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「やっぱり必要!派遣法抜本改正1.15集会−派遣村からの大逆襲−」参加報告

ひらのゆきこ2009/01/18
 越年できない派遣労働者を受け入れた日比谷「派遣村」の成果を受けて、労働者派遣法の抜本改正を求めるシンポジウム「やっぱり必要!派遣法抜本改正1.15集会−派遣村からの大逆襲−」が開かれました。現在の改悪された労働者派遣法は抜本改正しなければ、と参加者は口々に意見を述べました。
日本 雇用 NA_テーマ2
 1月15日午後、東京・神保町の日本教育会館で、労働者派遣法の抜本改正を求めるシンポジウム「やっぱり必要!派遣法抜本改正1.15集会−派遣村からの大逆襲−」が開催されました。主催は「派遣法の抜本改正をめざす共同行動『派遣村』実行委員会」です。

「やっぱり必要!派遣法抜本改正1.15集会−派遣村からの大逆襲−」参加報告 | 会場に駆け付けた国会議員のみなさん(左から管直人民主党代表代行、志位和夫共産党委員長、福島みずほ社民党党首)
会場に駆け付けた国会議員のみなさん(左から管直人民主党代表代行、志位和夫共産党委員長、福島みずほ社民党党首)
主催者あいさつ

 最初に、主催者の鴨桃代さん(全国ユニオン)から挨拶がありました。去年から毎日派遣村に通ったという鴨さんは、今日現在、派遣村の村民が旅館に場所を移していることを報告しました。3日3晩飲まず食わずで派遣村に辿りついた人や、群馬から自転車で走り続けてきた人など、派遣村には500人が集まったそうです。

 自立に向け、一人ひとりが自分の闘いをしていることを感じた、と述べ、落ち着いてきて前を向いている、と語りました。いまでも「派遣村はもうないのか?」という問い合わせが毎日事務局にあるそうです。派遣村を全国につくることの必要性とともに、派遣村が必要な状態をなくさなければならない、と述べ、派遣法の規制緩和が続けられた結果、派遣村を生んだことに言及し、派遣法の抜本的改正を実現するために力を結集することの必要性を訴えました。

 次に、各政党、労働団体、弁護団、「派遣村」村民、他のみなさんからの挨拶がありました。

管直人さん(民主党代表代行)

 1月2日に現地に駆けつけたという管さんは、派遣村の活動を主催し、支えた人、当事者としてやってきた人の勇気と行動力に心からの敬意を表したい、と述べ、派遣村は今年の流行語になるのではないか、と語りました。

 派遣村について、直接的な運動で政治や政策を動かすという、近年まれなケースが現実に進行している、との認識を示し、政策が政党の利害団体とのやり取りで進む傾向があるなか、直接的関係者の動きが政治や政策を動かしたことに対し、「すがすがしい感じを受ける」と語りました。

 1985年に派遣法が成立したときは専門職が対象だったのに、規制緩和の名のもとに拡大し、今回の急激な不況の中で悲惨な状況を生み出した、との認識を示し、3月末の09年問題について言及しました。09年問題というのは、景気の如何にかかわらず年度末に派遣を切る動きがあり、雇用先を失う人が膨大になることが予想されていることから、なにができるのか、緊急な課題に取り組む必要がある、と語りました。

「やっぱり必要!派遣法抜本改正1.15集会−派遣村からの大逆襲−」参加報告 | 派遣法の抜本改正を訴える湯浅誠派遣村村長
派遣法の抜本改正を訴える湯浅誠派遣村村長
 派遣村が1つのモデルになる、とし、全国にシェルターを作り、3月末までに拡充する。総合相談窓口を作り、雇用、住居の相談を受けとめ、中途解約や寮を追い出すといった派遣先の違法行為に対し、現行法では間接的にしか追及できないが、直接的に派遣先に責任をとってもらう。派遣先の仕組みを含め、責任を持たせることは可能であり、予算員会を通してこの問題に取り組みたい、との考えを示しました。

 法改正を野党でまとめて出す。年度末に予想される状態に対処する。派遣村が日本社会に突き付けているのは、感情のない、ただ金儲けの社会がいいのか、温かく助け合う社会の実現なのか、しっかり取り組んでいきたい、との考えを表明しました。

