ロシアが好むのは古典的「007」の世界。写真は007役のダニエル・クレイグ〔AFPBB News〕
以上から明らかなように、ターゲットに対する脅迫の手法そのものは中露で驚くほどよく似ている。ここで大きく異なる点は両国の諜報活動の「手法」ではなく、むしろその「原則」「哲学」であろう。
ロシアの諜報機関は古典的な「007」の世界だ。そこでは職業的な諜報専門集団が育成され、特定の情報とターゲットに的を絞ったうえで、比較的短期間で成果を挙げることが重視されているように見える。
これに対し、中国の諜報活動は、短期的な成果もさることながら、当面は可能な限り多くの中国シンパを増やして、長期的利益を最大化しようとする傾向がある。また、中国はプロの諜報部員だけでなく、素人の一般人にも危険な情報収集活動をさせるようだ。
中国諜報機関が素人を多用する理由
それでは中国の諜報機関が欧米向け秘密工作に「ジェームズ・ボンド」よりも「普通のおじさん、おばさん」を多用する傾向があるのはなぜだろうか。この種の情報が表に出る可能性はゼロに近いので勝手に推測するしかないが、4つほど理由が考えられる。
1.欧米向け工作員の不足
最大の理由は、中国には欧米社会で秘密工作員として通用する「欧米系言語を操る金髪系白人」が絶対的に不足していたことであろう。言語、容姿の点で現地の社会に溶け込んだ形での諜報活動が難しい以上、情報収集は広く、浅く、間接的とならざるを得ない。
このことは中国諜報機関のレベルが低いことを意味するものではない。同じ秘密工作でも、例えば、中国の台湾に対する諜報工作は極めてレベルが高く、また成果も大きいと言われるが、このことはあまり知られていないようだ。
2.経済的効率
一人前の工作員を養成するには長い時間と多くの資金が必要だ。しかし、欧米社会での秘密活動に大きな困難が伴うことは既に述べたとおりである。投入する人的、物的資源と具体的成果の費用対効果を考えれば、間接的諜報活動でも十分目的を達成できると考えたのではなかろうか。
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