ヘイル・トゥ・ザ・シーフ(2003):サマーソニック2003来日公演レポート
2003 SUMMER SONIC 東京公演ライヴ・レポート!(2003/08/03)
レディオヘッドのサマーソニックでのライヴの反響は未だ大!その東京の模様を改めてちょこっとご紹介。
一杯のマリン・スタジアムにゆるいレゲエが響く。もうすぐレディオヘッドのライヴが始まろうとしている。
音が止まって一瞬の静寂の後、強いビートが鳴った。メンバーの登場である。すさまじい歓声の中5人が登場。トムは黒い半そでシャツに白いパンツ姿。そして1曲目“ゼア、ゼア"が始まった!
“ゼア、ゼア"の冒頭は、なんと3ドラム! フィルのみならず、エドとジョニーも太鼓を叩くのだ。この異例なフォーマットでの出だしは鮮烈。曲が盛り上がるに連れ、途中でジョニーはギターを持ち、曲は更なるクライマックスへ。今回のアルバムは「ライヴ感」を生かして制作されたから、『キッド A』『アムニージアック』のように「あの音が一体どうやって再現されるのか?」といった驚きはあまりなかったかもしれない。しかし、こうやって見ると勿論その音も再現のされ方もアルバムのものとは異なって生々しく「ライヴで目にしている!」というスリリングさが充分感じられる。
続いて“2+2=5"。3曲目はちょっとスロウ・ダウンして“モーニング・ベル"。ステージ中央にだされたキーボードにトムが向かい、後半静かに力強いリフレインが響く。そして“エグジット・ミュージック"。出だしはトムがギターで弾き語りだ。それでもものすごいひきつける力がある。アコースティックで弾き語りでも大観衆をひきつけられるというのもレディオヘッドの底力を感じさせる。ジョニーが持ったラジオからきれぎれに日本語のアナウンスが響く。そう、“ナショナル・アンセム"の始まりだ。トムは目を閉じて踊り始め、途中からいっそうその動きは激しくなった。そして跳ねながらギターをとりにいく。そしてアブストラクトにかき鳴らされるジョニーのギターと強いビートの中でトムは更に踊り続け、やがて静まった。
“バックドリフツ"を経て“スイット・ダウン、スタンド・アップ"。エドの低いコーラス。トムははじけるようにピアノから飛び出してマイクをつかんで踊りながら歌ってクライマックスへ。エドのギターのイントロに観客が沸く。“ノー・サプライゼス"だ。ジョニーが身をかがめて鉄琴を叩く姿もおなじみだ。曲の終わりでトムが「ドウモアリガトウ」と言った。続いて“ボーンズ"。それから“キッド A"。
"キッド A"はアルバムよりライヴの方が力強く、ジョニーがピアノを弾き、トムが踊る。続いてニュー・アルバムからのセカンド・シングルに決まっている“ゴー・トゥ・スリープ"。終わりに向けて加速するジョニーの鬼気迫るギタープレイが見ものだ。トムが「READY?ドウゾ」といって“ジャスト"が始まる。観客から大歓声だ。曲の終わりでトム「ドウモアリガトウ。アツイデスネエ」と。
“ア・パンチアップ・アット・ア・ウェディング"。ゆるーいリズムで演奏が始まり、トム歌い始めたが、途中右手をあげて演奏をとめた。「バックストリングをチェックしてくれ」とかいっている。気が付くとステージの右に三日月が出ていた。ステージ左には時折飛行機が姿を見せる。いい感じだ。ちょっとして、演奏再開。観客から歓声。
次は“パラノイド・アンドロイド"。イントロで既に大歓声だ。激しいビートが鳴って“イディオテック"が始まる。前回のツアーでもショウのハイライトの1つとなったこのナンバー。トムは体中を使ってはじけるような踊りを爆発させる。本当に楽しそうだ。ステージの中央にキーボードがだされ、トムが座る。“エヴリシング・イン・イッツ・ライト・プレイス"。前回のツアー同様、本編の最後を飾ったのはこの曲だった。
今回、ライティングも前回よりさらにパワーアップ。
同じライティング・エンジニアなのだが、「今回は前よりスゴイよ、楽しみにしてて」、といわれたが、確かに前回より数段豪華なライティングで、シンプルながらどの曲にもゴージャスといっていいほどのまばゆさをときに激しく、時に繊細に与えて、バンドの演奏をひきたてていた。曲との一体感は見事。この最後の曲でもその効果が遺憾なく発揮され、まばゆい光の中で、やがて手拍子が起こり、トムはキーボードから立ち上がってゆっくりとステージを歩きはじめる。端までいって何かを確かめるように立ち止まり、笑顔をみせて、反対方向へ走り出した。そして反対の端までいって軽く右手をあげ、それからステージ中央に戻り、もう1度右手をあげてステージをおりていった。いつものように演奏しながら1人ずつがステージを降りていく。フィル、コリン、そしジョニー。最後にのこるのはエドだ。ステージの上で一人座ってノイズを作っていたが、暗い中、エドもやがておりていった。
ステージ正面の照明には
“FOREVER"の文字が何度も流れては消えていった…。
鳴り止まない拍手の中、アンコールが始まった。 1曲目は“ピラミッド・ソング"。青い照明、PVのイメージとあいまってまるで海の中をただようようなデジャヴを与える。続いて“ア・ウルフ・アット・ザ・ドア"。トムの黒いシャツが背中にべったりと張り付いている。汗がすごいのだ。フィルの白いジャケットも…いや、全員すごい汗だくだ。そして“カーマ・ポリス"。コーラスが何度もこだまする、いつ聞いても感動的だ…などと思っていたら、いつまでも5人がステージを降りるそぶりをみせない。予定していた曲は全て終ったのに? 何度も観客に勢いよくおじぎするトム。その姿に歓声があがる。「まだ何かやりたそうですね…」などと隣にいたスタッフの方と言っていたときにあのイントロ…! 観客から悲鳴のような歓声があがる。そう“クリープ"……レディオヘッドの初期のキャリアを決定づけたあの曲が突然演奏されたのだ。日本では98年の1月、赤坂ブリッツで1日だけこの曲が演奏されているが、実に5年ぶり。アリーナ中から上げられた手、手、手の波。あの壮観さは言葉に尽くせない。とっさに愛だ、と思った。バンドから観客への愛がそこにあると本当に実感した。普段やらない、やりたいとは思っていないあの曲を、今、ここでやるのは。演奏が終って、笑顔でステージを降りてくる5人。スロープを軽やかに走り降りて去っていった嬉しそうなトムの姿が印象的だった。
ライヴ後、ホテルのバーでコリンは「今日はリラックスしてたし、5人の間のコミュニケーションも本当によかった。バンド内のコミュニケーションがいいと観客に集中できるんだよね」といい、さらに「僕らが演奏した後で、来た人が少しでもよりハッピーな気持ちになってくれるとしたら、バンドとしてこんなに嬉しいことはないんだ」と語っていた。トムもエドも「今日はリラックスしてやれたし、本当に楽しかった」と語っていた。そしてその晩、いつまでも熱っぽく音楽のことなどを楽しげに語る5人の姿があった…。