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松田喬和の首相番日誌:トップに欠かせぬ平常心

 鳩山由紀夫首相の公邸生活が始まった。ここ20年、大方の首相は公邸住まいを経験している。官邸主導の政治が確立されたことに加え、阪神大震災以来、危機管理が徹底され、トップがいち早く司令塔になる官邸に駆けつけられる利便性が重用されるようになった。

 しかし、通勤時間は徒歩で数分。公と私の区分がつけづらい。そこで引っ越した28日のぶら下がりで「公邸住まいの総理は、平常心、自然体を保つのが難しいが、何か工夫を考えているのか」と、聞いてみた。

 「(公邸では)多くの国民の皆さんに接することができるようなチャンスを十分に作り上げていくことが必要だと思っている」と、鳩山首相は答えた。さらに「松田さんがたにも遊びに来ていただきたい」と、誘われた。

 1月半前、就任後初のぶら下がりで鳩山首相は「ズーッと官邸にいると、窒息しそうな気がする」と、重圧感を口にした。その感覚は依然として強く持っているようだ。30日、東京都内で開かれた会合でも「世の中は官邸と公邸しか見えなくなってしまう。これではいけない」と、あいさつ。自らを戒めていた。

 首相は最高権力者だけに、平常心を失ってはならない。「24時間、総理大臣は総理大臣だ」が持論だった中曽根康弘元首相は「公に奉仕するには、公邸住まいに限る」と力説した。それでも、座禅を組み、週末には私邸に戻り、寄せられた手紙の返事を書き、気分転換に努めた。

 現在の首相公邸は、新官邸ができるまでは、執務や内外からの客を迎える首相官邸として使われていた。それを南に50メートル移動させ、公邸に衣替えとなった。4階建て、床面積は7000平方メートルで、夕食会もできる大ホールも備えている。しかし、居住部分は警備上の理由で非公開になっている。

 麻生太郎前首相は就任から117日後に、福田康夫元首相は110日後に公邸入りした。両首相とも鳩山首相には反面教師的存在。素早い公邸住まいもその延長線上にある。(専門編集委員、64歳)=毎週土曜日掲載

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 ■若手記者取材帳

 ◇ざっくばらん

 「明日から、この間はぶら下がっていいから」。鳩山由紀夫首相は公邸に引っ越した28日夜、帰り際に番記者たちに声をかけた。公邸から官邸まで50メートル程度。そこを歩く間、首相に話し掛けてよいというのだ。

 歩いて移動中の首相に番記者が話し掛ける慣習が禁じられたのは小泉政権以降。それを解禁しようという、鳩山首相らしい画期的な提案だった。しかし、翌朝、番記者が近づこうとすると、警護のSPに制された。

 変革に取り組む民主党政権だが、官邸の閉鎖性はなかなか変わらない。危機管理も大事だが、ざっくばらんさが鳩山首相の大きな魅力。「政治主導」で変えられないことはないはずでは。【山田夢留】

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 ■首相の1週間

 ■10月24日(土)

 タイでの東南アジア諸国連合関連首脳会議で持論の東アジア共同体構想への支持を呼びかける。

 ■25日(日)

 参院補選で2勝。帰国途中の政府専用機内で「改革にまい進する内閣の姿勢を評価いただいた」。

 ■26日(月)

 召集された臨時国会で所信表明。52分間の異例の長時間演説。「首相として何をやりたいか知らせたい」

 ■27日(火)

 女子世界体操メダリストの表敬で、銅メダルを首に掛けてご満悦。「くらま」の事故で対応を指示。

 ■28日(水)

 就任後初の国会論戦となる衆院代表質問。「あなた方に言われたくない」と谷垣禎一自民党総裁を挑発。

 ■29日(木)

 28日に引っ越しを済ませた首相公邸から初出勤。「意外に寝心地が良くてよく寝られた」と満足げ。

 ■30日(金)

 国会答弁の準備で午前6時9分に公邸を出発。2分後に執務室に到着。職住近接の効果抜群?

毎日新聞 2009年10月31日 東京朝刊

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