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京都議定書に続く地球温暖化防止の国際枠組みを12月にデンマークのコペンハーゲンで開く国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)で合意する。それを目標に進んできた交渉の雲行きが、怪しくなった。
COP15では新議定書の大枠だけ政治的に合意しておき、来年の採択につなげる。そんな見通しを条約事務局が示したのである。
京都議定書の期間は2012年に終わる。各国の批准手続きにかかる時間を考えれば、温暖化防止の国際枠組みを13年から新議定書に引き継がせるには、今年末までに合意しておく必要がある。その交渉スケジュールに黄信号がともったということだ。
最大の障害は、先進国と新興国・途上国の根深い対立である。
温室効果ガスの削減をめぐり、先進国側が「中国などの新興国も努力が必要だ」としているのに対し、新興国・途上国側は「まずは先進国が大胆に削減するべきだ」と譲っていない。
また、オバマ米大統領が現時点で指導力を発揮するのが難しいことも足かせとなっている。議会の反発で温暖化対策法案の年内成立が絶望的という国内事情があり、国際交渉を引っ張ることができていないのだ。
こうした現状では、COP15までに新議定書をまとめ上げることは時間的に難しい。温暖化防止の国際的な取り組みに長期間の空白を生じさせないためには、可能な限りの範囲で政治的に合意しておく方が得策だ。そういう現実論が浮上したといえる。
だが、COP15の重要さは変わらない。新議定書の内容について、できるだけ踏み込んだ政治的な基本合意をつくっておけるかが今後の交渉を左右する。その認識に立って、主要国は歩み寄る努力を続けるべきだ。
課題は多い。先進国の温室効果ガスの削減目標をきちんと示し、新興国・途上国の削減への努力を引き出さねばならない。途上国への資金や技術援助も必要だ。来年への宿題をできるだけ減らさないといけない。
2日からスペインで国連作業部会が始まったほか、アジア太平洋経済協力会議(APEC)や日米や米中の首脳会談などの外交日程が続く。あらゆる機会をとらえ、踏み込んだ政治合意への外交努力を重ねてもらいたい。
最終的には各国首脳がコペンハーゲンに集まり、新議定書の採択に向けた強い決意を示すべきだ。それが政治合意に重みを加えることになる。
特にオバマ大統領と中国の胡錦濤国家主席に出席を強く求めたい。
京都議定書では米国は離脱し、中国も削減義務を負っていないが、両国だけで世界の排出量の4割を占める。日本は両国の積極参加を欧州諸国と共に働きかけるべきだ。
子どもたちにとって一番身近にある豊かな知の世界。それは学校の図書館である。
1954年施行の学校図書館法は、学校図書館を「欠くことのできない基礎的な設備」と位置づけ、小・中・高校に設置するよう定めている。子どもたちは誰でも、学校図書館でたくさんの本を読み、学ぶことができる――ことになっている。
しかし、見過ごせない格差が地域や学校によって広がっている。
まず本の量が不足している。文部科学省は以前から公立学校の規模ごとに図書館の本の冊数の標準を決めている。例えば18学級の小学校では約1万冊、9学級の中学では約9千冊だ。ところがそれに達しているのは小学校で45%、中学校で39%にとどまる。
政府は標準を満たすための支援措置もしてきたが、財政難のなか、本を買わずに別の使い道に充てている自治体も多いのだ。
図書館の質を支える仕組みにも課題が多い。予算があっても、必要な本をきちんと選び管理して、その本を活用する方法を子どもたちに伝える人がいなければ、図書館は本来の機能を果たせないからだ。
ほとんどの学校には司書教諭がいるが、大半は学級担任などのかたわら担当している。ただでさえ忙しいのに図書館に十分な時間を割くのは困難だ。
図書館の活用には専門の「学校司書」という職員が欠かせない。だが、学校司書のいる公立小中学校は4割に満たない。しかも8割は非常勤で時間の制約も大きい。
制度上の決まりがないため立場や仕事内容は、自治体や学校によってまちまちだ。一人でいくつもの学校を掛け持ちで担当するケースや、ボランティア頼りの地域もある。当然、図書館活用の質も利用時間も限られる。本の管理が精いっぱいで、子どもと向き合う時間がないという嘆きも聞こえる。
図書館にいつも学校司書がいて、子どもたちに読書や調べものの指導をしたり、蔵書を授業に積極的に活用する工夫をしたりして、大きな成果をあげている学校は少なくない。図書館を計画的に活用している学校では、学力が向上したという調査結果もある。
現代社会を生き抜くのに不可欠な、正確で役立つ情報を自分で選び取る能力を養う場として、学校図書館の重要性は増している。頭と心を鍛える読書の効用はいわずもがなだ。問題をかかえた子どもが教室を離れて心を落ち着かせ、自分と向き合う場にもなるが、それには見守る司書が必要だ。
保護者の経済格差が広がるいま、政府と自治体は必要な本と専門家の配置を急いで進める責任がある。学校図書館はどんな子どもにとっても平等に有効に開かれていなくてはいけない。