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2008年8月27日

アフガニスタンでペシャワール会スタッフが拉致

アフガニスタンで復興活動を行う日本のNGO・ペシャワール会のスタッフが武装集団に拉致された。ペシャワール会の中村哲さんには以前からお世話になっていて、私がもっとも尊敬する人物のひとり。9・11後のアメリカによるアフガニスタン空爆直前、私はパキスタンとアフガニスタンの国境にあるペシャワール会の病院を訪ね、現状調査をした。当事も若い日本人スタッフが現地の住民と共に生き生きと働いていた。安否情報が混乱しているが、政府は一国も早い伊藤さんの救出に全力をつくすべきだ。

今回の事件報道で、痛感したことが二つ。
ひとつは、「そこまでアフガンの状況は悪化しているのか」ということ。
長期にわたる活動で地元の信頼を得てきたNGOスタッフが狙われたこと。「だれもが行きたがらないところへ行く」を行動理念にしてきたペシャワール会すら、現地撤退を進めていた矢先だったらしいこと(中核スタッフの伊藤さんも将来的な撤退を計画していたという)。そして、海外メディアが今回の事件をほとんど報道していないこと(少なくとも昨日のBBC、アジアパシフィックニュースはまったく触れていない)。つまり、アフガンではNGOやジャーナリストが拉致・襲撃に巻き込まれるケースが恒常化していて、もはやニュース性が乏しいということだ。
安保委員会でも繰り返し述べてきたが、米軍・NATO主体の国際治安支援部隊(ISAF)が行う軍民一体型の復興支援活動(PRT)が始まり、NGOが活動しにくくなったという現地報告がある。人道復興支援は非武装で中立だからこそ現地の信頼を得られるというのが国際的な常識だ。しかし軍隊と一緒に活動するPRTが入ってきたことで関係がくずれるケースが後をたたないという。アフガニスタンで長い間活動してきた「国境なき医師団」も、ついに死者を出し撤退を余儀なくされたことは記憶に新しい。

もうひとつは、憲法で武力による紛争解決の放棄を掲げた日本への「美しき誤解」が危機に瀕しているということ。
以前、当時のアフガニスタン大使が、日本は「美しき誤解」をされている、と述べた。インド洋に自衛隊を出して米軍などに給油をしても、上陸していないから中立と思われ信用されているというのだ。
8月23日、社民党の政策セミナーで、紛争解決の専門家であり、アフガニスタンで武装解除を指揮した伊勢崎賢治さんに話をうかがった。伊勢崎さんは、いまのアフガニスタンは世界の麻薬の9割を産出する「史上最悪の麻薬国家」であり、「かつてないほどの治安悪化」を指摘する。
もともとアフガニスタンは地方の軍閥が割拠し内戦を繰り返しており、それがタリバン台頭の要因となった。タリバンとの「テロとの闘い」を始めたとき、地上戦で犠牲者を出したくないアメリカは、軍閥の力を利用してタリバンをパキスタン国境へ追いやった。それが北部同盟だ。その後、新米統一政権をつくりにあたり、アメリカにとって今度は武装した軍閥がじゃまになった。それを感じた軍閥は、タリバンによって一時は衰退した麻薬栽培を競って再開した。麻薬産出量が以前をはるかに凌駕するのに長い時間はかからなかったという。
こうした状況下で、日本は軍閥の武装解除を担当し、伊勢崎さんらの努力もあって武装解除に成功する。これに先立つ2004年11月、アメリカは大統領選挙を迎えた。再選をめざすブッシュ大統領の強い要請により、国軍や警察の再建、司法整備や麻薬対策が整わないうちに武装解除だけが先行。国内に「力の空白」ができたことで、タリバンが息を吹き返す結果を招いてしまう。武装解除に応じた地方の軍閥は中央政府に地位を得るなどするが、汚職ははびこり、麻薬利権は以前のままだという。現地の軍事関係者にとって、「軍事力だけでは問題は解決しない。内政を再建が急務だ」というのは共通認識だ。
そんななか、日本はインド洋で給油活動を続けてきたが、そもそも給油活動が行われていることを関係者はほとんど知らなかった、と伊勢崎さんはいう。いわばアメリカへの義理立てにすぎなかったのだ。しかし安部前総理が「職をかける」と大騒ぎしたことで、国際社会に告知し、日本は自ら手を引きづらくなってしまった。

拉致された伊藤さんは、自衛隊の派遣が取りざたされたころ、当時の会報に不安をつづっている。「(04年)9月に情勢変化が起こる可能性が高いのではという事があり、急ぐ必要がある」――自衛隊の参加が決まれば、敵方と見られ攻撃のターゲットになるリスクを感じていたのだ。
そして日本は自衛隊派遣を決めた。戦争であるかどうかを決めるのは、「非戦闘地域」などという、世界の軍事関係者が聞いたら意味不明なしろものではない。法的根拠がすべてだ。日本が参加しているOEF-MIOは、アメリカ軍による「不朽の自由作戦」の「海上阻止行動」である。自衛隊が参加しているのは国連の平和維持活動でなく、アメリカの軍事作戦だ。私たちは、そういう戦争に参加していることを忘れてはならないはずだった。これも、国会で何度も繰り返してきたことだ。

しかし現実に事件は起こった。「非戦闘地域」などと空想を信じて疑わない平和ボケした政治指導者によって「作戦参加」は喧伝され、日本の「美しき誤解」は雲散霧消し、武器をもたず本当の人道復興支援を続けてきた若者が狙われた。現場にいる彼らのリスクを高めたのは、まちがいなく日本の政策だ。
福田総理、これでも給油継続を続けますか。必要なのは、「報復」でも「アメリカへの仁義」でもありません大儀なき「戦争参加」の即時中止です。

ここまで書いたところで、現場近くで日本人らしい遺体が発見されたとの一報が入る。身元確認が急がれるが、心から無事を祈ってやまない。


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辻元清美ブログ


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