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雑誌もネットで有料配信 出版各社、共同サイト試み

2009年10月19日

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 パソコンや携帯、専用端末で、様々な雑誌の記事を購読して読む。そんな雑誌コンテンツの有料配信を目指し、大手や中小の出版社などが力を合わせ、共同サイトをつくる試みが始まっている。実証実験に向けて本格的に動き始め、2年後の実用化を目指すが、著作権問題や有料配信のビジネスモデル作りなどハードルは多い。

■実用化へなお課題も

 日本雑誌協会(雑協、東京都千代田区)の中のデジタルコンテンツ推進委員会が「雑誌コンテンツデジタル推進コンソーシアム(共同事業体)」を立ち上げたのは、今年8月。既に集英社や講談社など45社が参加を決めている。

 活字情報のデジタル化には、国際的には米グーグルによる書籍の全文ネット検索サービス、国内では国立国会図書館による蔵書のデジタル化という流れがある。いずれも単行本などが主体だ。それに対し、雑協の試みは、権利関係が複雑で、発行のサイクルが速い雑誌に特化した点で、活字デジタル化の新しい流れとして注目される。

 きっかけは、昨年11月に東京で開かれた「アジア太平洋デジタル雑誌国際会議」だ。各国の参加者から、ネットを活用した新たな雑誌ビジネスの実例報告が相次いだ。折しも、世界的な大不況で広告収入は激減。推進委員会の大久保徹也委員長(集英社)は「業界全体に『デジタルをしっかりやらないと雑誌に未来はない』という共通認識が生まれた」という。

 コンソーシアムでは、課題ごとにワーキング・グループ(WG)を発足させた。

 特に重要なのが、著作権や肖像権などの許諾を処理する「ライツ問題」。たった1ページの誌面にもカメラマンやライター、モデル、ヘアメーク、スタイリストなど、多くのスタッフがかかわるのが雑誌の世界。ライツのWGをまとめる廣田浩二さん(講談社インターナショナル)は、「彼らの権利をデータ化された情報としてどう流通させ、使用料の配分を行うか。作業量もコストも膨大なものになる」と語る。

 多様な権利者の同意を得ながら「課金=配分システム」を根づかせるのも難題だ。今月、IT関連会社がネット上で雑誌を購入・閲覧できるサービスを開始。雑協が「権利の侵害」として中止を求める騒動が起きた。「著作権者や出版社の権利を守ることがベースにないと、(業界全体が)グチャグチャになってしまう」(大久保委員長)。一企業の努力ではなく、出版業界全体での取り組みが必要なことを印象づけた。

 コンソーシアムでは、出版業界統一のガイドラインや契約書、配分システム「デジタルライツステーション(仮)」などの案を早急にまとめる予定だ。

 利用者側の意識も、大きな壁だ。「『インターネット=無料』というのが、これまでの世界中の共通認識。出版社側も、それを覆すビジネスモデルを今まで提案できずにきた」と、雑誌コンテンツ専用デバイスのWGをまとめる丸山信人さん(インプレスホールディングス)も認める。

 今後、出版業界がデジタルビジネスのノウハウを蓄積、ネット企業と対等で前向きなパートナー関係をいかに築くかが鍵となる。さらに、「雑誌情報のアーカイブ化によって新たなユーザーを開拓する中で“優良な情報は有料で”と、社会全体にご理解いただけるようにしていきたい」と丸山さんは言う。

 また、出版取り次ぎを経て書店販売をする、既存の出版流通システムとの共存をどのようにはかるのかも課題だ。

 推進委員会では、既に総務省の「ICT利活用ルール整備促進事業(サイバー特区)」の予算を獲得した。「MORE」(集英社)や「CanCam」(小学館)など有力女性誌のコンテンツも活用しながら、来年1月から2月にかけて、雑協のホームページで公募した1500人のモニターによる実証実験を行う。2年後にはネット配信の実用化を目指す予定だ。(竹端直樹)

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