Sound Horizonが、8月1日に最新マキシ盤『聖戦のイベリア』を発売する。これは、中世スペインを舞台にした中編物語。その全貌を、Revoに伺った。

[TEXT:長澤智典]

◆物語の舞台は、中世スペイン『レコンキスタ』の時代

−−『聖戦のイベリア』の構想を練り始めたのは、いつ頃からでした?

冬頃から、作品のことは考えてましたね。「こういう内容にしよう」という構想は早くから考えてたんですが、やはり下調べに非常に時間を費やしたと言いますか。"レコンキスタ"という舞台を選んだように、前から知ってはいたことなのですが、より内容を深くしていくためにもと、あらためて当時のことを調べ直し、もっと細かい部分までしっかり検証し。そのうえで、どういう切り口で物語を描いていくかを考えていったのですが…切り口が見えてくると、さらに下調べが必要な要素が出てくる。そこで再び下調べに時間を費やしたりと。そういう面では、非常に時間をかけて制作は行っていきました。

−−何故、中世スペインを舞台にしたんですか?

この物語を作る際に一つ捉えていたのが、"史実を忠実に再現すれば良いのか…と言えば、決してそうではない"ということ。その"史実をベースにしながら、いかに幻想的な物語としてのメッセージを与えていく"かということが、機軸としてあったんです。スペインと言えば、僕たちは、"情熱的な国"という印象や、音楽や食べ物、建築などの文化に憧れの印象を抱くことが多いと思うんです。僕自身は、"戦いの系譜"でもある歴史的な背景に着目したとき、一番に心に残ったのが"キリスト教国によるイベリア半島の再征服活動"のことを総称した"レコンキスタ"だったんです。このレコンキスタと呼ばれる時代は、この先の大航海時代を切り拓くスペインという国の大きな転換期となった時代で。その事象が、スペインという国を象徴する重大な歴史としても、僕の目には映ってきました。

−−レコンキスタ…簡単に言ってしまえば、宗教戦争ですよね。

学者の見解によると経済戦争という側面もあるようですが、宗教を背負った文化の対立という軸で僕は描いています。キリスト教文化のあったヨーロッパに、イスラム教文化が入り込み、争いが起きていった。じつはその二つの異なる文化の出会いこそが、現在のスペイン文化を形成する重要なルーツとして顕在しているんです。また当時としては最先端の科学や数学を誇り、ギリシアを源流とするローマ支配化時代この地に入った文化は、逆輸入に近い形でルネサンスにも影響を与えました。

◆兄と弟の中に込めた、深いテーゼ

−−もしや『聖戦のイベリア』に登場する"兄と弟"というのは、その"宗教間の対立"のことも意味してるんですか?

そうですね。おっしゃられたよう、"兄と弟"という関係の中には、"宗教"というものも入っていますし、一つだけには絞りきれないいくつもの概念を、その関係性の中に含ませています。他にもどんな暗示がされているのか考えてみるのも面白いんじゃないでしょうか。たとえば、「聖書に記された"創世記"に、争いはありましたか?」「その後何千年と時を経た中世の時代にも、争いはありましたか?」「じゃあさらに何千年も経った現在、争いはなくなりましたか?」「歴史を駆け巡る"兄と弟"は、今何をしていますか?」と。

−−その歴史的背景を、Revoさんなりの視点を通し、一つの幻想的な物語として作りあげていったわけですね。

争いが起こる時、きっと当事者どうしは、「自分たちが正義だ」と思っているからこそ、その信念を持って争いを繰り広げているのでしょう。だからこそ、「今でも世の中には"争いの系譜"が綴られている。それに対して、君はどう思いますか?」と、創世記・中世・現在という3つの視点を通し、問いかけてみたかった。僕自身は、「何が正義で、何が悪なのか」と決めつけるつもりはないし、一個人がそう簡単に断言していいような次元の話でもありません。僕はこの作品で悪魔という存在を描き、そこにはフィクションとしての要素も取り入れているのですが、もちろんその悪魔に対しても、「その悪魔が必ずしも悪なのか?」という部分も含め、聞き手の解釈に委ねていく形を取っています…。

