言霊という言葉を時々耳にする。
ことだま…
言葉に宿っているといわれる、霊的な力のこと。
声に出した言葉が、現実に何かしらの影響を与えるのだ。
なので良い言葉を発すると良いことが起こり、またその逆もある。
ちょっとスピリチュアルな感じで、ピンとこないかもしれない。
でも実際、それはあると僕は思う。
言葉の力の凄さを、実際に肌で感じた一人だから、そう言えるのだ。
少しだけお話する。
僕は約1年半前、『ミュージカルテニスの王子様』で俳優デビューをした。
もちろん、厳しいオーディションを勝ち抜いて選ばれた役だ。
受かった時は、嬉しい気持ちが心の底から込み上げてくるのは当然のこと。
しかし、僕にはそれがなかった。
その時行われたオーディションというのは、主人公が所属する味方チームと、その相手となる敵チームを決めるものだった。
ミュージカルは味方チームを中心にストーリーが進み、毎公演ごとに新たな敵チームが現れていくというもの。
なので味方チームに入れば、しばらくはそのミュージカルのレギュラーとして出演が出来る。
逆を返せば、敵チームはその公演一回きり。
当然、僕は味方チームの一員になることを願っていた。
しかし結果は敵チームの一員で合格。
ミュージカルに受かった事はとても嬉しいこと。
しかし理想とは言えない結果にもどかしさがあり、心の底から素直に喜べなかったのだ。
少しの間、色々と考え込んだ時期もあった。
でも結局は、どちらも与えられたチャンスには変わりない。
僕はその一回限りの公演を、心から存分に楽しんでやろうと思うようになった。
僕が演じる事になった役柄は、ちょっと風変わりなキャラクター。
口癖が、
「ラッキー!」
「絶好調!」
などなど…
とにかく無駄に前向きな男である。
とてもじゃないが、落ち込んだままのテンションで出来る役ではない。
僕はそんな彼の、とことん前に向かっていく姿勢に引っ張られ、とにかく頑張って稽古をした。
その前向きなエネルギーを最大限に表現出来るよう、台詞も何度も繰り返し練習した。
「ラッキー!」
「絶好調!」
ポジティブな台詞を連呼した。
しばらくして公演がスタートし、大盛況のうちに僕の初舞台は幕を降ろした。
満足感でいっぱいだった。
やり残した事はないと、自分で自分にそう言えた。
ところが、幕を閉じたかに思えたミュージカルだったが、ないはずの次の公演の出演が決まった。
すごく嬉しかった。
また、あの無駄に前向きな彼を演じられると思ったら、楽しい気分になった。
「ラッキー!」
「絶好調!」
その公演も無事に終わることが出来た。
2度もミュージカルに出演できてラッキーだと思った。
するとしばらくしたら、また次の公演の出演が決まった。
なんかツイてるなーと思った。
また、無駄に前向きな彼を演じられる。
「ラッキー!」
「絶好調!」
その公演も、また大盛況のうちに終わることが出来た。
すると、またまた次の公演も出演が決定した。
まさに運が運ばれている感じだ。
「ラッキー!」
「絶好調!」
本当に楽しかった。
結局、一度きりの出演のつもりが、味方チームのメンバーがミュージカルを卒業する直前まで、一緒に出演させて頂くことが出来たのだ。
これって、当初願っていた事が実現された訳だ。
僕にとって、このミュージカルを通して得たものは計り知れない。
彼と共に、前向きな言葉を連呼し、前向きなエネルギーをいっぱい送る事ができたのだから。
本当に感謝しているし、本当に運が良かったと思う。
彼が連呼する無駄に前向きな言葉…
「ラッキー!」
「絶好調!」
もしかしたら、その言葉が言霊となって、僕自身にツキを回してくれたのかもしれない。
そう思うとなんだか嬉しい気分になるのだ。
ありがとう。
僕は心から彼に感謝をする。