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厚生労働相の諮問機関「中央社会保険医療協議会」(中医協)が30日、政権交代に伴う新委員選任後初めて開かれ、10年度の診療報酬改定議論がスタートした。新政権が掲げる「病院勤務医の処遇改善」をどう実現するのか、財源をまかなうのに診療報酬を何%引き上げるのかが最大の焦点だ。【佐藤丈一】
「開業医を多く抱える日本医師会(日医)が強い発言力を持ち、自らに有利な価格設定をしている」。そう判断した民主党は、中医協からの日医排除を図った。その結果日医の代表委員3人は全員外され、7人の診療側委員のうち、病院出身者は3人と過去最多になった。30日の中医協で厚労省の足立信也政務官は委員入れ替えについて、「都市や地方、病院や診療所の割合を加味すべきだ」と説明した。
開業医710円、中小病院600円--。2回目以降の診察にかかる再診料の価格だ。民主党は勤務医に不利な価格を見直し、待遇の改善を目指す。
両者の格差是正は厚労省の悲願でもある。同省は前回改定で開業医の再診料を20円下げるなどして400億円を捻出(ねんしゅつ)し、勤務医に回す腹だった。それが土壇場で日医が自民党を味方につけて反対し、構想はつぶれた。
「日医枠」に代わって選ばれた嘉山孝正委員(山形大学医学部長)は30日、記者団に「日医は勤務医を守っていなかった」と強調した。
日医は、「幅広い情報と深い経験をもとに意見を述べたい」と、外部から中医協に関与する意向だ。どこまで意見が反映されるのか未知数とはいえ、日医は政権を握った民主党への接近も視野に入れている。一定の票数を持つ日医を、民主党はむげにできるのか。新政権は正念場を迎える。
自民党政権は02年度以降、診療報酬全体を4回連続で減額してきた。民主党は「増額」を公約しており、10年度改定はプラスとなる公算が大きい。
「(鳩山政権の)命を大切にする政治とは、医療にもっと資源を配分することだ」
30日の中医協で厚労省の山井和則政務官は、診療報酬引き上げに強い意欲を示した。
ただ同じ診療報酬改定でも、薬価改定は薬の公定価と実勢価の差(薬価差)を縮めることが目的だ。10年度も減額改定が確実で、業界によると、薬価差縮小に1・5%程度のカットが必要という。
診療報酬1%当たりの国庫負担は860億円。薬価1・5%減なら約1300億円が浮く。旧政権は薬価削減分を社会保障費の抑制に充てていたが、新政権は公約に従い、「本体部分」を増やす財源とする意向だ。この1300億円に、どこまで上積みするかを巡る厚労・財務両省の攻防が今後本格化する。
民主党の医療政策を実現するには、診療報酬本体の5%(国庫負担約4300億円)アップを要するとの見方がある。ただ、国民の窓口負担に大きく跳ね返るため、増加幅を3%程度に抑え、一部財源を医療機関への補助金に回す案も浮上している。一方で、財務省は診療報酬の伸びを抑えにかかるとみられる。
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■ことば
治療ごとに定められた点数(1点10円)に基づき、医療機関が受け取る報酬。医師への技術料など「本体部分」と、薬の公定価格「薬価」に大別され、おおむね2年に1度、年末の予算編成時に改定率(対国民医療費)を決める。
毎日新聞 2009年10月31日 東京朝刊
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