志位和夫さん(共産党委員長)

 志位さんは、派遣村で働く仲間の命をつなぐ活動が社会を突き動かし、行政を動かした、と語りました。大きな取り組みだった、と述べ、ともに連帯し、人間らしく暮らす日本をつくるために頑張りたい、との考えを示しました。今回の問題は自然災害ではなく「政治災害」であり、政治の責任であると断じました。そのうえで、3つの問題について次のように述べました。

 1つ目は、派遣切りで職を失った人すべてに生活するための住居と職業を、最後の一人まで政治の責任でやる。雇用保険の積立金が6兆円余っているので、効果的に使う。未加入の人にこれをしっかり使う。

 2つ目は、これ以上の被害者を出してはいけない。雇い止めなどを救うのは現行法では限界があるが契約途中の解雇は違法で許してはいけない。契約満了の雇い止めも許してはいけない。緊急立法も含め、これ以上、被害を出さないためにやっていきたい。

 3つ目は、2度と政治災害を引き起こしてはいけない。派遣法の抜本改正が必要であり、製造業だけでなく、どんな職業も使い捨ては許さないことで団結していきたい。1999年の大改悪以前に戻す改正が必要であり、野党が力を合わせ、与党にも働きかけていきたい。

福島みずほさん(社民党党首)

 福島さんは、派遣村に1月2日の深夜12時に行ったとき、260人が蒲団を敷いて寝ているのを見て、自然災害などで体育館などに避難している被災者の人たちと同じように、政治災害の被災者だと思ったそうです。派遣を可視化したことの成果だと述べ、今回の問題について次の3つの点を挙げました。

 1つ目は、派遣法の抜本改正が必要であること。通常国会で抜本改正を実現したい。

 2つ目は、社民党と民主党が、派遣は専門職に限る、製造業は禁止する、といった共通の認識を持つこと。民主党内にも企業寄りの人たちがいるかもしれないが、社民党が説得したい。

 3つ目は、共産党と国民新党と社民党の3党が、ポジティブリスト化を共同でやっているので、野党共同で提案したい。与野党の対立で終るのではなく成果を出したい。

 福島さんは、派遣村のすさまじい現実に触れ、励まされ、勇気づけられたことを、1人の個人として感じている、と語りました。共生、助け合い、支えあう。人ごとじゃない。排除型社会でなく、人間をモノ扱いする社会を変えていく。労働法制を変えるのは長いみちのりだが、派遣法の抜本改正を実現する国会にしたい、との決意を力強く表明しました。

鈴木宗男さん(新党大地代表)

 政府は鈴木さんが出した派遣村についての質問主意書に対し、「米国のサブプライムローンが実体経済に及ぼした影響によって起きたものであり、労働法制が原因だとはみなしていない」という閣議決定を経た答弁書を出してきたそうです。鈴木さんは「ふざけるな!」と怒りをぶつけました。

 この答弁書には舛添厚生大臣も署名をしている、国民の目線と乖離している、と厳しく批判しました。野党がまとまり、英知を結集することの必要性や、野党でまとめ、与党を引っ張り込んで「雇用国会」とすることや、国民運動にしていくことの必要性を説いて、政権交代が派遣法の抜本改正の近道で、1日も早く解散に追い込むことが弱者を守る道であることを強調しました。

「やっぱり必要!派遣法抜本改正1.15集会−派遣村からの大逆襲−」参加報告 | 「団結ガンバロウ」で気勢をあげる発言者のみなさん
「団結ガンバロウ」で気勢をあげる発言者のみなさん
連合副事務局長

 連合は雇用の安定をはかるため、経団連に働きかけ、労使共同で協議をすることを取り決めたと述べ、雇用の安定が喫緊の課題であり、非正規労働者についても、連合で努力したい、との考えを示しました。いまの登録型派遣は見直す必要があり、雇用の基本は直接雇用であるとし、生活にかかわる緊急な問題について、すべての労働者の立場から対応していきたい、との考えを示しました。

日本弁護士連合会

 日弁連の中村弁護士は、派遣村は全国の非正規労働者に励ましを与えた、と評価しました。中村さんは、日弁連は派遣法について抜本改正を求める活動をしてきた、と述べ、日弁連が提起している内容について次の8点を挙げました。

