韓国ドラマ「冬のソナタ」が中高年の女性を中心に社会現象を巻き起こしてはや5年。芸能ニュースで韓国人俳優の来日が伝えられることも少なくなり、「韓流」熱もすっかり冷めたと思いきや、何と今度は中高年男性がハマっているらしい。昨今の韓流事情を探ってみた。【小松やしほ】
じわじわ人気が上がっているのは韓国時代劇。「ファンの男性は確実に増えています」と話すのは 、韓国エンターテインメント・ナビゲーターの田代親世さん。日本における本格的な韓国時代劇人気の幕開けは04年からNHKBS2で放送された「宮廷女官チャングムの誓い」だという。「初めは女性が男性を引き込んだ面があると思います。でも『チャングム』は韓国でも男性に人気が高かったドラマ。それをきっかけに『時代劇はおもしろい』ということになったのでしょう」
DVDやCDレンタルショップ「TSUTAYA」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の08年の調査にこんなデータがある。
03年のレンタル開始から1年間で「冬ソナ」のDVDを借りた人を男女別に見ると、約4分の3にあたる73・3%が女性となっている。
ところが、05年の「チャングム」になると、男性比率が33・9%とグッと上がり、08年の「朱蒙(チュモン)」では44・7%、「大祚栄(テジョヨン)」になると、過半数の52・9%を占めるまでになっている。
鳩山由紀夫首相夫人の幸さんも大好きだという韓国ドラマ。韓流イコール、中高年の「オバサマ」の専売特許、ではなくなりつつあるようだ。
また、韓流レンタルに占める時代劇の比率も、07年4月の7・4%から、09年7月には32%にまで達している。
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埼玉県吉川市に住む男性会社員(50)の週末は、家族そろって韓国時代劇観賞だ。「チャングム」に始まり、「チェオクの剣」「海神(ヘシン)」「朱蒙」「薯童謡(ソドンヨ)」など、これまで見た韓国時代劇は20本以上に上るという。レンタルショップから5、6本まとめて借りてきて、夕食後はテレビの前に妻(46)、大学3年(21)、高3(18)、高1(16)の息子3人の総勢5人が勢ぞろい。俳優の細かい表情なども逃さないように集中して見るそうだ。
「最初、妻が『冬ソナ』を見ているときはバカにしていたが、仕方なく一緒に見ているうちに、おもしろいなあと思うようになった」と笑う。「主人公がこれでもか、これでもかと意地悪されたり、次々と試練が降ってきたり。ハラハラドキドキさせられるところがいい」。ご近所のおやじ仲間にも、妻と一緒に見ている人が多いと話す。
「冬ソナ」が一世を風靡(ふうび)していたころは"冬ソナ離婚"なる言葉も生まれたほどだったが、今や韓流は家族円満のツールとなっているようだ。
広告関係の仕事に携わる男性(48)は1年ほど前から韓国ドラマを見るようになった。初めに見たのは「冬ソナ」のヨン様ことペ・ヨンジュンさん主演の恋愛ドラマ「愛の群像」。「他に目に付くものがなく、たまたま手に取った」だけだが、見ているうちに「筋の膨らませ方や展開の速さにグイグイ引き込まれ、すっかりハマりました」。最近はもっぱら時代劇専門。同僚の女性(50)と情報交換しながら楽しんでいるという。
マスコミ関係に勤める男性(47)も「冬ソナ」が入り口。ラブコメディーなどの恋愛もの、ホームドラマなどを経て、やはり今は時代劇派だ。「100本近くは見ていると思います」。最近はケーブルテレビにも加入。韓国ドラマを放映するチャンネルも多いので、楽しみにしているという。「日本のドラマには骨太の作品があまりなく、私たちのような中年には魅力がない。じゃあ他のものというと、1、2年で消えるようなお笑いタレントが騒いでいるような番組ばかり。韓国時代劇はスケールも大きいし、見応えがある」と話す。
ドラマだけではなく、韓国そのものにも興味を持つようになり「近くて遠い国だった」韓国に、この数年で10回以上も旅行したという。10月の3連休でも行ったばかりだ。「文化を入り口にビジネスや経済など、会社員としての興味の範囲も広がった」と話す。
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男性は韓国時代劇のどこに魅力を感じるのか。
東京都東大和市に住む男性(61)は「日活や大映など、華やかだったころの日本映画をほうふつとさせるような作りがいい」と語る。さらに「史実をベースにしているが、敵と味方がいて互いに足を引っ張り合うなど、現代にも通じる人間関係が描かれているのがおもしろい。俳優陣もうまい」とべた褒め。韓国時代劇の情報を満載した雑誌を購入し、次回は何を見ようかと考えるのも楽しいと話す。
田代さんは「日本のドラマは中高年の男性に見応えあるようには作られていない。その点韓国では、まだ一家みんなで一台のテレビを囲むので、基本的に老若男女が見て楽しめる作りになっている」と話し、「もともとオジサンは大河ドラマなどの時代物や、時代小説が好き。韓国時代劇とも通じるところがあるのでは」と分析する。
まだ韓国時代劇を見たことがない、という人のために、お勧めを聞いた。
田代さんのお勧めは「『チャングム』と『朱蒙』は見たという前提で」と前置きしたうえで「商道(サンド)」▽「海神」▽「イ・サン」――の3作。「商道」は貧しい境遇に生まれながらも苦労の末、財をなし、低い身分から高官にまで上り詰めた実在の大商人を描いた話。「海神」もやはり低い身分の主人公が成功していく様が、海を舞台に描かれている。イ・サンは現在、NHKBS2で日曜午後9時から放送中だ。さらに田代さんは「これからは女性が主人公のものが注目です」と、BSフジで木曜午後7時から放送中(再放送は金曜正午からと土曜午後5時から)の「善徳(ソンドク)女王」も挙げる。
CCCの韓流担当者が勧めるのは「風の国」。「『朱蒙』の主人公の孫の話だし、主演俳優も同じなので、『朱蒙』を見た人はぜひ」という。韓国版大奥といった趣の「チャン・ヒビン」「女人天下」もお勧めだそうだ。
オジサマ方、秋の夜長に試しに見てみたらいかがでしょう。ハマるかもしれませんよ。