トヨタ自動車は4日、F1から2009年限りで撤退すると発表した。10年3月期決算で2年連続の赤字が見込まれる中で、年間数百億円の経費負担を続けるのは困難と判断。エンジン供給など一部活動も残さずに完全撤退し、ドライバーや専門スタッフの移籍先を探す。トヨタは02年からF1に参戦し8年間で入賞87回、3位以内に13回入ったが、優勝は1度もなかった。08年を最後にホンダが撤退し、ブリヂストンも10年限りでタイヤの供給を停止。F1から日本チームが姿を消すことになった。
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トヨタの東京本社で会見した豊田章男社長は、200人以上の報道陣を前に無念の心情を吐露した。「ファンのみなさんの期待を裏切ってしまった。大変苦渋の決断だった」。口を真一文字に結び、F1撤退について説明した。同席したモータースポーツ担当・山科忠専務は男泣きした。
巨額赤字の現状と、F1で頂点に立つ夢-。相反する命題の前で、苦しんだ末の決定だった。国際C級ライセンスを持つ豊田社長は国内外レースに自ら参戦するレース好きで知られる。参戦チームの中で最も潤沢な予算があると見られていたが、世界的不況が“巨人”をも直撃。「経営は引き続き厳しい。社長になって立場が変わった」。1シーズン数百億円にも上るF1コスト削減を優先せざるを得ない事情に迫られていた。チームは予備部品を減らし、幹部がエコノミーで飛行機移動するなど懸命に経費削減を続けていたが、限界だった。
02年から、技術力向上と欧州でのイメージアップなどを目指して参戦したが、トップチームにはなれなかった。今後、本社は中国など新興市場向けの車や、需要が拡大する環境対応車に経営資源を集中し、早期の黒字転換につなげる考えだ。
F1にエンジン供給もせず、完全な撤退となる。7月にはトヨタの子会社で07、08年に日本GPを開催した「富士スピードウェイ」がF1開催の中止を表明。「今季中に勝てなければ撤退するのでは」という説がパドックに出回った。悲願の初勝利は叶うことなく、そして噂(うわさ)は現実となった。
ホンダ、ブリヂストン、ついにはトヨタ…。経済情勢の悪化を受けて、日本企業では、レース活動からの撤退が相次ぐ。来季は日本系チームがないだけでなく、日本人ドライバーが見られなくなる可能性も高い。日の丸ブランド撤退は、陰りつつあるF1人気にさらに影を落としそうだ。