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配偶者などからの暴力であるドメスティックバイオレンス(DV)で、男性の被害者が体験を公の場で語り始めた。これまでは主に女性の被害が問題にされてきたが、2007年の京都市の初調査では、男性の2割が「被害を受けた」と答えた。本人も気付かずに潜在化するケースも多いといい、語る場を設けた市民団体は「こぼれ落ちていた彼らの声に社会が耳を傾けるべき」と訴える。
「妻にカミソリで腕を切られ、30針以上縫った」。DV被害の相談も受ける日本家族再生センター(山科区)が10月中旬に市内で初めて開いた集会で、岡山市に住む会社員の男性(50)は、約20人を前に、自らの体験を静かに語り始めた。
新婚旅行から言い合いが絶えなかったが、「自分が妻を守らなければ」と耐えた。夫にぐいぐい引っ張ってほしいと望む妻には、何でも話し合って決めたい男性が物足りなく映るようだった。言葉の暴力が次第に「殴るける」になり、単身赴任時代には正月も自宅に帰らせてもらえなかった。
今年8月、離婚が成立した。大学入学を控える2人の息子のために、夫婦のけじめを示そうと決断した。「彼女はわたしとではなく理想の男性像と結婚した。やっと人生の新たな一歩を踏み出せた」と振り返った。
日本家族再生センターにはほかにも、ささいな理由で突き飛ばされたり、物を投げつけられる身体的被害の相談が男性から寄せられている。また、加害者とされる男性から詳しく事情を聴くと、「安月給」「いつまでぐずぐずしているの」といった人格を否定するような言葉の暴力を受けている場合も少なくないという。
センターの味沢道明所長(55)は「いまだ男性支配社会であることは否定しないが、男性と女性で相互に抑圧関係が入り組む実態を冷静に考える機会をつくっていきたい」と話す。
・男性のDV被害 京都市が2007年、市内の成人5千人を対象に初の実態調査を実施した。「DV被害を受けた」は男性が20・3%、女性が31・3%だった。警察庁によると、男性が配偶者からの暴力で相談や被害届を出した件数は08年が402件、07年が288件、06年が210件。全体に占める割合は2%に満たないが、年々増えている。
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