きょうの社説 2009年11月3日

◎きょうは文化の日 地方こそ多様な文化の担い手
 ユネスコの文化政策の光が今年、石川県に当てられた。6月に金沢市がクラフト(工芸 )分野での「創造都市ネットワーク」加盟を認められたのに続き、9月には輪島市など奥能登の4市町に伝えられる伝統行事「あえのこと」が無形文化遺産に登録された。その基本的な意味は「文化の多様性」を保持、発展させる大きな使命をユネスコから託されたということであり、対象の自治体だけでなく、地方こそ多様な文化の担い手なのだという認識をあらためて深めたい。

 ユネスコが2004年に創造都市ネットワークの登録制度を創設したのは、経済のグロ ーバル化で国・地域の固有の文化がすたれるのを防ぐ一方、文化を経済の発展につなげることを、それ相応の能力と意思を持った世界の都市に期待してのことである。

 その役割を担うのは首都などの大都市よりも、多様な地域文化を伝え、文化と深く結び ついた経済活動の場として世界の市場にも開かれた地方都市こそふさわしいということである。そうした意味では、金沢市に限らず、伝統的な文化産業が盛んな石川、富山の各都市は同様の期待を背負っていると自覚したいものである。

 創造都市ネットワークでさらに重要なことは、文字通り芸術文化面で創造性豊かな都市 のネットワークを生かして、文化産業を伸ばすことであり、都市連携の進め方が一つの鍵を握っている。金沢市が先に工芸を軸にした交流連携都市協定を那覇市と締結したのは、時宜にかなった取り組みである。那覇市も琉球王国以来の伝統工芸に恵まれ、文化の多様性を維持する役割を担った都市である。

 文化は地域づくりや経済活動の添え物的存在から、その中核に位置づけられるようにな っており、文化のビジネス化を共通のテーマとする都市同士が、技術や知識を交換し、刺激し合うことは重要である。金沢市で開かれた「おしゃれメッセ」では、伝統工芸の新作がいくつも発表されたが、伝統と革新を融合させた商品開発を絶えず行い、他都市から連携したいと思われる創造的エネルギーにあふれた都市であり続けたい。

◎「潜在看護師」調査 再就業支援の強化が必要
 看護師の確保に向けて、石川県は資格を持ちながら就業していない「潜在看護師」の実 態調査に着手した。結婚や育児で医療現場を離れた有資格者を把握し、再就業を働きかけるのが狙いである。

 専門性の高い看護師にとって、医療現場を離れた自らの技術や知識に対する不安、生命 にかかわる責任の重さなどが再就業への障壁になっているという。県では病院での研修制度などを実施して人材確保につなげているが、有資格者の掘り起こしとともに、さらに行政と医療機関などが連携して、ブランクの不安を払う再就業支援の強化を図ってほしい。

 日本看護協会の2006年退職者調査によると、「妊娠・出産」「結婚」「長時間労働 」「子育て」が退職理由の上位を占め、仕事と家庭の両立の難しさがあらためて浮き彫りになった。ただ、約8割が復職を希望しており、受け入れ側の環境整備によっては、より多くの職場復帰に結びつく可能性を示している。また、再就業時に際しては、研修受講を望む声が多いという。

 潜在看護師は全国で約50万人いると言われているが、県内の実数は把握されていない 。県内の医療機関では看護師の不足感が根強く、今回、看護師養成施設の協力を得て実施する実態調査を再就業促進策へ十分生かしたい。

 県の再就業支援研修については、同制度を利用して職場復帰した看護師が08年度に2 2人、07年の制度開始から合わせて40人を超えている。医療機関で看護に関する基礎知識や技術を再確認しているもので、受け入れ側はこれまでの研修の内容や受講者の要望などを考慮して、より効果的なカリキュラムを練ってもらいたい。また、潜在看護師の相談や悩みに応じる窓口の充実を図る必要もある。

 仕事と家庭の両立の問題は、現役の看護師、女性医師などにも共通する。多様な勤務体 系や育児支援制度などの職場環境の改善は、今後とも医療の人材確保に向けて大きな課題である。着実な取り組みで即戦力となる潜在看護師の現場復帰を後押ししていきたい。