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きょうの社説 2009年11月7日
◎新潟の審査申し出 理解し難い泉田知事の頑固さ
北陸新幹線の建築認可をめぐる国土交通省と新潟県の「対立」が、国地方係争処理委員
会に持ち込まれることになった。係争処理委は、自治体の事務に対する国の関与の妥当性を審査するのが本来の役割であり、過去には、横浜市の独自課税に総務省が同意しなかったことについて、同市が異議を唱えた例があるだけだ。谷本正憲石川県知事の言葉を借りれば、国交省の「単なる行政手続きの一部」である認可に関する行き違いが、果たして係争処理委で取り扱う案件としてなじむのかどうか。泉田裕彦新潟県知事の頑固さは理解し難い。前原誠司国交相は、先月8日に泉田知事を含む沿線4県知事と会談し、翌9日に泉田知 事が同意していないのを承知の上で建築認可に踏み切った。工事の一部を請け負うJR東日本、西日本は認可の遅れが金沢開業の遅れにつながる可能性を指摘しており、いつまでも立ち止まっていては、早期認可を望む新潟以外の3県が不利益を被る恐れがあった以上、国交相としてはやむを得ない決断だったと言えよう。 もともと、新潟県が要求していたのは建築認可をストップすることではなく、地元負担 金の増額分の内訳を開示することなどであったはずだ。同県は、先月8日の会談について、国交省から「法律で義務付けられている都道府県からの意見聴取ではない」との説明を事前に受けていたとして、係争処理委に対して認可に瑕疵があると訴えているが、泉田知事がいささか感情的になり過ぎて、要求の本筋からはずれてしまっているような印象は否めない。 係争処理委で、国交省と「言った」「言わない」と議論しても要求に対する答えが出て くるとは思えない。新潟県には国交省と冷静に協議することを求めたい。 新潟県の申し出に対し、前原国交相は「話し合いがないというのは事実に反する」と反 論、新幹線建設に関する作業は止めない方針である。金沢開業に向け、時間的な余裕が次第になくなりつつある中で、当然の姿勢だろう。一知事の突出に振り回されず、粛々と工事を進めてほしい。
◎連続不審死事件 死因究明制度の充実を
埼玉、鳥取県警にそれぞれ詐欺容疑で逮捕された女の知人男性が相次いで不審死してい
た2つの事件は、まだ捜査段階とはいえ、死因を究明することの重要性をあらためて浮かび上がらせている。点から線につなげる捜査の進展で真相は次第に明らかになるだろうが、死亡男性の中には解剖されないまま、「病死」「自殺」と処理された事例もある。事件性の有無を判断する検視の在り方などが適切だったのか検証する必要がある。警察の検視で「病死」とされた力士暴行死事件をきっかけに死因究明制度の充実を求め る声が高まり、検視官の養成や解剖率を高める議論が始まっている。事件に巻き込まれて亡くなった人が自殺や病死扱いになれば犯罪を助長することにもつながりかねない。警察は検視の精度を高める機器の導入なども積極的に進めてほしい。 埼玉県警に詐欺容疑で逮捕された女に関しては複数の不審死への関与が疑われ、このう ち千葉県松戸市の男性は検視で病死と判断され、東京都青梅市の男性は自殺とされた。いずれも司法解剖は行われていなかった。 8月に埼玉県内の車内で死亡していた男性は一酸化炭素中毒による練炭自殺とみられた が、自殺の動機が見当たらず、現場の状況も不自然な点があったことから交際していた女が浮上し、別の男性の不審死が次々と明らかになった。 現場の矛盾に気付いたことが一連の捜査開始につながったわけだが、見方を変えれば、 別の事件で端緒が得られなければ犯罪が見逃される危うさも示している。 一方、鳥取県で同じ女と接点があった複数の男性が不審死した事件でも、過去に水死や 列車事故などとされたケースの洗い出しが進んでいる。捜査の過程で検視体制の教訓も引き出す必要がある。 警察庁によると、昨年1年間に全国の警察が扱った遺体のうち、死因究明のための司法 解剖や行政解剖が行われたのは9.7%にとどまり、背景として検視官や専門医の不足も指摘されている。犯罪を見落とさないためにも人材確保を含めた態勢強化は急務である。
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