きょうの社説 2009年11月6日

◎松井ついに世界一 郷土を奮い立たす努力の軌跡
 ベースボールの世界一が決まったワールドシリーズ。ヤンキースタジアムを揺るがす熱 狂と歓喜の渦の中心に松井秀喜選手がいる。メジャー挑戦から一貫して言い続けてきたシリーズ制覇、しかもMVPという勲章付きの輝かしい栄誉を郷土のファンも感慨をもって受け止めたことだろう。

 手首骨折やひざの故障に泣かされ、シーズン当初は限界説もささやかれた。野球人生で 経験したことのない重圧だったに違いない。それを乗り越え、自らのバットで世界一の座をたぐり寄せたのは見事というほかない。夢を追い続けた努力の積み重ねと決してあきらめない不屈の精神にふるさとからひときわ大きな拍手を送りたい。

 松井選手は今年35歳になった。星稜高1年で甲子園デビューして以来、地元ファンは 20年間、松井選手の成長を見続けてきた。これだけ長きにわたって郷土の幅広い世代の関心を引きつけてきたスポーツ選手はいないかもしれない。

 社会的な論争を呼んだ夏の甲子園での5連続敬遠と、一言も不満を漏らさない姿。巨人 入団、そして不動の4番打者へ。2002年オフにメジャー挑戦を表明したとき、「何を言っても裏切り者と言われるかもしれないが、命を懸けて頑張りたい」と悲壮な覚悟で語った。あの時から世界の頂点をめざす松井選手の夢を共有し、心の振幅をより大きくして見守ってきたのが地元ファンである。松井選手の歩みは郷土を奮い立たせる努力の軌跡と言ってよいだろう。

 地元の人々が松井選手を愛してやまないのは、松井選手が他の選手以上に強い郷土意識 を野球人生の糧にしてきたからでもある。メジャー移籍後も実家で1年のスタートを切り、年末のカウントダウン・コンサートにも出演するなど地元との交流を何より大切にしてきた。スポーツ選手と郷土が支え合う理想的な関係がそこにある。

 今季はヤンキースとの4年契約終了年であり、松井選手の去就に視線が注がれている。 これからどんな道を歩むにせよ、ふるさとに与えてきた勇気や感動、子どもたちへの影響の大きさにこたえるためにも心からの応援を続けたい。

◎プルサーマル始動 鳩山政権で展望開けるか
 九州電力が玄海原発3号機で、使用済み核燃料の再利用(プルサーマル)を開始した。 1997年に閣議決定されたプルサーマル計画がようやく営業化への一歩を踏み出したが、電気事業連合会は2010年度までに16―18基導入するとした当初計画を5年先延ばししており、先行きはなお不透明である。国策として進められてきた「核燃料サイクル」について鳩山政権の基本的な考え方をもっと明確に説明し、実現の道筋をつけてもらいたい。

 温室効果ガスの大幅削減をめざす民主党は、エネルギーの安定供給と低炭素型社会実現 のため、原子力発電の推進を衆院選マニフェスト(政権公約)に明記しているが、核燃料サイクル政策に関しては具体的に論じていない。

 一方、連立を組む社民党は「脱原発」の方針を変えておらず、プルサーマルを含む核燃 料サイクル計画は、高速増殖炉の事故などで「破たんしている」と主張している。玄海原発の地元佐賀県では民主党県議が先の県議会で、プルサーマルの延期を求める請願に賛成するという具合で、鳩山政権も民主党も核燃料サイクル政策に関して一枚岩ではなく、方向性が固まっていないのである。

 玄海原発でのプルサーマル開始で、日本の原子力発電はプルトニウムを燃料として再利 用する時代に入ることになるが、プルサーマルはプルトニウム利用計画の「つなぎ役」であって、本来の目標は高速増殖炉である。

 しかし、高速増殖炉は実用化のメドが立たず、使用済み核燃料を再処理する際に出る高 レベル放射性廃棄物の最終処分場は、まだ候補地も決まっていない。さらに、プルサーマル発電に用いるMOX燃料を使用した後の処理方法も未定という状況である。鳩山首相は核燃料サイクル政策を推進したい考えというが、全体計画の展望を示す必要があろう。

 東京、関西両電力の不祥事で図らずも先頭を走ることになった九電の取り組みは、後に 続く電力各社のプルサーマル実用化の試金石ともなる。ミスのない運転で安全性を実証してもらいたい。