人を笑わせたり驚かせたりするのが、何よりも大好きな性格。
笑いや驚きが取れるなら、体を張るのも苦ではない。
前に舞台の役作りで、頭をマッシュルームカットにした事がある。
お笑い芸人さんに多い、あの髪型だ。
そんな恥ずかしい姿も、僕は逆にオイシイと思ってしまう。
お笑い芸人さんとか俳優とか、カテゴリーの問題ではなく、これはもう性格の問題。
イタズラ好きな、ガキんちょの性格なのである。
つい先日も、このような事があった。
仕事で顔の頬に、特殊メイクで大きなキズを付ける機会があったのだ。
ものすごくリアルな出来具合。
本物のキズは見たことないが、あったら多分こんな感じだろうと想像出来るくらい、リアリティのある生キズだ。
仕事が終わり、次の現場への電車移動。
僕はキズを付けたまま電車に乗った。
もちろん一人でだ。
こんな面白いネタを、この場限りにするのが勿体無いと思ったから。
だから僕は頬のキズというネタを、わざわざ電車に持ち込んでみたのだ。
何もないかのようなシラーッとした顔で。
反射するガラス越しに、周りの人の反応を伺ってみた。
するとすぐに、目を見開いて僕を凝視するオッサンを発見した。
してやったりである。
サングラスの奥の僕の目は、さぞかしエロい目をしてただろう。
まさにドッキリ大成功の気分である。
こーゆーあかの他人との、出口の見えない無言のやり取りって本当に面白い。
情報のやり取りが言葉ではなく、見た目や表情でしかわからない訳だから。
普通の小洒落た格好した今時の若者が、頬に生キズ…
オッサンの想像は膨らむ一方だろう。
そんなオッサンの不思議そうな顔を、コッソリ見てるのが楽しいのである。
あと行き交う人達が、僕を二度見するのも面白い反応だ。
移動中は主にこんな楽しみ方を満喫する訳だ。
現場に着くと、そこからはまた別の楽しみ方になる。
今度はそこに、シチュエーションとセリフをつけるのだ。
ハンカチで頬のキズを隠し、虚ろな目で登場する。
周りの反応は「誰かに殴られたの?」である。
そこで気の利いたセリフを一言。
「やばい…、俺もう芸能界引退だよ」
ここまでだと、まだ周りは事態を把握できてない様子。
そこでキズを一瞬だけ、チラッと見せるのだ。
一同唖然である。
でも僕は、この瞬間が一番面白い。
必死に笑いをこらえなければいけないからだ。
ウチのメンバー数人は何の疑いもなく、目と口を大きく開いてしばらく固まっていた。
素直で可愛いヤツらだなと思った。
だが容赦はしない。
「折れたビニール傘が風で飛んできて…」
実際に雨風の強い日だったので、この理由はしっくりくる。
もうメンバーは、何と声を掛けてよいやらわからない様子。
再度、いいヤツらだなーと思った。
これ以上引っ張ると悪質なので、すぐにネタばらし。
ばらした瞬間の「うわーやられた!」という周りの反応。
この瞬間の僕の目も、してやったりのエロい目である。
本当に質の悪いSな性格だと、我ながらに思うのだ。
まあこの場合は冗談が効く状況だし、楽しかったで終われたのでよしと出来る。
ただ気を付けたいのは、楽しんでるのは結局、仕掛け人の方だけだという事。
自己満な楽しさだという事なのだ。
仮に僕の事を、心から愛してくれる人がいたとしよう。
その人に対し、こんなイタズラをしてしまったら、心をキズ付ける事にもなり兼ねない。
イタズラとはそんな相手の事も、きちんと考えなければいけないものなのだ。
相手選びと状況とタイミング…
こうした要素をきちんと計った上で、実行するのが正しいやり方。
相手の事を考えないやりっ放しのイタズラは、ただのガキんちょのやる事なのだ。
大人のやるイタズラは、相手を思いやる優しさが大前提なのである。