国から地方への権限移譲を巡り、虐待などのため家庭で暮らせない子供が生活する児童養護施設などの関係者から、施設の設置、運営基準に関する権限移譲に反対する声があがっている。自治体の裁量に任せると、財政状況により子供の生活水準の地域格差が広がりかねないためだ。施設の設備基準は60年以上大きく変わっておらず施設長らは「国の基準の改善が先だ」と訴えている。
政府は地方分権改革推進委員会第3次勧告が規制廃止や自治体への権限移譲などを求めた892項目のうち103項目について、4日までに回答するよう各省庁に指示している。
児童養護施設の設備や運営に関する児童福祉施設最低基準も対象だが、全国児童養護施設協議会、全国保育協議会など12団体は10月16日「(移譲は)断固反対」などとする要望書を長妻昭厚生労働相あてに提出した。
児童養護施設や乳児院、里親の家庭などで暮らす子供は05年に4万人を突破した。うち約3万人が全国568の児童養護施設で暮らす。虐待の増加で定員超過の施設も出ているが、施設の最低基準は1948年以来「1部屋15人以下」のままで、職員配置も30年間「小学生以上の子供6人に対し職員1人以上」だ。
西日本の施設長は「思春期の男子3人が同じ部屋でけんかも絶えない」と話す。首都圏のある施設は07年まで定員を上回る被虐待児を受け入れていた。現在も虐待の影響で暴れて登校の難しい子供や、自殺を口走る子供もいて目を離せない。
施設長は「職員配置を手厚くしてきた自治体もあるが、関心の薄い所も多い。国の基準が廃止されれば、今より子供の生活水準が低下する自治体も出かねない」と懸念する。
社会福祉法人「鳥取こども学園」の藤野興一園長も「傷を抱えた子供たちの施設での暮らしぶりこそ、国の保障する最低限度の生活水準とは何かを問いかける。戦災孤児の収容の考えからほぼ変わらない国の基準をまず手厚くすべきだ」と指摘している。【野倉恵】
毎日新聞 2009年11月4日 15時00分(最終更新 11月4日 15時00分)