予想できないストーリーはダメ
弘兼 ストーリーを作る時、「この先、一体どうなるんだろうか」とまったく予想のつかないようなストーリーにしてしまうと意外とダメなんです。「これはこうなるだろうな」と読者に予想させて、ある程度当てさせるというのもコツなんです。
古川 僕はそれをカド理論と言って、よく担当している漫画家に言っていました。塀のカドに隠れている悪い人がいて、主人公はそれに気づかずに近づいていく。読者は隠れていることが分かっているので、「行くな、行くな」とドキドキさせて、この後どうなるかというストーリーの作り方があります。
吉野 ヒッチコックさんが言っていた、「最大情報を読者に与える」というやつですね。
弘兼 『危険な情事』という映画がありますよね。子どもが飼っていたうさぎが家に帰るといない、「どこにいったの?」と探している間、お母さんが台所に行くと鍋があって、そこで何かがぐつぐつ煮えている。そうすると誰しもが「そこにうさぎが入っている」と思いますよね。「いるぞ」と思わせて開けたら本当にいるんだけど、その怖さの方が、いきなりうさぎが煮えている映像が出てくるより面白いんです。
吉野 もちろん、ちょっと予想を外してあげるということも少しずつやっておかないとうまくはいかないですね。
弘兼 もう1つ、連載漫画を描く時には、引っ張れるものが何か欲しいです。ある主人公が学校で暮らしていて、いろんな事件に巻き込まれていくだけでは面白くない。主人公は実は柔道の世界チャンピオンになったことがあるんだけど、それを隠して、ずっと殴られたり、なじられたりする。読者に「いつかこいつはこれを出すぞ」と思わせながら引っ張っていく、という引きのようなものが欲しいですね。
吉野 黄金パターンですよね。男の振りをした女の子が活躍して、「いつばれるか」という引きもよくありますね。
売り上げは減っているが、漫画の影響力は大きくなっている
弘兼 最後に、最近漫画の売れ行きが悪くなっていますがどう思われていますか。
古川 そう言われていますが、漫画喫茶やブックオフといったものを考えたら、漫画を読む人は減っているわけではなく、むしろ増えていると思います。ケータイで読んでいる人もいますし、海外の人も読んでいます。個々の雑誌の部数減少だけを見て、漫画が衰退していると思うのは大間違いです。コミックマーケットに数十万人が行っていることも考えると、漫画を取り巻く状況が悪くなっているなんて僕は全然思っていません。
吉野 時代が変わって、読者の質も変わってきたということがあって、漫画の売れ行きは落ちていると思います。しかし、新しいヒット作も出てきていますし、実は漫画雑誌の数は増えているんです。ゲーム関係の会社が出している雑誌が増えていて、結果的に細分化が進んできたなという感じです。だからすべてを合わせると、古川さんもおっしゃられたように漫画の影響力は逆に大きくなっているのではないかという印象はあります。
弘兼 (環境意識の高まりなどで)紙をあまり使ってはいけないという時代になると、電子コミックのような形態も増えてくるのでしょうか。
古川 僕らも漫画家も、紙で漫画を読むということが一番だと思っています。ただ、そうではないという人たちが出てきているのは確かです。漫画を紙で読むのが100%だった時代から、30%になってしまうのか、60%で止まってしまうのかは分からないですが、ケータイであったり、携帯ゲーム機であったり、PCであったりと読み方が多様になっていくことは確かだと思います。
吉野 昔、映画館がダメだと言われていましたが、盛り返したじゃないですか。紙で漫画を読む、というのはスクリーンで映画を見るということと同じです。やはり、スクリーンでしか味わえないすばらしさがあるわけです。
ただ、ケータイやPCでの漫画に特化した漫画家が出てくるだろうと思います。我々は紙のページをめくるという読書形態に最適化した漫画を作ってきたわけですが、多分そのうちデジタルに最適化して紙に移し変えることができない作品を描くような漫画家が出てくるのではないかという気はしますね。
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