勝つのが難しいと言われる医療過誤訴訟で大学病院に勝訴した世田谷区瀬田の林正守さん(72)と妻信子さん(86)が「毎日つけていた日記が裁判で役に立ちました。医療事故に遭ったら克明な記録を取ることが大事です」とアドバイスしている。
歯科医だった信子さんは01年2月、都内の大学病院で脳動脈瘤(りゅう)の手術を受けたが、左半身まひなどの後遺症が残り、自宅で開業していた歯科医院の閉鎖を余儀なくされた。
正守さんは直後から日記を付け始め、医師の説明や術後の経過などを記録した。日記は便せん4冊に及び、「あってはならないことで本当に申し訳ない」「リハビリは責任を持ってやります」といった医師の言葉なども記されている。
林さん夫妻は02年12月、病院側に約1億1900万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。病院側は責任を否定し、1審は敗訴。医療過誤に詳しい別の弁護士に依頼して臨んだ控訴審で、東京高裁は08年2月、「医師が血栓溶解剤を早期に投与しなかったため脳梗塞(こうそく)が拡大した」と認定して550万円の支払いを命じる逆転判決を言い渡し、今年4月に最高裁で確定した。
最高裁の統計では、08年に1審判決が言い渡された医療関係訴訟で原告側が勝訴した割合は約27%に過ぎない。正守さんは「日記が立証に役立ったと弁護士からも感謝されました。できるだけ克明に記録することが有効だと思います」と話している。【森本英彦】
〔都内版〕
毎日新聞 2009年11月1日 地方版