“オリジナルファンタジーボーカルアルバム『ティンダーリアの種』/霜月はるか”…「遺された言葉は 君との約束」……いただいた資料には、そう綴られていた。。。。素直に言わせてもらうなら、「アルバムを聴き進んでいくうちに、圧倒的な世界観へ気持ちがブッ飛んだ!」。これは“ボーカル・アルバム”という範疇など軽く凌駕した、ファンタジックな大作映画を音楽のみで表現した、“シンフォニックなファンタジー・オペラ”だ。
その世界へ一歩足を踏み入れたが最後、狂気をはらんだめくるめく幻想ロマンな世界へ思いきり身も心も溺れてしまうこと間違いない。
音楽を通して楽しむRPG的な感覚も含んだ、この『ティンダーリアの種』。同作品を作る上で欠かせないメンバーとなった霜月はるか、日山尚、岩垂徳行を迎えインタビューを行った。
まずは、このアルバムへ触れていただきたい。そして、めくるめく幻想夢魔な物語の中、あなたなりのシナリオを導き出してください。
TEXT:長澤智典
制作へのプロローグ
−−全12編の物語を通し描きあげた、ファンタジックな物語『ティンダーリアの種』。どんな経緯から物語を綴り始めたのか、そこから教えてください。
霜月はるかさん(以下:霜月):まずは日山さんと一緒に、まったくゼロの状態から共にお話を作りあげてゆくところから、作業はスタートしました。
私も日山さんも、それぞれが描きあげた世界観へサポートとして携わってゆく経験はあったんですけど、最初から一緒に「世界観」を作りあげていくのはやったことがなかったんです。とはいえ、お互いに“好きな部分”が似ているので、割と話は早かったよね。
日山尚さん(以下:日山):元々お互いが持っている好みや価値観や世界は似ているんですけど、やはり違う部分もあるので、霜月さんにとっても私にとっても、そこが新たな広がりの種になっていきました。
−−それでも、ゼロから物語を作り上げてくのには大変さもいろいろあったんじゃないですか?
霜月:“アルバム1枚を通し完結する物語”にするというのは、最初に決めました。そのうえで、「どういう世界観を構築していこうか」という話を、日山さんと進めていったんですけど…。
日山:「私たちの作品にしては比較的明るさを前に出した世界観にしよう」というのは、早い時期から決めてたよね。
霜月:お互いに「切ないものや儚い想い」を表現するのが好きなんですけど、私は意外と「光」となる部分を描くことを好み、日山さんは「人間関係の中に現れてくる感情の揺れ」を緻密に描くのを得意としていることもあり、お互いの持ち味を活かしつつ、そのうえで、温かくも柔らかい部分を世界観の中へ入れつつ、お互いの共通項の切なさや儚さを含んでいこう」という想いのもと、この『ティンダーリア』という舞台が構築されていきました。
紐解け、ティンダーリアな世界
−−具体的な世界観は聴いた人のお楽しみにしつつ、言える範囲で良いので、『ティンダーリアの種』を紐解くうえでのポイントを投げていただけたら、とても嬉しいのですが。。。
霜月:“ティンダーリア”というのは、ほとんど森で形成された世界。真ん中には、ひときわ大きな樹が生えていて、その樹を森が囲んでるという様相を呈しているんです。その世界の中には、“人間”と“Aria”という2つの種族が住んでいて、その種族間の中へ生まれる“価値観の違い”や“人々の暮らし”へ物語のスポットが当たり、それら一つ一つの出来事が絡み合いながら、物語として進んでゆくという流れになっています。
−−この物語は、2人の登場人物を中心に描いてますよね。
霜月:物語の鍵を握っているのは、人間の男の子と、Ariaという種属の女の子。それぞれの心情を楽曲として表現したり、起こった出来事を歌にしながら、物語はいろいろ複雑に絡み合いながら進んでいきます。
まるで、RPGを作りあげるように構築された世界
−−1曲ごとに明確な世界観を描き出しながら、非常に作り込んだ“詩世界/音世界”を構築。それら一つ一つの世界観を、全12編の物語として編成。しかも、楽曲ごと多彩な表情を持って描きあげましたけど。そのバランスをどう作りあげていくのか…という作業も、かなり心労高かったんじゃないですか?
