関門海峡での海上自衛隊護衛艦「くらま」と韓国籍コンテナ船「カリナ・スター」の衝突事故から3日で1週間を迎える。第7管区海上保安本部(北九州市)は、事故には複数の要因が重なり合っているとみて、慎重に捜査。乗組員の聴取や航跡データの解析で、三つの「謎」が浮上している。
「(関門海峡海上交通センターの)管制官から左側から追い越せと指示があったから、そうしようとした」。コンテナ船の船長は門司海上保安部の調べに、こう繰り返しているという。
7管などによると、管制官がコンテナ船を誘導したのは事故の数分前。コンテナ船は「了解」と返答した。しかし航跡データを分析すると、コンテナ船は減速したり、左側から追い越そうとしたりせず、前方のパナマ籍貨物船「クイーン・オーキッド」を追いかけるように右後方を2倍以上の速度で航行。貨物船と100メートル以内に接近した直後、左に急旋回し、対向のくらまと衝突した。
コンテナ船長は、運輸安全委員会の船舶事故調査官に「関門海峡は数百回通過した経験がある」と答えている。一つ目の謎として、7管幹部は「航路は熟知していたベテランが、なぜ無理な追い抜きをしたのか」と首をかしげる。
二つ目の謎は貨物船の動きだ。貨物船は交通センターに「コンテナ船に左から追い越してほしい」と要請。管制官から「右に寄ってほしい」と伝えられたが、貨物船は衝突直前まで航路の中央付近を進み続けた。
「前からくらま、後ろからコンテナ船が迫り、身動きが取れなかった可能性がある」。7管幹部はそう推測する。「貨物船は大型。事故当時は夜間で、(浅瀬がある)岸側に寄るのに危険を感じていたのではないか」との見方もある。
もう一つの謎は、交通センターの誘導方法だ。管制官には航法を命令する法的権限はなく「あくまで船長に情報提供し、判断を手助けする立場」(7管)。とはいえ管制官は当時、貨物船とコンテナ船の接近に気付きながら、減速や追い抜きを控えるような助言を与えなかった。ある海運業者は「管制官は船が危険な状態にあることを、関係する船にもっと丁寧に伝えるべきだった」と苦言を呈する。
こうした疑問の声に対し7管幹部は「現場海域は狭く、追い抜きは避けるのが常識。海峡を通過してから追い抜けば問題はなかったのだが…」と話す。
=2009/11/03付 西日本新聞朝刊=