鳩山内閣の最近の出来事で、生活保護の母子加算復活が決まった過程が気になった。満額復活実現を危ぶんだ長妻昭厚生労働相が鳩山由紀夫首相を夜の公邸に訪ねて直訴し、慎重姿勢だった財務省が首相裁定で押し切られたのだという。
この直訴は政府内で一種の「おきて破り」とみられているようで、平野博文官房長官は「もっと現場で詰めてほしい」と苦言を呈した。確かに懸案をいちいち首相に持ち込めばきりがない。だが、問題の本質は「アニメの殿堂より母子加算」(首相)とあれほど強調していたテーマで最後まで調整に動かず、長妻氏を駆け回らせた官邸の感度の鈍さではないか。
そんな訳で「長妻疲労説」を、よく聞く。年金問題以外、所管行政のプロと言えなかっただけに介護、医療、雇用対策とただでさえ広すぎる守備範囲は大変だろう。テレビ出演を控え「検討中」を連発した慎重な滑り出しは、むしろ賢明な選択にすら思える。
だが、このままで乗り切れるだろうか。国会論戦が本格化すれば答弁にも忙殺される。新型インフルエンザ対策は今こそ正念場だ。政治主導のかけ声の下、副大臣、政務官など「政治家不足」にどの閣僚も悲鳴をあげている。とりわけ厚労省の場合、機能不全が国民生活に影響しやすい点に留意すべきだ。
重要な判断に集中するためにも、長妻氏は国会議員の補佐役を拡充すべきではないか。首相補佐官の身分で厚労省に置くなど手はあろう。
答弁に追われる長妻氏が過剰業務を抱え込み、官僚が冷ややかに傍観する……。そんな「政治主導」は願い下げだ。首相は目配りをしてほしい。
毎日新聞 2009年10月30日 東京朝刊
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