水俣病の潜在患者を掘り起こすため、医師や被害者7団体でつくる実行委員会(委員長=原田正純・熊本学園大教授)が9月、熊本、鹿児島両県の不知火海沿岸の住民約千人に実施した大規模検診の分析結果を29日、発表した。未認定の受診者974人中、93%に当たる904人に手足の先のしびれなど、水俣病特有の症状が確認された。
■行政線引きと矛盾
水俣病の症状は、国が「新たな発生はない」とする1969年以降の出生者や、不知火海沿岸地域への転入者など若い世代でも51人を確認。医療費が無料になる保健手帳の交付対象地域外でも、93%に特有の症状があったという。
熊本県水俣市で会見した原田委員長らは「有機水銀の汚染が不知火海全体に広がっていることが確認できた。未解決の人がたくさんいる事実を真剣に受け止めてほしい」と述べ、国による早急な調査を求めた。
調査は9月20日と21日、熊本県水俣市、天草市、鹿児島県出水市など8市町17カ所で行われ、医師約140人が沿岸住民に感覚障害など水俣病特有の症状があるかを診察。2日間で1044人が受診、データの公開を了承した974人の診断結果をまとめた。
国は水俣病の救済対象を公害健康被害補償法に基づく指定地域ないし、医療費が無料となる保健手帳の交付対象地域としてきたが、今回の結果では、上天草市など対象地域外から受診した213人中、199人が「水俣病である可能性が濃厚」とした。
さらに、国は原因企業チッソが68年に有害排水を停止したことを踏まえ、69年以降、水俣市住民の頭髪の水銀濃度が他地域と同程度になったことを例に「水俣病が発生する状況はなくなった」とした中央公害対策審議会答申(91年)を根拠に、水俣病患者の存在を認めてこなかった。
しかし、調査結果では69年以降の出生者、転入者59人のうち、51人にも水俣病の症状が見られたとし、行政の線引きは「非常に不完全」(原田委員長)とした。
調査では、今回の受診者のうち、これまで水俣病の検診を受けたことがある人はわずか11%(112人)だったことも判明。検診を受けなかった理由として「差別を恐れた」が46%の396人、「情報がなかった」が41%の354人いた。
=2009/10/30付 西日本新聞朝刊=