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商業施設新聞
[2007.8.21]
ユニーク商業人列伝 第158回
(株)札幌かに本家 代表取締役社長 日置達郎氏
優雅重厚な店づくりと真の料理を追求
「福岡那の川店」が12月にオープン
新形態の郊外型店舗を展開
(株)札幌かに本家 代表取締役社長 日置達郎氏 食を通じて健康を考え、食の安全を追求する(株)札幌かに本家は、優雅な日本建築の美と重厚さを現代感覚で活かしながら和風レストラン「札幌かに本家チェーン」を運営する。同社創業者で代表取締役社長の日置達郎氏(=写真)は動くかに看板≠考案し、日本で初めてかにの創作料理を提供した人物である。今期は福岡市に新店舗を出店するほか、新形態で郊外型の札幌かに本家のチェーン展開を開始するよう準備を進めている。日置社長に日本の味と心について聞いた。
―― 食と健康を考える、その根幹にある体験は何ですか。

日置 戦後、抗生物質などの特効薬がまだない小学6年生の時、不治の病と言われた腹膜炎を患いました。しかし、家が貧しく入院できないことが分かったので、自宅での食餌療法に賭け完治しました。この時、食べ物に助けてもらったから、食べ物で世の中に貢献しようという思いが芽生え、料理の世界に飛び込みました。だからこそ、現在でも食べることで健康を維持することを強く意識しています。

―― 大自然の中で育ったそうですね。

日置 三重県美杉町の出身ですが、幼いころから父親の炭焼きや伐採木の枝打ち、家畜飼育や野良仕事を手伝う中で、大自然の営みへの感謝の心とそれを活かす術が身に付き、旺盛な好奇心も養いました。好奇心こそ成長の基本となり、アイデアいっぱいのユニーク経営を標榜する、かに本家の精神につながっています。

―― 板前出身だとか。

日置 18歳で板前見習いとしてこの業界に入り、以後、大阪で修行を重ねました。そのかたわら、経営や建築、設計などの知識を独学で身につけながら、夜間高校にも通いました。1960年に大阪でかに道楽の創業に加わり、67年に名古屋へ進出。その後独立し、(株)名古屋かに道楽、(株)札幌かに本家を設立しました。

―― 動くかに看板≠フ印象が強いですね。

日置 料理のかたわら、商いに生かす看板として、私が考案した動くかに看板≠付けて「かに道楽」が誕生しました。現在でも道頓堀のシンボルとなっていますが、動くかに看板≠掲げてから売り上げも伸びました。また、調理分野でも、かにはゆでて食べるのが一般的でしたが、私は焼くことや揚げ物にする工夫を凝らし、日本で初めてかにの創作料理を開発し、メニューに登場させました。

―― 全国で展開しています。

日置 「札幌かに本家」の屋号で名古屋地区の6店をはじめ、東海地区では岐阜、豊橋、豊田、岡崎、四日市、静岡の各市に1店舗ずつ、また札幌に2店、秋田、仙台、福岡に各1店の計16店を擁します。関西を拠点に私の考えたかに看板≠掲げた「かに道楽」を展開する(株)かに道楽(大阪市)とは姻戚関係に当たります。

―― 存在感あふれる美観に圧倒されますが。

日置 店づくりには、「美しさ」「感性」「優雅さ」「創造性」「遊び心」の5つのキーワードが秘められています。動くかにの看板=A洞窟座敷、壮大な滝、京風庭園と床の設置、かにと活魚の生簀などは5つの基本テーマから独自に生まれたものです。それは日本建築の粋を結集した重厚な店づくりで、現代人が忘れかけている日本の心・癒しを表現しようとしています。店舗は複数階による独立店タイプで、収容員数も300〜600人と大型タイプです。
札幌かに本家チェーン「金山店」(名古屋市中区)
札幌かに本家チェーン「金山店」
(名古屋市中区)
―― 自社一貫体制にこだわっていますね。

日置 『携わり、体験する事が知識と力を得る』を合言葉に、社員の創意やアイデアを結集させ、自社設計、直営施工、自社営繕、家具設計などをこなします。私たちは、自らトラックで産地に乗りつけ、けやき、ヒノキ、赤松、杉など原木から銘石まで購入し、飛騨の匠とともに店を作り上げますが、私は木材の目利きはプロ級の自信があります。また、店内で使用する箸袋や器に飾られるかにの絵などは全部、私が描きます。

