2週間ほど前のこと。
いつもの美容院に行くとロングヘアの素敵な女性オーナーはお休みで
100kg超級の巨体にタトゥーを入れた、でも笑顔の優しいお兄ちゃんが
「僕が担当させてもらってもええですか?」と迎えてくれた。
「ちょうどええわ。ちょっとムズカシイ注文したいねん…どっからみてもオトコマエにしてくれへん?」
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いろいろと考えたけれど
大峯奥駈道を縦走するには
やはり女人結界を突破して山上ヶ岳を通らせてもらうしかない。
大自然の懐深く分け入っての縦走に挑むのに
温泉街や遊歩道の迂回ルートはあんまりだ。
山上ヶ岳に登ったり
男女平等を訴えたりすることが目的じゃない。
ここは騒ぎを起こさず、さっさと通過させて頂くこととしよう。
だいたい吉野から熊野まで実走34時間のうちの
ほんの2時間の区間なんである。
…ということで
髪を短く切る必要があったかどうかはわからないが
私としては五番関の女人結界の外に女心を置いてきた。
同行のジャッキーの陰に隠れて通るのではなく
堂々と前を走ってみる。
すれ違う人、追い抜く人、
一瞬の後にどんな反応をしているのか気になる。
あとでジャッキーが言うには
「誰一人として訝しがってる様子はなかったで」
わはは。
しかし洞辻茶屋あたりからは参拝登山の人が多くなり
お互いに「ようお参り」とあいさつの声を交わす。
これにはマイッタ。
明るい声で応えるのもはばかられ、黙礼だけを繰り返す。
…うう、ワタシ、ほんまはちゃんと挨拶できる良識ある人間やのに…
ムネがイタイ。
とうとう堪え切れず
この区間だけはジャッキーに前を走ってもらった。
大峯山寺の本堂前ではついに僧侶らしき人と出くわした。
「ここは修行の場、女人が入ることは許されておりません」
もしそんな風に糾されたなら
結界はあなたの心の中に張られてはいかがでしょうと、密かに問答の用意もしていたんだが…
この名言?の出番もとうとう巡ってこなかった。
われながら上出来!と思ってたのになぁ。
たとえ目の前に酒や美食や女性があろうとも
惑わされることなく励むのがホンマの修行ちゃうのん?
…立場を異にする方からすれば、自分勝手な理屈だろうか。
とにもかくにも
なんとも拍子抜けするぐらい何事もなく走り続け
阿弥陀ヶ森で女人結界の外に出た。
私としては緊張したし、自然と走るペースも速くなって
3日間の縦走中、最高心拍数を記録したのもこの区間やった(汗)
あれ?と思っても声もかけられへんぐらい
さっさと走り抜けてきちゃったのかもしれません。
疲れたわ~。
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さて、こんなことをして天罰は下ったか?
ハイ、見事に。
なんとGPSセンサーを紛失!
行者還岳あたりで気がついた。
どこで落したんやろう???
帰ってからグーグルアースでデータを見たら…
女人結界を通過した証拠はしっかり残っていて
そのあと大普賢岳の巻き道あたりでデータが終わっている。
そういえばあそこで転倒したんやった~。
大峯奥駈道に落し物してくるなんて。
スミマセン。
必ず拾いに行きます。
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山上ヶ岳の女人禁制は何も女性差別という訳ではない。
あまりにも険しく、獣も棲む山だから、女性の身を案じてのことだという伝えもある。
そうだろうか。
吉野から熊野まで縦走してみて
本当に険しく恐ろしかったのはすべて山上ヶ岳の他のところだった。
縦走二日目。
私たちは予定の笠捨山まで何とか行かねばと
日が暮れてからもヘッドライトを照らして山道を進んでいた。
突然、前方の繁みでガサガサっと獣の気配。
続いて ううぅ~っ と低い唸り声。
後ろを歩いていたジャッキーが咄嗟に石を掴んで投げつけた。
私は立ちすくんで何もできなかった。
強がって女人結界を駆け抜けてきたけれど
五番関に置いてきたはずの弱い心は
結局自分の中にあった。
結界は己の心の中にこそ。
無事に奥駈縦走を終えて、翌日熊野からバスで帰路に着く。
赤い服着ただけで、また女の子に戻るのね。
わはは。