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社説

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プルサーマル―運転は厳しい目のもとで

 国内初のプルサーマルが、いよいよ動き出した。

 原発の使用済み燃料から得られるプルトニウムをウランと混ぜてMOXという燃料をつくり、これを普通の原発で燃やして発電する方法である。

 九州電力が、佐賀県の玄海原発でMOX燃料を取りつけた3号機の原子炉を起動させた。順調なら12月初めに営業運転に入る。来年は、四国電力の伊方原発や中部電力の浜岡原発でも始まる予定だ。

 当初の計画から10年も遅れてのスタートである。英国の核燃料企業によるMOX燃料のデータ改ざんや東京電力の原発トラブル隠し、JCO臨界事故など不祥事や事故で原子力への不信感が強まり、各原発の地元の理解がなかなか得られなかった。

 プルサーマルが60年代に始まった海外では、これまで深刻なトラブルは起こっていない。とはいえ、日本は初心者だ。どんな小さなトラブルの芽も見過ごさぬよう、電力会社は安全管理を強めなくてはならない。

 プルサーマルの始動に立ち会う鳩山政権は、これまでの原子力安全行政を見直すなかで、原発に対する監視の目を強め、運転の透明性を高める工夫をしてほしい。そうでないと、原発への信頼感は定着しないだろう。

 一方、プルサーマルの背景には、プルトニウムの在庫を減らさないといけない事情がある。

 プルトニウムは兵器にも使えるため、在庫が増えれば核武装の意図を疑われかねない。核拡散やテロの心配も無視できない。MOX燃料にして消費すれば、その不安を小さくできる。

 いま、日本のプルトニウムは、再処理の委託先の英仏に24トンあるほか、国内にも4トン余りある。プルサーマルでこれらの在庫を燃やしていくことは、「余分なプルトニウムをもたない」という日本の国際公約に沿う。

 電力業界は、15年度までに全国16〜18基の原発にプルサーマルを広げる計画だ。実現すれば、年間6トン前後のプルトニウムを消費できるという。

 ただ、今回のプルサーマル始動は、プルトニウム利用の第一歩ととらえるべきではない。

 国内で商業再処理を進めて新たなプルトニウムを手にし、「利用」の本命である高速増殖炉を動かす――。こうした本格的な核燃料サイクル政策の是非は、プルサーマルによる在庫の「消費」とは切り離して考えるべきだ。

 使用済み燃料からプルトニウムを取り出して再び使うのか。それとも原発燃料の使用は1回にとどめ、プルトニウムを取り出さずに処分するのか。

 鳩山政権が引き続き原子力をエネルギー供給の柱の一つと考えるのなら、この問題で国民の合意点を見いだす努力をしなくてはなるまい。

金融政策―デフレの悪循環を阻め

 デフレスパイラル。物価が全般に下がり、企業の売上高や生産、雇用が減少する。経済全体が縮小し、物価はさらに下がる。そんな悪循環の縁を、日本経済は注意深く歩み続けなければならないようだ。

 日銀が先に発表した「展望リポート」で、物価下落は11年度まで続くとの予測が示された。新興国への輸出をテコに経済成長率は10年度からプラスに転じ、物価下落幅も徐々に小さくなるという見立てだが、そううまくいくかどうか。楽観は禁物である。

 日本はバブル経済の崩壊後、先進国として第2次大戦後初のデフレに陥った。広範な物価下落が経済を圧迫する構図から抜け出せないまま、世界危機でデフレが再び深刻化しつつある。スパイラルに落ち込まないよう細心の注意が必要なのだ。

 デフレは総需要の不足から起きる。これを克服するには当面、財政と金融の両面からの景気刺激に頼るしかないが、それを新しい産業と雇用の創出に向けた中長期の経済成長戦略と組み合わせることが大切だ。たんに需要不足を補うだけではいけない。

 一方、日銀は昨秋のリーマン・ショック以降に打ち出した企業の資金繰り支援策の一部を段階的に解除すると発表した。手形の一種であるコマーシャルペーパーと、社債の買い入れを年内で終える。最近は利用が減り、使命を終えたと判断した。

 社債などを担保として金融機関に金利0.1%で無制限に企業向け資金を貸す企業金融支援特別オペレーションを来年3月で終えることも決めた。

 いずれも、大企業の資金繰りすら危うくした異常な金融収縮がひとまず収まった状況を映したものだ。今後もし景気が二番底に陥れば、再び発動することもためらうべきではない。臨機応変の姿勢が欠かせない。

 市場関係者も、これらの措置が金融緩和に幕を引く「出口戦略」の始まりであると受け取ってはならない。

 中間決算の発表に表れたように大企業の収益は持ち直してきたが、鉱工業生産がなお低水準にあるため、中小企業の経営は危機的な状況が続いている。持ちこたえられなくなった企業の倒産が増えれば、デフレと不況はますます長期化しかねない。

 政府が臨時国会に出した「貸し渋り対策」の法案も中小企業の危機を重視したものだ。日銀も「金融緩和の状態をねばり強く続ける」とし、金融機関から中小企業に資金がしみ出すことを狙っている。

 景気を二番底に陥らせないためにも、当面は雇用対策の強化と並んで中小企業向けの金融に力を注ぐことが大切である。

 政府と日銀が連動することで、大きな効果を発揮するよう期待したい。

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