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きょうのコラム「時鐘」 2009年11月5日
古典落語界では初の文化勲章受章者となり「珍事かもしれない」と語った桂米朝さん(83)はこの9月、金沢の「赤羽亭南光(なんこう)・米團治(よねだんじ)ふたりの会」でこんな昔話をしていた
「金沢には一九席(いっくせき)というのがありましたな」。「師匠も出てたんですか」と聞かれて「いや、私らの一世代前、先代の米團治(米朝さんの師匠)が出てたそうや」と懐かしんだ。昭和初期のことである 「一九席」は明治後期、下新町に生まれた。先日、復活した旧町名である。その後移転して昭和9年に消えるまで全国に知られた寄席だった。中世には市が立ち、江戸中期には俳人・立花北枝(たちばなほくし)が住み、明治には泉鏡花が生まれた町だ 同時に復活した上堤町とともに、歴史のバームクーヘンと呼ばれる多彩な物語が重なる町である。町の昔を語り継ぐのは地元の人だけではない。全国の芸人や旅人の記憶にも残っている。その思いも背負って、金沢の旧町名復活の水脈は静かに流れている 過去の遺産を埋もれさせないのは、豊かな歴史と伝統を持つ都市の責任だ。簡単に「おあとがよろしいようで」と幕を閉じるわけにはいくまい。 |