−−「何が正しい」という結論は、正直なところ出せるものではないですからね。

この作品は、「何故、人は争うのか?!」という問いかけを詰め込んだ物語なんです。けっして「戦争が起こることの原因を追求した作品ではない」し、それは簡単に歌になどできることではありません。実際3曲を通した中でも、明確な結論を出しているわけではないんです。もちろん無理に「その答えを問う!!」と言うつもりもないよう、描いた物語以降のことに関しても、聞き手の想像に委ねようかなとは思っています。

−−なるほどねぇ。3曲目に収録した『侵略する者される者』など、まさに侵略の歴史を形にした楽曲ですからね。

長い歴史の中、侵略する者は再び侵略されるんですよね。たとえばの話、「お前たちは、俺たちの生まれ育った土地を奪おうとする侵略者じゃないか」と侵略される側が主張したとしても。確かにその時代に、その地で生まれ育った人たちは、そこが自分たちの故郷になっているかも知れないけど。その土地の歴史を遥かにさかのぼると、じつは侵略されたと思っている人たちの祖先が、過去に侵略者として彼方からやってきたのかも知れないと。ましてヨーロッパは、大きな陸続きの中で古来より侵略の歴史を繰り返してきましたからね。当然、それが良いとか悪いと言う次元の話ではなくね。

−−これだけの大きなテーマを3曲にまとめあげるのは、かなり大変だったんじゃないですか?。

大変でしたね。正直、語りきれなかった面もありますが、語りきれなかったと言うよりは、語らなかったと言ったほうが正しい部分も多くあるし。だからこそ、それがこの中編小説に例えた、"StoryMaxi"の魅力でもあるんじゃないかな。あえてそこまで踏み込まないほうが、作品として面白くなることってあるじゃないですか。もちろん、自分なりの答えのようなものを見出したうえで、3曲の制作には入ってますけど。その答えは、リスナーの皆さんが自分自身に問いかけていく題材にもなっていますからね。

◆これは作品を通したミュージカル?!

−−この作品の特徴としてあるのが、物語に合わせヴォーカリストを起用している点だと思っています。

アルバム『Roman』で僕は、「この曲は、この人が唄い、表現する」という形を主に取りながら、何人かのヴォーカリストたちを通し世界観を描き出していきました。でも今回『聖戦のイベリア』では、まったく逆となる、「その楽曲を表現するために、何人もの人間が力を合わせ、一緒に楽曲として紡いでいく」形を取りました。端的に言うなら、「この作品自体がミュージカルであり、ヴォーカリストたちは、その物語を彩るキャストたち」のようなもの。そういう意味でも"Story Maxi"というのは相応しいんじゃないでしょうか。

−−それって、Sound Horizonとしては一番理想的な形なんじゃないですか?!

理想の形ではあるけど、これもまた一つの可能性を形にした形態でしかないとも思ってます。今回の制作においても、じつは新メンバーを起用することはできたんですが、あえて『Roman』と同じメンバーで演ったというのも、「『Roman』のメンバーたちを、また違った方法論で起用したら、その中でどんな個性を発揮していくのか」という命題があったからなんです。実際にヴォーカリストたちには、今回唄うだけではなく、多少の語りもやってもらいながら、より表現の器を広げていく作業を施していきましたからね。

−−そんな『聖戦イベリア』、Revoさんにとって、どんな作品になったと思います!?

『Roman』のときに、"集大成作"と言ったんだけど、これもまた、違った方法論でそれくらいの手応えを感じているし。"3曲通して一つの物語になっていくストーリー作の集大成盤"という手応えも、僕自身は感じています…これらの作品は、本当に唯一無二の"Sound Horizon"らしい形を作り得るための一つの系譜となっていく作品なんだと思います。これからの活動にも是非ご期待を。

−−『聖戦のイベリア』に関しては、まだまだ続きがありそうな形で終わりますよね。

ちょっと嫌な終わり方をしてますからね。「そこから、物語はどうなったんでしょう」というのは、皆さんに委ねようと思ってます。
あと、これも聴いた人にお任せすることなんですが、僕自身は"この曲はここにも繋がっていくんじゃないか"という罠をいくつも張ってます。そこでひっかかりを覚えてもらえる人がいたら、それもまた一つの楽しみ方になっていくのかな…とも思っています。