 1、派遣対象業種は専門的なものに限定すべきである。
 2、登録型派遣は禁止すべきである。
 3、常用型派遣においても事実上日雇い派遣を防止するため、日雇い派遣は派遣元と派遣先の間で全面禁止すべきである。
 4、直接雇用のみなし規定が必要である。
 5、派遣労働者に派遣先労働者との均等待遇をなすべき義務規定が必要である。
 6、マージン率の上限規制をすべきである。
 7、グループ内派遣は原則として禁止すべきである。
 8、派遣先の特定行為は禁止すべきである。

 中村さんは、去年の10月、日弁連が富山でシンポジウムを開いたとき、現場で働いている派遣労働者の痛切な声を聞いたそうです。「ただ普通に生活したい」そのことさえ踏みにじられていることが、ビシビシ響いてきたと述べ、人権を守る法律家として放置できないと考え、全国一斉の電話相談を受けました。

 法律家や政治家が頑張っている、と語り、派遣法の抜本改正の必要性を強く訴えました。各党の意見に政府の意見が近づいてきたことに言及し、当事者の生の声が政治を動かしてきた、と述べ、市民を促す力は派遣労働者の声であり、抜本改正実現のために頑張りたい、との決意を表明しました。

日本労働弁護団

 日本労働弁団の小島幹事長は、派遣切りの問題について、政府はその原因をサブプライムローンに端を発していると言っているが、それでは世界中で同じような状況が起こっているのか、隣の韓国は派遣村ができているのか、と疑問を呈しました。

 小島さんは、去年、日雇い派遣の問題で韓国の実態を調べるために韓国に行ったそうです。韓国では日雇い派遣の問題は出てこなかったといいます。有期雇用の権利の問題が数多く出ていたが、派遣労働については日本の問題であり、韓国ではポジティブリストが維持されているため、差別は禁止され、派遣期間もきっちり決まっているそうです。

 一部の者たちは労働法を改正すると日本の会社が海外に逃げて行くと言うが、韓国ではサムスンがなくなっていないし、日本ももともと正規雇用であったと述べ、このような主張は抜本改正反対のためにする理由にすぎないと断じました。

 日本労働弁護団は、85年に派遣法が制定された時に反対したそうです。99年原則自由になり、03年に製造業まで広がったときも反対したが、マスコミに取り上げてもらえなかったと語りました。声が大きくなったいまこそ、この問題がみんなに見えているとき、抜本改正をしたい、と強く訴えました。

 日本労働弁護団は、2月27日に法律相談を受けるホットラインをやるそうです。ホームページだけでなく、携帯電話からもアクセスできるようにして、「私たちプロの法律家ができることをやっていきたい。人間らしい、ふつうに働ける世の中にしようと思っているだけ」と語りました。

ホームレス法的支援者交流会

 「ホームレス法的支援交流会」代表の男性は、派遣村の200人が生活保護を申請し、アパートを借りていることに言及し、生活保護は法律そのものであり、派遣村の人が特別ではなく、派遣切り当事者の権利ではない、と述べ、自立をするために、ホームレスの人たちにも同様の法律を適用してほしい、と訴えました。

安部誠さん(派遣法抜本改正をめざす共同行動)

 次に、派遣村開村の経緯について、安部誠さんが報告しました。安部さんのお話によると、派遣村開村について具体的な計画に入ったのは、12月10日過ぎだったそうです。この2年間ぐらい、日雇い派遣やワーキングプアが問題となり、その原因は、99年の派遣法が元凶ではないか、抜本的改正の必要性が底流としてあった、と語りました。

 庶民レベルではなんの実感もなかったが、7月ごろまで日本経済は好況であり、11月ぐらいからサブプライムローンやリーマン破たんがあって、マスコミを中心とした派遣切りがクローズアップされたことを受け、派遣切りについてのホットラインを11月29、30日にやったそうです。2日間で470件を超える相談があり、42%が中途解約だったそうです。これはひどいと思った、と安部さんは語りました。

 有期雇用半年というのは、半年間雇うことであり、それを中途で切って12月のこの寒空に路頭に放り出す。まったく許せないと思った、と憤りをあらわにしました。地方の相談者はとりあえず東京に出る。東京にいけばなんとかなる。12月4日の日比谷での集会のあと、有志が集まって、地方から出てくる人たちのために、年末はなんとかしなければならないと思い、始まったのが派遣村だと語りました。

