あの人は今こうしている　「才能ある若い監督と一緒に仕事ができたのは楽しかったわ」

●マラソン、自転車、乗馬とアウトドア派。

　にっかつロマンポルノ華やかなりし頃、その美貌（びぼう）と妖艶（ようえん）な演技で人気があったのが中川梨絵さんだ。田中登、藤田敏八、神代辰巳など今は亡き伝説的監督の名作に主演し、“ロマンポルノの女神”と呼ばれた。しかし、８５年、相米慎二監督「ラブホテル」を最後に名前を聞くことが少なくなった。今どうしているのか。

「『あの人は今』みたいな取材はこれまですべてお断りしてたの。ネットで“中川梨絵は女優引退した”って書かれたことがあるけど、別に女優をやめたわけじゃなかったし。今回、お誘いがあって、映画に出たのよ。作家の沢木耕太郎さんの『人の砂漠』ってノンフィクションをもとにしたオムニバス映画で、東京芸大の学生さんの卒業製作。学生監督の作品といっても、夏木マリさんや室井滋さんも出演してて、来年、商業映画館で上映が決まっている本格的な映画よ。才能ある若い監督と一緒に仕事ができたのは新鮮でとても楽しかったわ」

　目黒駅近くの喫茶店で会った中川さん、こういってほほ笑んだ。

　テレビ草創期の「ホームラン教室」や「お笑い三人組」（ともにＮＨＫ）に子役で出ていた中川さん、今も女優を続けているということは、芸歴は実に５０年以上に及ぶわけだ。その中ではやっぱり「（秘）女郎責め地獄」（田中登監督）、「エロスの誘惑」（藤田敏八監督）、「恋人たちは濡れた」（神代辰巳監督）などであえいだロマンポルノ時代が懐かしい。

　また、原田芳雄、松田優作と共演した「竜馬暗殺」、菅原文太の相手役を務めた「実録飛車角　狼どもの仁義」なども忘れ難い。

●小料理屋を経営。私生活は順風満帆

「とにかく昔は怖いもの知らずだったわ。７６年に歌手デビューしたとき、プロモーションのためにジョイントコンサートを開くことになったの。でも、普通の相手じゃイヤだから、当時、『逆転の発想』で時の人だったロケット博士の糸川英夫先生の電話番号を聞いて、直接交渉したの。糸川先生は一面識もなかったのに承諾してくれて、渋谷の『ジァン・ジァン』っていう小劇場で共演した。世界の糸川先生がチェロを弾いて私の伴奏をしてくれたなんて、今にして思うと信じられないわよね」

　そんな女優生活も「ラブホテル」を境に沈黙しがちになった。

「今もそうだけど、私は芸能事務所に所属したことは一度もないの。仕事の交渉は全部自分でやってた。女優とマネジャーを兼ねれば当然、やっかいな場面に立たざるをえないこともあるじゃない。それやこれやで……」

　その間に板前の男性と結婚。四谷で開いた小料理屋が当たり、去年、東急線沿線にビルを新築して店を移転するなど、私生活はすこぶる順調だ。

「私、趣味がマラソン、自転車、乗馬って意外にアウトドア派でしょ。フルマラソンはもう１０回以上走ってるわね。主人とそんな趣味がきっかけで知り合ったの」

　都内の自宅に母親と夫の３人暮らしだ。

「これから？　女優は一生かけての仕事だもの、続けたいわ。あと、ＣＤを出したい。私、三波春夫の歌謡浪曲が大好きで、『俵星玄蕃』なんて今のラップだと思う。いつかそれを自分で歌ってＣＤにしたいのよ、ハハハ」

（日刊ゲンダイ2009年10月22日掲載）