鳩山政権発足後、初の衆院予算委員会が2日始まった。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題など喫緊の課題が論戦の中心となる中で、異彩を放ったのは「この国は何を目指すのか」をテーマにした加藤紘一・元自民党幹事長の質問だった。鳩山政権への追及が甘いとの指摘は当然出るだろうが、政治家同士が理念を語り合うという試みは評価したい。
加藤氏は「日本のアイデンティティーとは何かの議論が大事」と語ったうえで、「国民は『友愛』と言われてもピンときていない」と指摘。鳩山由紀夫首相だけでなく他の一部閣僚にも「友愛」をどう解釈しているかをただした。一方で、首相が所信表明で強調した「新しい公共」との考え方などには賛意を表明、議論を通じて「友愛」の理念を肉付けすることで政権を側面支援している印象さえあった。
とかく新保守主義、市場原理主義一辺倒になりがちだった小泉改革に反対してきた加藤氏には、民主党とは基本姿勢が近いとの思いがあるのかもしれない。しかし、加藤氏が仕掛けた「マニフェストは変更してもいいのかどうか」「そもそも無駄とは何か」といった議論は、政権交代後の日本政治に突きつけられている重要なテーマだ。こうした論戦は与野党の立場を超えて今後も重ねるべきだろう。
ただ、加藤氏の質問は自民党が鳩山政権を攻めあぐねている現状を表すものでもある。
この日、自民党では大島理森幹事長や町村信孝元官房長官らも質問に立った。だが、例えば米軍普天間飛行場移転問題では「関係閣僚の意見がバラバラで閣内不一致だ」「いつまでに結論を出すのか」などと、日米関係の悪化を懸念しながら再三追及したものの、新たな答弁は引き出せず質疑は堂々めぐりだった。
普天間問題では先の代表質問で首相が「今まで10年以上結論を出さなかったのはどの政権か」と自民党を批判したのを意識してか、町村氏が「われわれもきちんと地元との議論を踏まえて、汗を流してきた」と語るなど、弁明とも受け取れる発言もあった。これも直前まで政権を担当していた自民党が攻めに転じ切れない難しさをのぞかせる場面だった。
理解に苦しむのは、鳩山首相自身の「故人」献金問題にあまり時間が割かれなかったことだ。首相が08年に株売却で得た7226万円余の所得を税務申告していなかった問題も明らかになったばかりだ。機会あるごとに政権を厳しく追及するのが野党の責務だ。加藤氏も認めた通り、まだ自民党は「与党ぼけしている」と疑われても仕方がない。
毎日新聞 2009年11月3日 2時35分