October
29
2009
AQUAGIZMOという水冷ユニットを開発していた時のこと。東洋ラジエータ社製のラジエータを使って水温を下げる方式だったので、実装試験を繰り返していたとき、PCオンの後、約1時間ほど高負荷状況にすると水温が約8度前後上昇し、その後安定していました。安定しているということは、CPUの発熱を吸収する熱量とラジエータによる放熱が吊り合っているということですから、水温上昇を抑えるためには、ラジエータを大型化するか、ラジエータを冷却する風量を増やすかの二つの方法が考えられました。このAQUAGIZMO、相当にハイレベルな冷却効率を持つシステムだったので、後者のほう、つまり風量を増やすことを優先してみました。そこで冷却用のファンを2連にして風量を測定してみたら、何とほとんど風量は増加しなかったのです。確か92mm角ファンをぴったりと張り合わせ連結したもので、二つのファンは密着状態です。何度も試したのですが、風量は本当にほとんど変化しませんでした。一つのファンの風量が50CMFとすれば、直列すれば、100CMFになる・・・・。つまりはそれは、全くの空想にすぎなかったということです。
しかし、当時はこれがどうにも理解できませんでした。少なくとも少しくらい風量が増加して欲しかった。そんなことを3日間位やって、ようやく気がついたことは、間隔ゼロの直列の場合、一つのファンは何の仕事もしていないということでした。最初のファンによって流速が与えられた空気をそれと同じだけの流速能力のファンで加速できるはずもなかったのです。けれど、こんな単純極まりないことも、実験してみないと実感できないものです。そして、どうすれば風量を高めることができるだろう、という話になりました。そうこうしているとき、実験に参加したメンバーの一人が、直列ファンの距離を変えて実験を始めたのです。すると・・・・。
そうして、AQUAGIZMOの冷却強化キットは発売にこぎつけたのでした。正直に告白すれば、今年に入ってからの一連の冷却強化対策のなかで、いまひとつ効果が薄い機種があります。それが、ALCADIA FX2000です。R-I/Eは確かに面白いシステムで、強いファンを搭載すると非常に効果的に働きます。ところがここ数年は静音ブームで低回転ファンは主流となったから、2500rpmなどという高回転ファンの搭載が難しくなっています。どんなファンでもそれくらい回すとノイズはかなりのレベルになってしまうから・・・。ALCADIA X-1のときのバッシングが脳裏をよぎって、搭載する気になれないのです。でもFX2000は、会心の仕掛けを作ることができた意欲作です。特に、吸気FANをCPUに接近させるというアイディアは、従来のALCADIAと比較すると格段に冷却性能は改善しています。そしてAIR CHAMBERを設定したことも空気密度の希薄化防止の観点では正攻法だったと思います。ただし、5年越しでこのR-I/Eをどうしても満足できるレベルまで完成させたいという願望は残りました。
歴代ALCADIAは、モデルごとに試行錯誤を積み重ねて、少しずつ改善してはいましたが、満足のゆくレベルではなかった。一方、静音性能は、このAIR CHAMBERが非常に幸いして、FX2000は歴代の中でも飛びぬけて静音となりました。ケースノイズという意味では、最高のレベルに達したのではないかと思います。当初、ALCADIAを開発して、目標としていたレベルにFX2000は完全に到達しました。あとは、風量の増強をどう実現したらいいのか・・・。その仕掛けのために、AIR CHAMBERを作るという構造設計にしたと言っても過言ではありません。
その「仕掛け」を搭載したバージョンを、遂に投入します。次期モデルチェンジには発表するつもりでいましたが、やはり現行型の最終バージョンであるFX2000RSに搭載します。生産スケジュールからして次期モデルは2010年になるということで、ならばこの最終モデルに搭載しようということになりました。50台限定で場合によっては、年内に50台追加できるかもしれないという微妙な時期ですが、夏からこの秋にかけてのWiNDyの一連の改革の総仕上げとして、また本当に頑張ってくれたスタッフにもこのモデルは強く印象に残ることでしょう。いまの体制では、大量には作ることはできないですが、1台、1台丹念に自作魂を込めて作ってくれると思います。
この仕掛け、このシステム、ALCADIAの完成形として「PRO仕様」を名乗り今夜発売いたします。(価格も非常にお買い得です。)この1台で自作魂に火をつけたいと思っています。
Posted by 有海啓介 | この記事のURL |