更新:1月19日 09:45インターネット:最新ニュース
ネットの預言者「ミネルバ」を逮捕した韓国 煽ったマスコミの罪
「たかがネットの書き込み」と笑って見過ごすことはできないのだろうか。韓国社会は今、「ミネルバ逮捕」で大きく揺れている。ポータルサイトDAUMの掲示板に政府の経済政策に対する批判を280件ほど書き込んだ「ミネルバ」というIDの男性が、ついに電気通信基本法違反の罪で緊急逮捕され、身柄を拘束された。1月15日には証拠隠滅・逃走の恐れがあると拘束適否審請求も棄却された。(趙章恩) ミネルバ逮捕に対し、韓国の識者・文化人は「牛も笑ってしまうコメディー」「ミネルバに罪があるとしたら、真実を書いたことであろう」「現実とかけ離れた経済展望で国民を惑わした大統領は罪にならないのか」「私がミネルバだ、私を逮捕せよ」などと、政府の対応を厳しく批判している。 ■逮捕容疑は「虚偽の書き込み」 ミネルバは電気通信基本法47条違反の罪に問われている。電気通信基本法は1983年に制定され、2008年3月まで26回改定された。47条は1996年12月30日に改定された罰則で、「公益を害する目的で電気通信設備により公然と虚偽の通信をした者は5年以下の懲役または5000万ウォン以下の罰金に処する」「自分または他人に利益を与えたり他人に損害を与えたりする目的で電気通信設備により公然と虚偽の通信をした者は3年以下の懲役または3000万ウォン以下の罰金に処する」としている。 今回の逮捕容疑は、ミネルバが2008年12月29日に行った「政府が金融機関と大手企業へ米ドル買いを禁止した」という書き込みは虚偽であり、政府は為替市場に介入していない、というもの。このミネルバの書き込みにより市場には不安心理が広がり、ウォン売り・ドル買い注文が殺到した。検察の発表には、「(虚偽の情報により)外国為替市場と国家信用度に影響を与えた」「政府は為替安定のため約22億ドルの資金を投入するしかなかった」とある。
しかしこの発表そのものが、政府による市場介入の事実を認めたようなものではないか。政府の国際金融担当者も「命令ではないが金融機関と会議を開き、米ドル買いをしないよう電話で協力を求めたことはある」とミネルバの書き込みに信憑性があることを暗に認めている。 さらに、ミネルバが「公益を害する目的」、または「自分または他人に利益を与えたり他人に損害を与えたりする目的」で書き込みをしたという事実はまだ立証できていない。ミネルバを支援する弁護団は「表現が荒っぽいところはあったかもしれないが、誰もが知っている内容と公表されたデータを引用したもので虚偽ではない」と主張している。ミネルバの書き込みに比べれば、アナリストや政府関係者のいつも見事に外れる予測や李明博大統領の「7%経済成長公約」のほうが、よほど事実に反している。 ■「ネット経済大統領」と賞賛してきたマスコミ そもそも政府は、たかがネットの書き込みぐらいで為替市場がパニックに陥ったと本気で言うのだろうか。あのような騒ぎが起きたのは、ミネルバの書き込みを「待ってました」とばかりにそのままコピペして記事にしたマスコミがいたからだ。その記事を引用して海外のマスコミまでもが報道してしまい混乱に輪をかけた。 事実関係を確認することもなく「ミネルバが予言をしてくれた」と書きたてたマスコミ、ミネルバを「2008年を代表する人物」に選び賞を贈ることまで企画していたポータルサイトDAUMの責任は問わなくていいのだろうか。ミネルバ個人だけを悪者にして、生贄にして済ませられるのだろうか。 政府はこれまでミネルバについて何度か言及している。「間違った情報で国民を惑わしているので、本人に会って正しい情報を伝えたい」と、身元を特定済みであることをほのめかす脅しのような発言さえあった。ミネルバの書き込みはものすごいクリック数を記録し、マスコミでも大々的に取り上げられた。マスコミはこぞって「韓国の経済情勢を的確に予測するインターネット経済大統領」とミネルバを称えた。 ここから、ミネルバは個人的な意見を書き込んだ一人のネットユーザーではなく、「預言者ミネルバ」として、存在が巨大になっていった。ネットの掲示板など見ない中高年層まで「ミネルバというすごい人がいるそうじゃないか」と口にするようになり、マスコミ報道を通じてミネルバがどんな書き込みをしてきたのかぐらいはほぼ全国民が知るようになった。 ミネルバを褒め称え有名人にさせたマスコミは、逮捕後は手の平を返したようだ。彼が専門大卒で金融機関に勤めた経験はなく、独学で経済学を勉強し現在無職であることを強調しながら、「31歳ひきこもり経済大統領」「偽者にもてあそばれた大韓民国」などと攻撃している。なぜここで学歴や職業のことを問題にするのか、人権感覚すらそこにはない。 ■「誹謗中傷」とは別問題 ● 関連リンク● 記事一覧
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