霜月:楽曲を作りあげる前に日山さんと物語の世界観を、それこそ緻密に練り上げていきましたし、その段階で楽曲の表情分けも考えていたので、そこはさほど悩むことはなかったですね。もちろん編曲を担当してくださった岩垂さんを交えて制作を進めていく中、最初にイメージしていた世界観からどんどん膨れ上がっていく中での科学反応的な面も、私たちは楽しみつつ制作していきました。
岩垂徳行さん(以下:岩垂):最初にお二人から提示された世界観は、ホントわかりやすかったですよ。オープニングがあって、「ここはこういう心境を描いたテーマソング」で、「ここは町の模様を描いたシーンの音楽」など、まるでRPGゲーム用音楽を制作するのと同じ感覚で楽しめた分、僕も「こういう感じだよね」と確認しつつも、スムーズに作業は進めていけましたからね。と言っても、1曲ごとに濃いぶん、けっこう緻密に練り上げてはいきましたけど(笑)
霜月:岩垂さんも、ゲームミュージックをよく手がけてますし、私もゲームミュージックの影響は受けているので、今回のアルバムを作るうえでも、ゲームミュージック的な曲構成も考慮してたと言いますか。ストーリーや元となる楽曲を作るうえで、最初から「このシーンの、こういうBGM」という感覚で構築していったぶん、けっこう世界観は見えやすかったですね。だからとらえ方によっては、サントラ盤のようなカラーを持った作品にもなっている気がしています。
ポイントは、イメージの共有
−−それでも、あの壮大で幻想的な世界観を作りあげゆくうえでは、かなり音楽性面での引き出しが多くないと出来ないですよね。
霜月:私の中にあるメロディやフレーズ、こういう楽器を使って欲しいなどのイメージを受けつつも、全体的なバランスを考慮しながらすべての楽曲を編曲していただけているのは、岩垂さんの引き出しが多いからなのは間違いないです。
−−楽曲はもちろん、歌声でも多彩な表情を見せてますよね。
霜月:今回は霜月はるかのボーカル・アルバムという括りで出す以上、歌の引き出しもある程度意識してました。中には『護森人』のように、民族調のコーラスをいっぱい重ねた楽曲もあれば、完全にポップスとして成り立った歌まで入ってますし。そこも、全体的な構成案や曲調と照らしあわせながら進めていったところでした。
−−アルバム自体、かなり緻密に作りあげてますけど、そのイメージを具現化していくのは、どうしてもハンパなく心労背負う作業に思えてしまうんですよね。
霜月:でも最初に掲げたコンセプトさえしっかり固まっていれば、全員でイメージを共有もしていけますし。それぞれの感性に任せた作業へ進んでいっても、けっして芯となるところはぶれないんです。そこが、大切なんだと思いますよ。
まさに、大作映画並の1枚
−−このアルバム、まさにシンフォニックなオペラやミュージカルを体感しているような感覚さえ抱かせてくれる作品ですよね。
霜月:ミュージカルっぽい流れはありますね。しかも、1回聴いただけではわからない内容をいっぱい詰め込んでいるんですよ。歌詞にしても、表記一つを取っても、同じ言葉なのに読み方が違っていたりなどギミックを込めて書いてあるから、そこは何回も何回も聴き込みつつ、その人なりにどんどん想像の世界を広げていただけたら嬉しいなと思ってます。
岩垂:フレーズ的な面でも、ギミックはたくさん含んでますので、そこも楽しんで欲しいよね。
−−これを映画にしたら、ものすごい大作映画になりそうです。
霜月:ホント、映画的ですよね。実際にブックレットには、藤村あゆみさんという漫画家の方に、描き下ろしで物語を追った絵を描いてもらってるんですよ。あらかじめ設定した2人のキャラクターなどは、このブックレットを観ていただければ、わかりやすく伝わっていくと思います。