 派遣村の目的の1つは、派遣切りや期間工切りの人たちは、雇用がなくなるとアパートを追い出されるので、なんとかサポートをしなければならない。2つ目は、続々と東京に向かい、個別にバラバラに行き倒れになっても世間から見えない。これは人災だ。100人の人が100カ所で行き倒れになっても事件にも記事にもならない。目に見える形で世間に訴えなければならない。可視化しなければならない。

 この2つの目的だけで、それから先のプランはなにもなかったそうです。派遣村に登録した人は499名。ボランティアに登録した人は1,674名。登録しないでボランティア活動をしていた人たちもいたので、実際の参加者はもっと多かったといいます。1月5日に派遣村は撤収し、「村民」は病院やホテルなどに移転しました。現在、残った人たちは2カ所に分宿しているそうです。

 290名が生活保護を申請し、全員に支給決定が出ているそうです(すでに200名以上が受給している)。生活保護に対する世間の見方が変わり、家のない人が生活保護受給の対象であり、住まいのない人を受け入れる社会を実現するためにいまの法律のシステムでもかなりできるとの認識を示しながら、派遣村が安心して働ける、安心して生活できる、安心して生きることができる、一助にしたい、との思いを語りました。

「派遣村」村民

 「派遣村」村民の元ゼネコン社員の男性は、派閥問題で会社を辞めたあと、追い詰められ、家庭でも歯車が合わなくなり、12月31日、死を決意して富士の方に行ったそうです。派遣にはなんの関心もなかったが、死を覚悟して行ったある駅のテレビで派遣村のことが映っているのを見て、足がとまったそうです。

 どちらの方に行けばいいのか。ふと我に返って派遣村に向かったそうです。派遣村に着いたとき、38度以上の熱があり、体も弱っていたので、入れるのだろうか、と思いながら、湯浅さんたちと話をしたところ、生きる気持ちや前向きに生きる言葉をいただき、少しでも頑張ってみようかという気持になり、入村した、と語りました。

 「体がボロボロだった私を実行委員の人たちが親身になって世話をしてくれ、いま私はここに立っていられる」と男性は述べ、感謝の気持ちを表しました。男性は派遣を見下していたそうですが、派遣切りにあった人たちといろんな話をして、人間は平等な目で見て、同じ目線で語り合っていかなければいけないと思った、と語りました。

 生活保護をもらい、アパートも決まり、1月20日に派遣村から抜けるが、心の中ではいつまでも派遣村の村民だと思っている、と男性は述べ、「いつか国のための人間になれたら、こういう派遣村をやることがあれば、湯浅さんたちとともに、今度は私が一人ひとりに声かけをして勇気づけ、みなさんの前でいまの自分のように話せる人間をつくっていきたい」と語りました。男性が話し終わると、会場から大きな拍手が起こりました。

宇都宮健児さん(派遣村名誉村長)

 派遣村名誉村長の宇野宮さんは「派遣村の名誉村長となったことに誇りを持っている」と語りました。派遣村の活動を通し、勇気をもらった、と述べ、ボランティアの活動がなければ成功はしなかったと述べ、最後の一人が自立するまで見守っていきたい、と語りました。

東海生活保護利用支援ネットワーク

 東海生活保護利用支援ネットワークの水谷さん(司法書士)は、名古屋の生活保護申請に対する役所の厳しい対応を報告しました。名古屋でも、今後、大量の派遣切り捨てが予想されることから、名古屋にも派遣村をつくりたいのでノウハウを教えてほしい、と呼び掛けました。また、この中で何人か協力していただける方がいればありがたい、と協力を求めました。

シンポジウム

 次に、「派遣切りの実態」「求められる救済活動」「労働組合の役割と存在意義」「労働者派遣法の抜本改正の必要性」などをテーマに、シンポジウムがありました。

 コーディネーターは、棗一郎さん(日本労働弁護団)。シンポジストは、湯浅誠さん(NPO法人「もやい」事務局長、派遣村村長)、三木陵一さん(JMIU書記長)、小谷野毅さん(全日本建設運輸連帯労組書記長)でした。

