわばやんわり首を絞めた後でアメを口に入れてやるようなものだから、金総書記もうれしいばかりではあるまい。

 ◇政策転換の要求も

 一方、韓国の過去2代の政権の対北融和政策を支持してきた新聞「ハンギョレ」は、むしろ「中国が大規模援助と経済協力を約束した状況で、制裁を通じて北朝鮮を圧迫しようというのは言葉の遊びに過ぎない」と断じ、核放棄を約束しないと大規模支援しない方針の現政権に政策転換を求めた。韓国内部の鋭い左右対立を背景とする世論分裂を示している。

 さて、今後はどうなるか。米国では「今月中の早い時期」に第三国で実務レベルの米朝接触が行われる可能性が高いという研究者の見方が報じられている。これは米朝交渉でよく使われる方式だ。この接触で「落としどころ」を探った上で、米代表団が平壌に乗り込むのではないか。また北朝鮮の術中にはまり、絶対禁物の甘い合意に持ち込まれねばよいがと、祈るような思いである。【論説委員・中島哲夫】

毎日新聞 2009年10月11日 東京朝刊

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