◆Sound Horizonのアルバムは、聖書のような存在

−−「数量生産限定盤」には、DVDも付いてきます。

収録してあるのは『聖戦のイベリア』を再現したPVではなく、あくまでも「発想の転換として描き出した、もう一つの世界観」ということ。そこを踏まえつつ、また違った視点で、この映像も楽しんでください。

−−あの世界観を映像化するなら、ハリウッド映画並の予算が必要ですからね(笑)

まさに。最近『Roman』が、Sound Horizon×桂遊生丸先生という形のもと、「ウルトラジャンプ」で漫画連載にもなっているんですけど。やはり描く人によって、捉え方は変わっていくもの。それを僕自身はすごく楽しんで読ませていただいてるよう、この作品に関しても、本当に聴いた人なりの解釈で楽しんでいただきたいんですよ。

−−言ってしまえば、Sound Horizonのアルバムって、いろんな紐解き方をしていく聖書みたいなものですからね。

すべての想像の物語は、そこから始まっていきますからね。その物語をどう紐解いていくかは、それぞれが楽しめば良いことだと、僕は思っています。

−−8月中旬より、『Sound Horizon Live Tour 2007 -第二次領土拡大遠征-』がスタートします。

音源には、音源なりの楽しみ方があるよう、ライブではライブなりの楽しみ方を描き出していこうと思ってます。もちろん、視覚的な演出もいろいろ施していくつもりですし、会場に来た皆が、僕達と一緒に唄ったり、飛び跳ねたりと楽しく盛り上がってもらえるよう準備をすすめています。これを期に僕達を知った皆さんも、一緒にSound Horizonの描き上げる世界に民として参加してもらえればと思います。

リリース情報

『聖戦のイベリア』アルバム

Sound Horizon
2007.08.01 On Sale
【数量限定生産盤】
¥1,800(税込)/KICM-91208
※ビデオ・クリップ収録DVD付
【通常盤】
¥1,200(税込)/KICM-1208
発売・販売元:キングレコード
1.争いの系譜
2.石畳の緋き悪魔
3.侵略する者される者

モバイル

Sound Horizonスペシャルモバイルサイト
キングレコードモバイルにてRevoスペシャルオリジナル着ボイスが手に入る特設ページ展開中!!あの名言があなたの携帯に!
着うた・着うたフルも配信中!!
http://www.soundhorizon.com/mbl/
 

プロフィール

【Member】
作詞/作曲/編曲:Revo
ヴォーカリスト:KAORI、YUUKI、REMI、RIKKI、じまんぐ 他

【幻想楽団【Sound Horizon】とは?】
領主こと、サウンドクリエイター【Revo(作詞/作編曲)】が主宰するアーティスト集団であり、これを自ら[幻想楽団]と称してはいるが、既存の《楽団》と言う考え方とは意を異にする部分もある。
それは、幻想的な物語を音楽的に表現する為に相応しい楽団員を、その都度必要な人数集めて編成するという希有なスタイルであり、歌い手/語り手の人数・性別も限定はしていない。
彼らの音楽を一言で言えば「物語音楽」ということになるのだが、アルバム1枚が小説や映画のように一つのテーマの物語になっているのが最大の特徴である。所謂コンセプトアルバムの様な「1つのテーマに沿った数曲を集めたアルバム」といわれるものより「アルバム1枚を組曲に見立て構成する『組曲形式』」という考え方が近いかもしれない。彼らの作品のコンセプトの根幹には、生と死、表と裏、陰と陽、愛と憎しみ、喜びと悲しみといった、二面性を持つ人間の根源に関する問いかけがあり、聴き込む程に奥の深い内容となっている。
【Sound Horizon】の始まりは、Revo個人のホームページで自身が作ったインストゥルメンタルの音楽を発表し始めたのがきっかけであるが、二作目よりヴォーカルを加え、物語を歌曲に昇華する形でロックやジャズ、民族音楽、クラシカルな要素など多種多様な楽器や曲調の幻想的な世界を表現してきた。

関連リンク

●オフィシャルサイト
●ライブDVD特集<2006.02掲載>
●過去のインタビュー<2006.06掲載>