 最初に、司会の棗さんが、求められている支援活動の中身や、派遣法の法改正に向けた方向性や、派遣切りの被害の実態などについて質問しました。

 湯浅さんは、これまでは見えにくかった「滑り台社会」の実態が、貧困状態が放置され、経済の悪化などによって、滑り台社会の滑り台の傾斜がきつくなったことがはっきりした、との現状認識を示しました。派遣村をつくったことについては、いったんどん底まで落ちてしまうと這い上がることが困難な状況のなかで、這い上がるためのステップを作った、とその目的を語りました。

 雇用保険に未加入の人たちだけでなく、加入していても、支給されるまで自己都合だと3カ月、会社都合でも1ヶ月かかる。その間の生活費をどうするか。つなぎ制度の不備や、生活保護の申請に行っても一人だと追い返されるといった状況の中で、派遣村の外にいる人たちも中にいる人たちと紙一重であり、外にいる人たちはどうでもいいのか、そのことについて政治家を含め、考えていかなければならない、と問題提起をしました。

 派遣村の活動についての労働組合の取り組みについて、小谷野さんは、派遣村の事態は、人間をモノ扱いし、使い捨てる考え方から起きている人災であり、「政治災害」と断じました。また、戦後最大の企業犯罪だと強調しました。01年〜02年に起きたアメリカ発のITバブル崩壊で電気業界はたくさんのリストラをしたが、持参金つきだったと述べ、今回はバサバサ切り捨て放題であり、労働者にとって大変厳しい状況にあるとの認識を示しました。

 また、企業のものの見方も1ヶ月先がわからないといった感じで、日野自動車、キヤノン、トヨタなど、増産していたのが突然、減産し、大量の首切りを行うなど、経営の見通しがなく、自分たちの責任は放置しておきながら、「苦渋の選択」などと被害者みたいな言い方をしていることに対し、厳しく批判しました。派遣村に象徴される状況は大企業がつくり出したものであり、その状況の責任を問うのが労働組合の責任であると強調しました。

 三木さんは、いすゞ自動車のことについて語りました。いすゞでは、昨年11月17日、1,400人の派遣や期間工全員が12月26日付で解雇され、同時に寮を出ていってほしいと言われたそうです。仕事中、1人ずつ呼ばれると、机の上に解雇予告通知の紙が置いてあり、12月26日で解雇だからやめてほしいと言われ、みんな頭の中が真っ白になったといいます。最初に心配したのは、解雇と同時に住まいを失うことでした。

 翌日、有給休暇をとり、不動産屋回りをしたが、ニュースに出たので、いすゞの期間社員だといっただけでアパートを貸してくれない。マスコミが取り上げ、正月明けに出ていけと言っていたのが、3月末までの契約満了までいてよいとなったそうです。12月4日、労働組合を結成し、30名近くの仲間が組合に入って頑張っているが厳しい状況にあると語りました。

 1人70万円程度の退職金を出すので自主的にやめてほしいと言われ、多くの期間社員は70万円をもらってやめて行くそうですが、派遣社員については、一切、いすゞはなにもしていないそうです。組合の人は寮にいる人が多いので、団体交渉で会社に申し入れをし、各派遣社員に特段の配慮をしてほしいといってもらったと語りました。解雇通知のあと、3月まで寮にいてもいいと言ってきているが、会社が合意しないため、期間雇い止めにするといっても雇い止めは許さない。派遣社員についても許さない、と語りました。

 キヤノンやいすゞなど、既存の労働組合はなにをやっているのか、という質問に対し、三木さんは、いすゞの1,400人の解雇問題についていすゞの正社員の労組に見解を求めたところ、派遣については当組合員ではない、裁判で係争中の事案でもあり、組合は専門外なので質問には答えられない、との答えが返ってきたと語りました。

 小谷野さんは、正社員と非正規社員が対立するような運動はしたくない、と述べ、正社員の中にもたくさん情報をくれる人や怒っている人もいる、既存の労組の壁があるが穴を開ける努力を放棄するのはよくない、と語りました。日野自動車も300人の雇い止めがある一方、冬の一時金満額支給といった、がんじがらめの労使間の絶望があり、「正社員が非正規社員のために運動をする。この機会にできなければいつやるんだ」と複雑な胸のうちを吐露しました。

