日本で2番目に短い鉄道で、御坊市を走る紀州鉄道(2・7キロ)のディーゼルカー「キハ603」車両が10月25日、老朽化などで定期運行を終えた。ラストラン当日は、別れを惜しむ市民や鉄道ファンらが乗車したり、沿線で記念撮影を行うなどして大にぎわい。事前に終了を知ったファンや経済関係者らは存続を求めて会を立ち上げた。安全面などから再運行の実現は難しいが、市民やファンの願いは日に日に高まっている。【山中尚登】
キハ603は、市民の足としてだけではなく、緑色とクリームのツートンカラー、板張りの床のレトロな内外装で田園地帯を時速約20キロでのどかに走り、御坊市の観光の目玉にもなっていた。
同鉄道によると、キハ603は、1960年8月に新潟県で製造。74年まで大分交通の車両として使われ、76年から紀州鉄道での運行が始まった。全長18・5メートル、重さ26トン、定員112人。大きな特徴は、運転席が前後についている点。単線でも切り返しなしで運行できる。運行終了日は上下計16往復で、延べ約700人が乗車。通常は別車両を含めても1日平均約250人だ。
今回の運行終了は、製造から49年を迎え、車体にさびが目立ち、修理するにも部品の調達が難しくなったため。交換用部品はほとんどなく、すべて特注扱いになる。部品によって異なるが、通常価格の3~10倍。部品代に加え、6年ごとの定期検査に数千万円の費用もかかり、維持するだけで経営を圧迫する。
終了前の9月には、同鉄道とキハ603の存続を求める有志市民らの「地域と紀州鉄道を元気にする会」(岸田秀信代表)の懇談会が開かれ、同会側から「キハ603を一時休車扱いにして国へ補助を申請し、足りない分は市民らから募金を集めて運行を続けてほしい」と提案があった。
しかし、同鉄道側は「公共交通機関であり、安全が第一。老朽化しており、これ以上走らせて、もしも事故などが起きたら取り返しがつかない」などと慎重だ。
毎日新聞の取材に対し、国土交通省鉄道局技術企画課は「休車扱いにし、その後運行再開はできる。しかし、休車中でも2年や4年ごとに定期検査を受けなければならない。また、休車中に手入れしても車体の劣化は避けられず、人を乗せることを考えるとあまり良くない」と説明した。
岸田代表は「存続を目指して努力してきたが現状は運行再開は難しい。せめて車体を保存し、駅などに展示して見学できるようにしてほしい」と話した。
最終運行に夫婦で乗車した御坊市の元会社員、田中淳一さん(62)は「通勤で利用していました。いろいろな思い出があり、寂しいですが、鉄道がなくなるわけではないのでこれからも利用させてもらいます」と語った。
紀州鉄道は、千葉県の第三セクター芝山鉄道(2・2キロ)に次ぎ2番目で、私鉄では1番短い。
毎日新聞 2009年11月1日 地方版