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厳しい財政事情を受け、政府の税収確保路線が明確になってきた。政府税制調査会(会長・藤井裕久財務相)では、所得税の特定扶養控除縮小など、民主党のマニフェスト(政権公約)に盛り込まれていなかった増税方向の検討課題が相次いで登場。30日出そろった各省庁の税制改正要望にも「地球温暖化対策税」導入やたばこ税率引き上げが盛り込まれた。「環境」「健康」のためとしているが、公約実現のための財源探しの面もうかがえる。【斉藤望】
藤井財務相は30日の閣議後会見で「暫定税率は、まずは廃止する。温暖化対策を進めることの関連でどうするかは、今後、税調で議論する」と述べた。
政府内では当初、10年度からガソリン税など自動車関連4税の暫定税率を全廃し、二酸化炭素の排出抑制のため、ガソリンなどにかける環境税を創設する案が有力だった。しかし、30日の税制改正要望を前に環境省から示された地球温暖化対策税(環境税)案は、広く石炭や重油などに課税し、2兆円規模の税収を見込む大型税。小沢鋭仁環境相は「来年度から実現できる」と意気込むが、財務省首脳は「業界調整など実現には1~2年かかる」とみる。
環境省案のままでは暫定税率を撤廃しても、環境税の創設は間に合わず、ガソリンの小売価格が一度下がることになる。「いくら環境のためと説明しても、ガソリン再値上げに直結する増税は難しい」(財務省幹部)ため、政府税調内では、全廃を事実上、先送りし税収減を小さくする案が浮上している。
暫定税率以外でも、政府税調の論議は増税色を強めている。「所得税の扶養控除廃止の10年度実施」(8000億円の増税)に加え、政権公約で存続を明記していた「所得税の特定扶養控除(16~22歳)」の縮小や、記述がなかった「住民税の扶養控除の廃止」まで議題に上っている。一方で中小企業の法人税率引き下げについては、11年度以降への先送りが確実だ。
背景には、政権公約実現のための財源を歳出削減でまかなえるめどが立っていないことがある。政府は当初、「政権が代わっただけで軽く1割程度の無駄は出てくる」(藤井財務相)と楽観していたが、無駄を削るどころか10年度の概算要求は09年度当初予算より7兆円も膨らみ、過去最大に。政府公約の10年度の国債発行を、前政権の44兆円以下に抑える方針にも黄信号がともっている。
財務省幹部は「補正予算の削減の難航と、10年度予算の概算要求の膨張が、税調幹部の認識を一変させた」と明かす。しかし、減税の先送りや控除廃止などの増収策は、国民の反発を招くリスクもある。鳩山由紀夫首相が30日、「暫定税率はいったん廃止する」と語ったのも、「公約違反」への批判が高まることを懸念したためとみられる。「財源確保」と「公約実現」をどう両立させるのか。政府は難しいかじ取りを迫られそうだ。
各省の副大臣をメンバーに新たな政府税制調査会が発足して3週間。鳩山政権が掲げる「政治主導」の税制改正の姿が徐々に明らかになってきた。目立つのは、民主党きっての税の専門家とされる峰崎直樹副財務相を中心にした主要メンバーが、増税を含む検討課題を繰り出して議論を方向づける運営手法だ。
「所得税で扶養控除を廃止して住民税で残すのは違和感がある」。20日の政府税調で、地方税を所管する小川淳也総務政務官が発言すると、政権公約になかった住民税での控除廃止が議題に急浮上。27日には古本伸一郎財務政務官の発言で、所得税の特定扶養控除の見直し方針が決まった。
税調メンバー24人のうち、財務、総務両省の副大臣・政務官4人が中核の企画委員を構成。ほぼ毎日顔を合わせて議論を重ねており、「突然出てくるように見える税制改正項目も、4人で入念に役割分担をしながら課題を提起している」(関係者)という。
しかし、政府税調が税制改正の方向を決めても、閣議決定を経なければ正式な政策にはならない。「最終案の決定方法は、今後、議論して決める」(財務省政務三役の一人)というように、新政権でどこまで決定権を握っているかは未知数。首相官邸や与党と、改正内容を巡って対立すれば、政権内の不安定要素になる可能性もある。
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■ことば
法律で定めた税率を一時的に変更する措置。自動車関連4税(ガソリン、軽油引取、自動車重量、自動車取得税)がその代表で、第1次石油危機直後の74年からガソリン税などに上乗せされてきた。民主党は政権公約で自動車関連4税の暫定税率全廃を明記。実現すれば、ガソリンは1リットル当たり25円、軽油も17円税金が安くなり、自動車重量税などと合わせ、計2.5兆円の減税となる。
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◆各省庁が提出した主な税制改正要望◆
要望事項(要求官庁) 内容や目的
・地球温暖化対策税の導入(環境省) 2兆円規模増税で温室ガス抑制
・寄付金税制の拡充(文科省) 所得税の控除で寄付を活発に
・住宅取得資金の贈与税非課税枠拡大(国交省) 非課税枠を4倍の2000万円に
・自治体・町内会の非課税措置の創設(総務省) 地域活動の支援
・試験研究にかかる法人税減税の延長(経産省) 企業の研究開発の支援
・たばこ税率(現行8.9円/本)引き上げ(厚労省) 喫煙率の引き下げ
毎日新聞 2009年10月31日 東京朝刊