 現在求められる支援活動の中身について、湯浅さんは、どん底に落ちた人が派遣村にきて生活保護を受け、アパートに入り、仕事を次々と決めて行く。下から這い上がるためのシステムとして生活保護制度があり、緊急貸付制度があるが、789人が相談して貸し出したのは10人程度、残りは放り出される現実があることを指摘しながら、3月までのうちにこの状況を少しでも改善しないといけない、と強調しました。

 全国にシェルターと相談窓口をつくるために自治体が動く必要があり、それぞれの自治体に対し、全国のみなさんが求めて始めている、と述べ、この動きに疎い人がいたら、そんなところに税金は払いたくないと言ってほしい、と呼びかけました。派遣法の改正と3月まで期間満了の企業に責任を取らせるのが第一の要望であることを強調しました。

 企業犯罪を犯しておきながら、この間、企業がなにもしていないのはおかしいと訴えてほしい、と呼びかけました。企業は社会的責任をとれ。基金をつくる。派遣元をギリギリ締め付けて安く労働させる脱法行為や、雇用保険にも未加入。企業が得している。利益をたくさん得て、都合が悪くなると切り捨てる。いつまでもこんなことがまかり通ることは許されない。

 労働法の抜本改正。滑り台に階段をつくる。止まる階段をつくらないと不安定さはやまない。派遣村ができるようにならないような社会システムをつくらなければならない。セーフティネットは車の両輪であり、社会システムをつくっていく必要がある。

 企業はなんのためにあるのか。ただ人の群れなのか、という話になってくる、と湯浅さんは述べ、派遣村を一時の特別のこととしてゼロにするのか。それとも、2歩目、3歩目と積み上がっていくのか。今回の成果を全国に広げていくことができるかどうかにかかっており、村民だけでなく社会全体で、政治全体で取り組むべき問題であることを訴えました。

 市民運動の力強いメッセージを労働組合はどう応えるのか、という質問に対し、小谷野さんは、自治体が敏感に動いており、また、地元のアパート持ちの人が無償でアパートを貸してくれたり、匿名の市民が100万円を市役所に寄付してくれたり、高校生が街頭募金をやったり、市役所の窓口に募金の箱を置いてほしいといった市民の声があるなど、派遣村を受けた社会の流れが全国で生まれている、と語りました。

 8つの労組が新年の挨拶に経団連に行き、御手洗会長に公開質問状を渡したそうです。大企業はなにもしないのか。企業犯罪の尻拭いを税金でやっている。企業の中と外で労働組合が動く社会的パワーがある。トヨタは期間工の寮、大分のキヤノン。喧嘩を売ろうとしていったのではなく、民間のアパートを借りて企業が無償提供することなど、外と内側から攻める手法で、「お願い」にあがったと語りました。

 大企業は3兆円の内部留保があり、少しぐらいお金を出しても罰はあたらない、と述べ、企業は自発的にお金を出さないので労組が出させる。また、定額給付金を集め、全国的な国民的運動にしていくことや、政党は緊急立法をつくるなど、できることをただちにやることが肝要であり、大企業はお金を出すのが一番いやなので、お金を出させる仕組みをつくることが必要だと強調しました。

 三木さんは、大企業というのは自ら労働者の権利を守ろうとは動かない、と述べ、いすゞは24日の解雇通知の後、雇用を守るために最大限の努力をするという言葉は絶対に入れないし、努力するという言葉も入れないと語りました。新春インタビューでいすゞの経営者は1,400名の解雇については一言もふれていないそうです。

 どんなことを言っているかというと、過去との比較をせず、他人と比較して自分を嘆いてもなにも変わらない、日々の喜びを見出してほしい、などといったことを言っているそうです。三木さんは、これが企業の経営者の常識、と述べ、企業の意思に任せていたら何もできない、と断じました。

 法的規制が必要であり、労働者派遣法の抜本改正と緊急立法を成立させる。労働組合、地域、世論による規制追及。いすゞ労組の組合幹部は、自分たちの職場から絶対派遣切りを許さない、春闘を闘おう、と声をあげる。1つ1つの職場から積み上げ、政治を動かしていくことが労働組合に求められている、と訴えました。