―― 仕入れ体制は。

日置 ズワイかに、タラバかに、毛かに、これが当社で使用する代表的なかにの種類です。永年にわたって築き上げたノウハウを活かし、苫小牧漁港には活かに3万匹が備蓄可能な海水循環式大規模生簀と仕入発送本部を設置しており、ここをベースにキャリアある仕入部員が北海道内の各地へ飛び、厳選し仕入れを行う体制を採っています。一方、米国からも一部輸入しています。

―― 現場の人材育成にも定評があります。

日置 良い料理をつくれるのは、最高級の素材を活かす調理部員の技術と真心があってこそです。かに本家では、自社ブランドのオリジナルかに料理はもちろんのこと、寿司、活魚料理、会席料理、北海料理、創作料理など日本料理を基礎とした幅広く本格的な調理技術を身につけるため、マンツーマンでの指導を繰り返し行っています。入社後、しばらくは皿洗いをするというようなことではなく、最初から調理場勤務となり実務指導が直ちに行われます。
 また、現場の技術と並行し調理理論や食品衛生学、栄養学といった調理師として必要な知識習得のための少人数ゼミナール形式で講習会を開いており、入社3年目には調理師免許を取得できるよう社内の教育システムを充実させています。さらに、調理技術だけではなく、正しい商売のあり方や新しい時代のレストラン経営なども体験しながら学ぶことができます。一方、接客やフロント業務は当社の顔とも言うべき仕事ですが、エチケットとマナーを自然に身につける環境になっています。

―― 負債の返済を乗り切りました。

日置 バブル期の前には、釧路から鹿児島まで20カ所の好立地な店舗予定地を高値で手当てしていましたが、不採算の店舗と合わせて売り払い、有利子負債を減らしました。バブル崩壊後の地価下落や売り上げの鈍化には苦労しましたが、社員みんなで頑張り、その結果として300億円もあった銀行からの負債を5年間で210億円ほど返済し、今では90億円を切るというスピード返済を実行しました。

―― 福岡の新店舗が楽しみです。

日置 勢いよく多店舗化する体制にはありませんが、今期は福岡市中央区に「札幌かに本家チェーン 福岡那の川店」を新築します。これまでの店づくりのコンセプトを活かし、かにの網元のたたずまいをイメージした優雅で重厚なデザインを採用し、銘石を生かした庭園、かにや魚の生簀なども置きます。建物は5階建てで300人を収容員数となります。投資額は13億円を見込み、今年12月初旬のオープンを予定しています。設計はグループの東海開発(株)が担当しますが、飛騨の大工や地元の職人たちと一緒に作り上げます。

―― 郊外型店舗の展開も視野に入れていますね。

日置 これまでの店舗は、都心部での営業が中心ですが、これからは郊外型の札幌かに本家のチェーン展開にも着手します。店づくりでは、従来の優雅で重厚な店舗デザインを採用しますが、店舗面積はこれまでの半分となる500m²前後でまとめます。また、平均客単価を4000円に抑え、ファミリー層も狙います。1号店は愛知県内での出店を予定しており、現在、用地を選定中ですが、2008年春までにオープンしたい考えです。

―― メニュー開発は。

日置 日本料理を基礎にした、幅広い料理を提供できることが当社で強みであることから、今後はかに料理を強調するだけではなく、マグロ、戻りカツオ、サンマ、ウニなど季節ごとの魚料理をもうひとつの柱にできるようにします。また、これからはメニューに加え、札幌かに本家はかに料理だけではないことを認知していただくためにも、郊外型レストランを積極的に導入していく考えです。 今が旬のメニュー「毛かに姿ゆで」
今が旬のメニュー「毛かに姿ゆで」
―― 回転すしも営業しています。

日置 現在、回転すしバージョンで「本格回転寿司 寿司本家」を名古屋市金山に独立型で1店舗と、かに本家静岡店、豊橋駅前店の中に入居しての計3店舗を運営していますが、多店舗化の考えはありません。

―― 売り上げ状況は。

日置 札幌かに本家は、平均して1店舗の月商が4000万円、年商にして約5億円となります。全社の年間売上高は約86億円で、利益率は9〜10%を維持しています。
(聞き手 長尾伴文記者)

▼(株)札幌かに本家(本部)
〒460-0008 名古屋市中区栄3-8-28 札幌かに本家栄中央店2階 Tel.052-238-2500
http://www.kani-honke.co.jp/
1971年9月設立、資本金9660万円、代表者=代表取締役社長 日置達郎氏、売上高86億円(06年度)、社員数=360人、パート・アルバイト890人