−−なにせ、『ティンダーリアの種』の設定資料集も発売を予定してるんですもんね。
霜月:4月30日に渋谷O-EASTで開催されるイベント・ライブへ出場するんですけど、その頃までには出したいと計画中なんです。きっとその設定資料集が「この曲のこの部分の詞って、こういう意味だったんだ」など、深く世界観を楽しんでいける手がかりになっていくと思うんです。。。でも、あえて期間を置いて出すのも、まずは聴いた人それぞれに想像を膨らませながら物語を楽しんでいだだき、中へ込めた謎解きをして欲しいからなんですよ。設定資料集は、ある種攻略本みたいな形にもなっているので、想像だけで楽しみたい方は、そこに触れることなく楽しんでいただきたいですし。物語へ込めた深部を知りたい方は、みずから想像を巡らせたあとで、その本をご覧になっていただければと思ってます。
3人が語る『ティンダーリアの種』
−−それぞれ完成したアルバムに対し、どんな印象を抱いてますか?
岩垂:膨大なトラック数を使った多重録音歌が何曲もアルバムには登場しています。たとえば『護森人』などは、72回声を重ねた「72シモツキン」になっていたりもするんです。そういう奥行き感というのは、彼女でなきゃ作れない表情だと僕は思ってます。そうは言っても、全体的にはポップで覚えやすいメロディ歌を中心に据えた、とても聴きやすいアルバムになってると思うんですよ。僕も、なるべくそこは意識して作ってましたし。ほんとドラマチックだけど聴きやすい作品になったと思います。
霜月:楽曲によっては、幾重にも重ねた音作りを施していながらも、どれもポップに描いてますからね。
岩垂:口当たりが良いのに、じつはいろんなギミックが隠されているよう、噛めば噛むほど味の出てくるアルバムへ仕上がってると思います。
日山:私、霜月さんの曲のコーラスが大好きなんですよ。だから今回も「コーラスで世界を表現したい」という思いがあって、コーラスの歌詞部分へ造語をのっけたりなどもしてます。その造語もまた、この物語の世界観を作りあげるため、霜月さんと一緒に作りあげた創作言語だったりもするんです。他にも文法的な作り込みもあったりなど、日本語の歌詞と造語を絡み合わせながら深い意味を与えているので、ぜひ歌詞カードを眺めながら通して何度も聴いてください。受け取り手の方次第で、いくらでも世界や物語が広がっていく美味しい作品になっていると思います。
霜月:すごく趣味に走ったアルバムだと思うんですね。きっとタイアップ歌があったら、その世界観が全体へ影響を及ぼしていくぶん、きっと今とは違う物語観になってたと思うんです。だけどこのアルバムに関しては一切のタイアップがなく、本当にゼロから世界観を構築できたぶん、「ファンタジー満載な音楽アルバム」として完成しました。まさに、自分らしい特徴がたくさん出た1枚になったと思います。
新しい音楽の扉へ触れて…
−−ここで描きあげた世界観には、まだまだ付随する物語もありそうですもんね。
霜月:その語られていない物語は設定資料集へ綴るつもりなので、より深く『ティンダーリアの種』を楽しみたい方は、そちらも楽しみに待っててください。
−−他ではなかなか味わうことの出来ない、まるで膨大な謎を含んだ壮大かつファンタジックな物語となって完成した『ティンダーリアの種』。ぜひ、この世界へ多くの方に聴いていただきたいですね。
岩垂:かなり濃いアルバムなので、聴くまでに勇気いるかも知れませんけど(笑)。「こういう世界観もあるんだ」ということを知っていただくうえでも、ぜひ触れていただきたい1枚です。
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