北欧、フィンランドをこよなく愛するカフェ店主がつづる日々のあれやこれや。

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風こそ冷たいものの気持ちよく晴れた午後、家から歩いて15分ほどのところにある大田黒公園へ行った。

ここはもともと音楽評論家の大田黒元雄の屋敷があった場所で、いまはこじんまりとした日本庭園となっているが、庭の片隅には昭和8年に建てられたという大田黒氏のかつての「アトリエ」↑がいまもポツンとたたずんでいる。そしてきょうは、そのアトリエでコンサートがひらかれる。出演は、

尾池亜美(ヴァイオリン)/内田佳宏(チェロ)

のおふたり。ヴァイオリンの尾池さんは、じつはモイが荻窪にあったころからのお客様のひとりである。とはいえ、実演に接するのはきょうが初めて(なにせ、こっちのお休みが火曜日だけなもので)。今回火曜日にコンサートがあるということで、出演が決まると同時にご連絡をいただいていたのだ。

尾池さんが初めてモイに来てくださったのはたしか3年ほど前のことだったと思う。カギを忘れて外出してしまい家に入ることができず、ご家族が戻られるまでの時間つぶしで……、そんな感じだったはずだ。ちょうどヴァイオリンケースを抱えていらしゃったので「ヴァイオリンをやってるんですか?」と尋ねたら、「こんどベートーヴェンの8番のソナタを弾くのでその練習をしていて」といったような話になり、たぶんかなりの腕前の持ち主なのだろうと予想はついたけれどそのまま名前を伺っていなかったので、ぼくの中では

「ヴァイオリンをやっているカギを忘れちゃった女の子」

ということになっていた。その後モイが吉祥寺に移って、ご本人から「あのー、荻窪のときの、カギ忘れちゃったヴァイオリンやってる子ですけど……」という電話をもらって、このままどんどん長くなっていったらえらいこっちゃ! というワケで、晴れてお名前を伺ったのだった。

演奏はいくつかの小品のほか、前半にラヴェルの二重奏曲、後半にコダーイの二重奏曲とピアソラの「ル・グランタンゴ」(アレンジはチェロの内田さん)というかなりヘヴィー(笑)なプログラム。

ヴァイオリンというのは、豆の種類や焙煎の度合い、抽出するひとの技術で味がまったく異なってしまうコーヒーという飲み物とどこか似ている、そうぼくは思っている。ひとくちにヴァイオリンといっても、弾き手の個性でほんとうに聞こえてくるものがちがってしまうからだ。当然、好き嫌いもでやすい。なので、尾池さんのヴァイオリンはどんな響きを聞かせてくれるのだろうかと、きょうも内心ちょっとドキドキしながら出かけたのだった。そして最初の曲を聴いたとたんうれしくなったのは、ぼくにとってとても好きなタイプの音だったからだ。旅先で偶然入った喫茶店で飲んだコーヒーの味がとても好きな味だった……そんな感じ、わかるだろうか?

まず、なにより、強い。音にしっかりと芯が通っていて重心が低い。ぼくは、こういうタイプの音を耳にすると一気にその演奏に引き込まれてしまう。そして、さらに、歌心がある。ぼくは声の通らないひとなので、声のデカいひとに会うとそれだけで「負けた」という気分になってしまうのだけど(笑)、大きな呼吸で気持ちよさそうに歌うヴァイオリンを聞いて、正直「負けた」と思った(どんな勝負なのかまったく意味がわからないが……笑)。

演奏された曲のなかでいちばん印象に残ったのは、ラヴェルの二重奏曲。尾池さんと内田さんのふたりは、この複雑な難曲を前にしても猫背になることなく、堂々と自信をもってアプローチしていてとても痛快だったのだ。つい先だっておこなわれた「日本音楽コンクール」のヴァイオリン部門で、尾池さんは見事「第一位」を、そしてあわせて聴衆の投票によって選ばれる「岩谷賞」を獲得されたわけだけれど、その「理由」がよくわかるような「キャラクターのしっかりある」充実した演奏だった。

もちろんぼくの中では、これを機に

カギを忘れちゃった女の子

改め、

かっこいいヴァイオリンを弾く女の子

に変わったことはいうまでもない。


ーーー

なお、おなじプログラムの公演が

11/14(土) 荻窪・かん芸館(←●詳細はこちらをクリック

12/20(日) 京都・青山音楽記念館(←●チケットぴあ

でもあるとのことなので、ご興味のある方はぜひ!
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