 派遣法の抜本改正の方向性について、湯浅さんは、派遣という働き方は例外であるが、それが例外でなくなったと述べ、案の定、大きな混乱があったと語りました。やっぱりやっちゃいけなかったことがはっきりした、と述べ、ニーズがあるんだと、犬や猫のように扱われても、欺瞞的自己責任論で片づけられてきたことを一番の記憶として何年も忘れないことが大事だと強調しました。

 小谷野さんは、派遣法を改正して99年に戻し、登録型というたわけた制度をやめる。この2つだけはなんとかすることを強く訴えました。派遣村のことがあって派遣労働者の残酷さがわかったが、登録派遣は派遣労働者が望んでいるというのはデマであり、多くの人たちは正社員になることを望んでいることがアンケートの結果などからわかると語りました。国会で議論を反映し、自民と公明の与党にも働きかけ、成果を得ることの必要性を訴えました。

 三木さんは、いすゞの問題について、派遣労働者に対して損害をあたえたことに対し、法的手続きを準備していることを明らかにしました。派遣先にどれだけ責任を追及できるのか、派遣先の大企業に迫っていきたい、と述べ、団体交渉権を確立することが大事だと語りました。派遣労働者が組合を作っているが、派遣先から交渉を拒否されており、連合や全労連など、大同団結して世論を喚起し、訴えていくことが必要だと呼び掛けました。

中野麻美さん(弁護士/派遣労働ネットワーク)

 最後に、派遣労働ネットワークの中野麻美弁護士が、「労働者派遣法の抜本改正を求める意見」を述べました。中野さんは、現在の状況について、労働者派遣制度が破たんしている、との認識を示し、その理由として、「労働者派遣事業の破たんを示す派遣切り」「登録型派遣の矛盾を最大化した日雇い派遣」「法制度の構造的矛盾を示す違法派遣」の3点を挙げ、それぞれ論証しました。

 また、労働者派遣法の基本設計上の瑕疵について、その理由を3点挙げ、労働者派遣法は職業安定法44条の労働者供給事業の例外として一定の範囲に限定して認められたが、規制の枠組みに違反した労働者派遣の法的効力と関係者の責任を明文化しなかったことや、登録型派遣を認め、原則自由化したことや、労働者保護には問題がありすぎるもともとの法律の欠陥によって矛盾を最大化したことなどの論証を試みました。

 さらに、基本設計上の瑕疵の修復は不可欠であり、製造業派遣の禁止では問題は解決しないことを指摘しました。瑕疵の修復について、次の4つの点を挙げました。「派遣先の『みなし雇用責任』」「登録型派遣の原則禁止と労働者の雇用安定確保」「派遣元の独自性と雇用責任を全うできない派遣契約の締結禁止」「派遣労働者であることなどを理由とする差別禁止と均等待遇保障」

 中野さんは、派遣労働者に機能するセーフティネットについて、次のように提言しました。「派遣労働者については、使用者都合による雇用の打ち切りでも失業給付の受給に1か月の待機期間をおかなければならない。住所を失ったときには、失業給付の受給はできない。2週間に1回の賃金支払いが一般の派遣労働者にとって、1か月の待機は死活問題である。誰にも、どんな形態で働いていようと、雇用を失ったときには生活の保障が得られ、次の仕事にアクセスすることが可能な雇用保険制度の確立が不可欠である」

閉会のあいさつ

 全労協の遠藤一郎さんが閉会のあいさつをしました。「派遣の大逆襲がはじまった。企業の責任を追及する声が日比谷から全国に広がっている、闘いはこれからが本番。当たり前のことを当たり前にしたい。職と屋根を政府と企業に保証させる。派遣法の抜本改正と3月に向けて緊急立法を成立させる。反貧困運動と労働組合と一緒に行動し、両者の結合をさらに深める。潮目は変わった。反転行動にしていきたい」

 最後に、参加者全員で「団結、ガンバロー」をし、閉会しました。主催者の発表では、この日の集会参加者は400名を超えました。

筆者の感想

 マスコミもたくさん詰めかけ、会場は大変な熱気に包まれていました。死を決意して富士に向かったという「派遣村」村民の男性は、たまたま見たテレビで「派遣村」のことを知り、死を思いとどまったということです。3日3晩、飲まず食わずで派遣村に辿り着いた人や、群馬から自転車で走り続けてきた人などの話を聞くにつけ、生活苦などで年間3万人以上の自殺者がもう何年も続いているのに、なに一つ解決策を示さず、放置している政治の不在に、いまさらながら怒りがこみ上げてきました。

