サルトル批判の『パンと蕎麦』


 なんて書いても,原書で Claude Lévi-Strauss の "Le pensée sauvage" を読んだことのないような「ネットゴキ」には「構造主義」なんて分かるまい(笑) 浅田彰くんの『構造と力』も恐らく読んだことないバカが多いんだろうなぁ.

 要するに,構造主義の草分けで,文化人類学者の Claude Lévi-Strauss 氏が100歳で大往生したという話である.苗字の Lévi- で分かる通り,彼はユダヤ教の神官の家系の生まれであり,かつ両親がいとこであった.そういう人間関係の濃密さから,ベルギーのフランス語地域に生まれ,パリで育った彼は複雑な民族間の関係,特に親族構造について,哲学的な考察を深めていった.13歳の時にマルクスの著作に触れ,若い頃は社会主義運動に身を投じるきっかけともなる.パリ大学では文学部と法学部に籍を置いて,わずか23歳で 哲学教授資格試験 (Agrégation) に合格.問題はコント,デュルケーム,サン=シモン,マルセル=モースという社会学の権威の読解だったというから,早くから人類学の着想を受けていたレヴィ=ストロースには訳もないことだったであろうことは容易に想像がつく.さらに当時の同窓生はシモーヌ・ド・ボーヴォワールやメルロー=ポンティだった (どこかの「大学教授」はどうせフランス語が読めないだろうから,カタカナにしてやった.有難く思え)

 そのあと,高校教員から大学教授に26歳で就くのだが,兵役や第二次大戦に巻き込まれて,32歳までろくすっぽフィールドワークもできなかったし,論文も書けなかった.つまり,彼が人類学者としての本格的なスタートを切ったのは,終戦後の30代後半からだったのである.そしてようやく,41歳の時に博士論文でもある『親族の基本構造』を出版.これを読んでない奴は最初から無視することにする(笑) フィールドワークをほとんどしていない文化人類学者というと,日本だと東京外大AA (アジア・アフリカ) 研にいた山口昌男だろう.もっとも彼の場合,視力が弱いため「本屋さん」にならざるを得なかったのだが.(つまり岩波から出ている彼の本はそういうものだと割り引いて読む必要がある.この辺は東大や京大の動物学科霊長類研究室出身者と大きく違う所だ)

 そして55年,47歳の時に下の『悲しき南回帰線』が出版される.サルトルは構造主義の立場から絶賛するが,レヴィ=ストロースは構造主義に飽きていたため,後に険悪な仲となってしまう.


 50歳の時に書いた大著『構造人類学』は社会人類学や文化人類学を学ぶ学生には必読書であろう.私も高校時代,この本は図書館で読んで結構感銘を受けた.そして,その4年後,表紙に掲げた "Le pensée sauvage" が出版されることとなる.これはみすず書房の日本語版である.同時に刊行された『今日のトーテニズム』は,エンゲルスが『家族・私有財産・国家の起源』で「母系制氏族社会」を仮定した,L.H.モルガンの『古代社会』を実証的に批判しようと試みた著作です.(未来社から出ているマルクスの『古代社会ノート』も参考になる)

 ちなみに岩波ジュニア新書から佐原真『遺跡が語る日本人のくらし』という本が出ていて,モルガンの「野蛮→未開→文明」という発展段階やエンゲルスの「野蛮→未開→文明,狩猟→遊牧→農業」という単純な発展段階を考古学の立場から批判しています.もともと「農耕(草食)民族」「肉食民族」という分け方そのものがおかしい.家畜というのは遊牧にしたって飼育にしたって,人間が食物になる草を与えなければ肥え太ることはできないし,当然草から肉になるまでに家畜が自らエネルギーを食い潰してしまうから,これほど効率の悪いものはない.つまり,「狩猟→遊牧→農業」なんて幻想はありえないのだ.一番効率が良いのは人間が人間を食うことであるし,あくまで家畜は労働力の補助として使うべきなのである.怠け者の代名詞のイエネコだって,最初はネズミ獲りの家畜として飼われたのが最初だ.