 選挙対策のバラまきだと批判されている2兆円の給付金問題については、多くの人が反対しています。そのようなお金があるなら、雇用対策や社会保障や年金のために使え、と思っている人も多いと思います。国民の思いと政治の乖離は絶望的ですが、この日も、公明党からのメッセージはあったものの、集会に政権与党の自民党と公明党の国会議員の姿はなく、「派遣村」が突き付けた問題についての認識が十分受け止められていないとの感想を持ちました。

 政治の無策と、有り余るほどの内部留保がありながら派遣労働者の人たちを無慈悲に切り捨て、この寒空に放り出す大企業の非人間的な行為に異議を唱えるためにも、派遣法の抜本改正は不可欠であると思いました。

ご意見板

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[40406] 「良き日本の所作」
名前:浜地道雄
日時:2009/01/18 20:11
(雑音:怒らないでください)


パネリストの写真を見て驚きました。
お茶がペットボトルのまま置いてある。
(コップが用意されてない!)


つまり、舞台の上、聴衆の面前で「ラッパ飲み!」


今や、電車の中、巷(ちまた)でも若い人には
何でもない普通の光景になってしまった。
そういう世相になってしまった。


言いがかり的にいえば、(日本の雇用システムを
はじめ)「良き日本の所作」が失われて
しまった。
[返信する]
[40403] 「立法時」には?
名前:浜地道雄
日時:2009/01/18 18:48
じっくり拝読しました。


熱気が伝わってくる一方、私は今回の問題を「『派遣契約』はサービス契約であり、『雇用契約』とは違う」という視点でとらえてます。
(前者は会社の調達部の管轄で後者は人事部の管轄)


だから、不況時にこうなる(=サービス契約を打ち切る)という
「派遣契約の危険性」は田中良太記者の
【大気圏外】派遣拡大を容認したメディア にてもコメント[40049]したごとく、立法時(86年=13種のみ、99年コペルニクス的転換、04年製造業も)から自明とかんがえます。



過去のそれらの(立法)時点で、関係者は「問題提起」をしたのか?という点
で本記事から、下記、3点が特記されます。


一番は:日本労働弁団の小島幹事長: 
「日本労働弁護団は、85年に派遣法が制定された時に反対した。99年原則自由になり、03年に製造業まで広がったときも反対したが、マスコミに取り上げてもらえなかった」


次に安部誠氏(派遣法抜本改正をめざす共同行動):
「この2年間ぐらい、日雇い派遣やワーキングプアが問題となり、その原因は、99年の派遣法が元凶ではないか。」


3番目は湯浅誠派遣村村長:
「派遣という働き方は例外であるが、それが例外でなくなった。案の定、大きな混乱があった。やっぱりやっちゃいけなかったことがはっきりした」


「経営者側、雇用者側がけしからん」「抜本的改正」というのは気持ちの上はよくわかりますが、一方的な話ではなく、「やっぱりやっちゃいけなかったんだ」「立法時にわれわれは何を考え、どうしてたのだ」「(マス)メディアはどうだったのか」というのが帰結するところ。
(福島瑞穂さんはじめ、弁護士というプロがいるのだから)この原点にたたないといけない。


関連で言えば、福島瑞穂さん(政治家としての魅力を個人的には感じますが)は京品ホテルにも
励ましに来られた由。弁護士の彼女にすれば下記拙稿の法的見解(不安)は胸に秘めておられるだろうと(勝手に)推測してます。
http://www.news.janjan.jp/government/0812/0812234065/1.php



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[40392] 社民党は自分のところの党職員を助けるべき
名前:新井秦基
日時:2009/01/18 11:34
社民党は、財政難から党職員を解雇して裁判沙汰になってたはず。
福島さんやその他の幹部の給与を減らしてでも党職員の雇用を確保すべきでは?

「自分達は大もうけしたい、ワークシェアリングしたくない。大企業はワークシェアリングしろ」なんて説得力ないですよ。
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10月19日〜10月24日 

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