 ちなみに,上に貼り付けた,講談社学術文庫の『悲しき南回帰線』は編集者のミスにより,あちこちで字が抜けたり図が抜けたりして,非常に傑作ものです.フランス語が得意な方は,原書と比べると抱腹絶倒でしょう(笑)

今日のおまけはYMO と言うより 「紅衛兵」 か(笑)

YMO - La Femme Chinoise


 フランス語の歌詞が分からない人のために (^_^;)これが聴き取れない奴はとてもじゃないけど「大学教授」とは言えないな (とか言って,これは聴き取ったそのままを並べただけだけど)
Des notes sans fin     Des visages identiques
C'est un bras brillant     De petits pieds laces
Des notes sans fin     Des visages identiques
La demarche saccadee     Avec des voix pincees
La discretion noiraude     Arriere-pencees, qui sait
C'est un bras brillant     De petits pieds laces
Des notes sans fin     Des visages identiques
La demarche saccadee     Avec des voix pincees
Fu manchu and Susie Que
And the firls of the floating world
Junk sails on a yellow sea
For Susie Wong and Shanghai dolls
Susie can soothe Away all your blues
She's a mistress The scent of the orient
Notes sans fin visages identiques
Comme tous les vieux insectes
Demarche saccadee, affiche criarde, voix pincees
Discretion noiraude bible rouge
Arriere-pencees, qui saii Un monde finit...
この後は分かる人には分かるでしょう(笑)

 最近の電子ピアノやエレクトーンには USB ジャックがついていて,ノートパソコンのマウスクリック一発で,代わりにパーカッションやシンセサイザーを演奏してくれるから,それについていくのが大変だったりします(笑)

YMO - Citizens of Science


YMO - Solid State Survivor ……まさに「新型インフル」(^_^;) このツアーの後くらいに矢野が坂本教授の娘の美雨ちゃんを妊娠したんじゃなかったかしらん.(記憶モードなのでファンの人は突っ込んで!)

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元の新聞記事です (kaetzchen)
2009-11-04 11:11:23
http://www.asahi.com/obituaries/update/1104/TKY200911030404.html

「悲しき熱帯」レビストロース氏死去 「構造主義の父」
2009年11月4日1時35分

 【パリ=国末憲人】20世紀を代表する思想家で文化人類学者のクロード・レビストロース氏が死去したと、AFP通信が3日、出版社の情報として伝えた。100歳。今月28日には101歳の誕生日を迎えるはずだった。

 同氏はパリ在住。メディアにはほとんど出ないが、健康で、旅行もしていたという。今年に入って一時健康を害したものの、頭脳の明敏さは相変わらずだったという。

 昨年11月に同氏が100歳の誕生日を迎えた際には、地元フランスのサルコジ大統領が訪問して敬意を表した。大統領府によると、現代社会の今後についてサルコジ大統領と意見を交わしたという。様々な記念行事も催された。

 レビストロース氏は構造主義の父といわれ、55年に発表した「悲しき熱帯」が人文社会科学全般に大きな影響を与えた。日本文化の愛好者としても知られる。

     ◇

 レビストロースさんは1908年、ベルギー生まれ。パリ大学で法学と哲学を学ぶ。35年、サンパウロ大学の社会学教授として赴任したブラジルで現地のインディオ社会を調査する。その後アメリカでも教えるが、戦後フランスに戻り、59年、コレージュ・ド・フランス社会人類学講座の初代教授となった。

 ソシュールの言語学などの影響を受けながら、世界各地の民族誌データや神話などの分析を踏まえ「親族の基本構造」(49年)、「構造人類学」(58年)、「野生の思考」(62年)などの著作を次々と発表。未開社会の婚姻形態の比較などをもとに、人類の社会、文化には共通する不変の基本構造があるとする「構造主義」は、学界に大きな衝撃を与えた。

 「野生」「未開」の中に現代文明の原型をみるその思想は、進歩主義的で人間の理性の働きを重視する近代思想・哲学の西欧中心主義と鋭く対立。人間の主体性を特に重視した当時の思想界の大潮流だったサルトルの実存主義への批判は、大きな「事件」となった。

 その後も構造主義の考え方は、フーコーやガタリら多くの思想家に影響を与え、20世紀ではマルクス主義と並ぶ最も大きな思想潮流として、現代まで引き継がれている。

 その業績によって、フランス以外の多くの国のアカデミーの会員に選ばれ、また親日家で何度も来日している。





http://www.asahi.com/obituaries/update/1104/TKY200911040002.html

レビストロース氏「元気だった」 川田順造氏、先日電話
2009年11月4日3時35分

 代表作「悲しき熱帯」の邦訳者で文化人類学者の川田順造氏はパリに滞在中で、先月29日にレビストロース氏と電話で話したばかりだった。川田氏によると、その際は比較的声が元気そうに聞こえ、体調がずいぶん回復したとの印象を持ったという。
 
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